順番がきて
名前を呼ばれて立ちあがったけれど
なんて言えばいいのか、なにを言えばいいのか
わからなくって、ぼくはだまったまま
(だまったまま)うつむいて立っていた。
しばらくすると
後ろから突っつかれた。
突っつかれたぼくの身体は傾いて
一瞬、倒れそうになったのだけれど
身体を石のように硬くして(かた、くして)
傾き(かたむき)ながらも立っていた。
(教室の隅にある清掃用具入れの
ロッカー、そのなかのホーキも傾いているよ。)
先生が、すわりなさいとおっしゃった。
後ろの席の子が立ちあがった。
ぼくは机のなかに手を入れて
音がしないように用心しながら
きょう、配られたばかりの教科書を
一ページずつ繰っていった。
見えない教科書を
繰っていった。
……級友たちの声が遠ざかってゆく
遠ざかってゆく、遠くからの、遠い声がして、
ぼくは窓の外に目をやった。
だれもいない(しずかな)校庭の
端にある鉄棒に(きらきらと)輝く
一枚の白いタオルがぶら下がっていた。
ぼくのじゃなかったけれど
あとでとりに行こうと
(ひそかに)思いながら
見えない教科書を繰っていった。
だれかが
下敷きに光をあてて
天井にいたずらし出した。
ひとりがはじめると
何人かが、すぐに真似をした。
天井に
いくつもの光が
踊っていた。
ぼくは、教科書を逆さに繰っていった。
光が踊るのをやめた。
ぼくの列が最後だった。
先生が出席簿を持って
出て行かれた。
新学年、新学期
はじめてのホームルーム。
春の一日。
まひるに近い
近い時間だった。
作品データ
コメント数 : 12
P V 数 : 694.1
お気に入り数: 1
投票数 : 4
ポイント数 : 0
作成日時 2024-10-01
コメント日時 2024-10-12
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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可読性 | 0 | 0 |
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技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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エンタメ | 0 | 0 |
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音韻 | 0 | 0 |
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閲覧指数:694.1
2024/11/21 22時22分33秒現在
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イメージが重なり合う。時間軸のズレ。この詩は白い羅紗に暈かされている。いい。
0アラガイsさんへ お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
0視覚的に訴えてくるものはなんだろう。 言葉から広がる、あの教室の空気感。 まるで幻のようでいてリアルな懐かしい情景の詩ですね。
0描写の順番が、とても適切で、言語に誠実な結果かなと思いました。一人の人の意識が、 透明な言語(肉体性を棄却した言語)で描かれていて、こう言った過去を持つ人は、 将来にもまた同じような経験と出会うことになるんじゃないかな、と思いました。
0秋乃 夕陽さんへ お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
1黒髪さんへ お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
1また私の詩もよろしくお願いします♪
0はい。
0名前が呼ばれたと言う事で、卒業式かと思ったのですが、どうも違うようです。ズバリ後の方で新学期新学期、初めてのホームルームとありますね。これは懐かしい詩だと思いました。こう言う詩は稀有なもので、韜晦趣味が全くなくて、素直な感情の流路、描写の流路があると思いました。教室から見る校庭の描写はよくあるのですが、この詩では何気ない描写に潜む、人間の不安感や、畏怖の念がさり気なく示唆されていると思いました。
0エイクピアさんへ お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
0>先生が出席簿を持って >出て行かれた。 よすぎる......
0おまるたろうさんへ お読みくださり、ありがとうございました。 ご感想のお言葉もいただけて、うれしいです。
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