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絵描きとあなた
拝啓 蝉の声が鳴り響き、仰々しい日差しが照らす今日この頃、暑中見舞い申し上げます。先生お元気ですか。 先日、鬱蒼とした暑さの中並木道を歩いている時に、道脇に佇む精霊馬を見つけました。私は、遠く離れたものとを薄く脆く細い糸で繋ぐ感覚に苛まれました。その感覚はなんだか、手の中のチカチカと輝く携帯電話の中とも繋がったようで、私は嬉しくなりました。私も遠く隔たったものに心を込めてこの詩を送ろうと思います。 初夏、鳥の声が寂しく取り残され、生い茂った青葉の萌色が辺を歪ませている浅い藤黄色と混ざり合い、神秘的に見えている。私はいつもの道を歩いている。額に流れる汗を拭う。いつも見る表札も白みがかった信号機も低音で唸る青色の自動販売機も人混みで溢れ返す駅前も変わらない。何一つ変わらない。それなのに私の心は空虚な気持ちで満たされている。まるで、色が何重にも重なり合い美しく構成された絵の真ん中に白色のキャンバスが見えてるような、そんなことを彷彿とさせている。私は温度の下がった空気に満ちた改札をくぐる。目に入る景色と思い出が自然と重なり合う。駅のホームに、ベンチに、電車の中にいたあなたを指でなぞるように思い描く。あなたの姿、あなたの鼻歌、あなたの顔、どれも鮮明に私の目の中に色映っている。私の胸の赤が熱く激しく動き音が漏れ始める。しかしその音は電車の発車とともにたちまち消え失せる。私は暖色の何かが込み上げてくるのを感じると同時に、寒色の感情が存在してることに気づいた。そしてそれらは、私の中に色を塗っていった。それはまるで、私の白色の穴の空いたキャンバスに5Hの鉛筆で塗りつぶすようにも消しゴムを当てて強く消すようにも見えた。私は何かに縋るようにバッグに抱きついた。...目を開けるとそこには見慣れた駅の景色が広がっていた。私はそのまま電車をおり、黒のコントラストが映える空の下、いつのも帰路に着いた。そして一つ勘定した。私は一つ、また一つと勘定していった。 いったい、私はどれだけ勘定したのだろうか。それすらも分からない。どれほどの月日が流れたのだろうか。 空が茜色に染まり、涼しい風が空を泳ぐように吹き抜けている。深緑の草木がゆらゆらと音を立てる。私が意識を取り戻した時、目の前には、それらと清水の流れる川に囲まれた小さな小屋が立っているのが目に入った。その小屋は少し緑がかっており、外観は人々を長年おだて続け、疲れ果てたようなありさまだった。私は懐かしさを感じながら、一歩、一歩と小屋に向かって行った。というより引き寄せられたの方が近い。どうも、その小屋は私を魅了しているらしい。小屋には褐色の薄汚れたL字型のベンチが置かれているだけの粗末なものだった。しかし、私にとってはそのベンチの置かれた空間でなければ意味が無いと思った。そして、腰を下ろして顔を上げると、視界がぼやけて見えた。瞳から頬をつたい流れる無色の雫は、あたりの景色を取り込み、ひとつの色を描いていた。そして、その閉じ込められた色は、私の白い穴の空いたキャンパスに色を塗るように、大きくボタボタと音を立てて落ちていった。その光景は、鮮やかな色彩を加えているようにも、無地に戻そうとするようにも見えた。あなたの色が抜けてしまったキャンバスに。 絵を書き終えた私は、静かに立ち上がり、元来た道へと歩いていった。 ..... まだまだ暑い日が続くと思いますが、先生もお体に気をつけてお過ごしください。 敬具
絵描きとあなた ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 410.5
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2024-08-03
コメント日時 2024-08-03
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
心の故郷としての、先生。 この「先生」というのが、けっこうストレートに 悪と書いて「ワル」な気がしますね、しましたね。 アートですね。 この先生は、美大じゃなくて、美術予備校の講師とかではないか。 なんとなくそう思いました。
0並木道に精霊馬って、よくある光景なのでしょうか。とてもシュールに感じてしまって、一旦ココでなやんでしまった。まあそれはおいといて。この作品は、まず私と先生との関係、そして詩の中にいる登場人物のふたつのシーンに分かれるとおもうけど。此等を結びつけるにはなにか読み手の想像に頼りすぎるところがあって、ソレも考慮してこの形なのかもしれないが……。まあ私が先生に対しての思いを、詩のなかの登場人物として入れ込んだ。その詩を送るという構造、なのだろうけど。やはりバラバラな印象があるし、作品の中の詩と呼ばれる部分に着目しても、詩というよりも詳しく書いたようで心象風景として訴えるところも薄く、作品全体からなにを受け取ればいいのかと、わたしは悩んでしまいましたね。
0色彩が豊かで、楽しめます。思い出という風景も、動いていればまだそれ自身として自分とは 別に生きており、それぞれの在り方がある、そんな風に思いました。
0文章の読みにくさ、読みやすさって、書き方というよりもテンポに左右されるのではないかと思います。そのあたりに注意をされると、書かれた内容も目に入ってきやすくなるのではと思いました。
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