プールサイドにて - B-REVIEW
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PICK UP - REVIEW

ことば

ことばという幻想

純粋な疑問が織りなす美しさ。答えを探す途中に見た景色。

花骸

大人用おむつの中で

すごい

これ好きです 世界はどう終わっていくのだろうという現代の不安感を感じます。



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プールサイドにて    

浅いプールで泳ぐ私の 五体満足を笑わないでくれ たまに水底に腹を擦り付けるさまは さぞ滑稽だろうけど 深い海で泳ぐその四肢欠損の体は まるで海蛇のよう きっと 神社の注連縄から逃げ出してきたのだ その身に刻まれた無数の古い傷跡は 陽の光に灼かれて 目を覆いたくなるほどに激しく煌めく 都市近郊の海で暮らす海蛇は 縞模様を捨てたらしい 汚染水の中を生き抜く為にその体を暗色にする 工業暗化 生存戦略として 深海と同化するように 徐々に色を失ってゆくのを ひび割れたプールサイドで 歯を食いしばりながら見ているだけ 誰かこのフェンスを壊してくれ 針金がこの体を締め付けて、食い込んで、痛いんだ 全てを諦めた命が故郷へ帰っていく姿を 暖かい檻の中でぼんやり見送る ぬるい塩素水に浸した足が焼け爛れる 爪は白くふやけて もはや使い物にならないただの飾り 声帯が排水口に流れてしまってからというものの 叫び声はぶくぶくと 鈍色の泡の粒になる これじゃあまるで蟹だ  馬鹿みたい いっそ口を失くしてしまえたらよかったのに 蚕になりたい 蚕になりたい 目も見えず 飛ぶこともできず ただ美しい糸を吐いて死ぬだけの 生まれつき儚さが約束された姿で生まれてきたかった この滑らかな肌が憎い 肉付きのいい腕が憎い 遠くまで走れる脚が憎い 無傷な体が憎い 何者にもなれない 名前もない 浅瀬で独り溺れる私は 自分で自分の手首を噛んで 淋しい歯形を付けた


プールサイドにて ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 7
P V 数 : 1140.2
お気に入り数: 2
投票数   : 2
ポイント数 : 0

作成日時 2024-07-19
コメント日時 2024-07-30
#現代詩
項目全期間(2025/04/15現在)投稿後10日間
叙情性00
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可読性00
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閲覧指数:1140.2
2025/04/15 00時42分58秒現在
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    作品に書かれた推薦文

プールサイドにて コメントセクション

コメント数(7)
おまるたろう
おまるたろう
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(2024-07-19)

たいへんな名作だと思いました。音楽的な意図がありつつ、(そのての作品にありがちですが)内容が希薄にならずに、注意がさいごまで持続します。文体にリアルな肉感がある。

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A・O・I
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(2024-07-19)

人間を描く、痛みとしるし 深い海の底にある、息は明瞭だが。苦しいかな、話者を囚えて放さない。とてもうまいのだが、全体的に重すぎ、イメージが暗く、ストレートすぎるように思う。それがいま吐き出されるものなら、それで酔いだろうが。現代詩としての完成度を考えると工業暗化を中心として組み直してみたほうが良いものになる気がする。

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おまるたろう
おまるたろう
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(2024-07-19)

お昼に飯をモグモグしながらのコメントで、感想が雑でした(反省) たんに自分の履歴を語った「現代詩」なら、それがどんなに上手くても、あまり価値を感じないが、この作品の、言葉の駆動力があるという点を、とくに価値のあるものと見ます。 花火がさく裂するように、 意味がまた意味をこえていき、イメージがあっという間にことなるイメージに接続され、どんどん流動していく様が素晴らしい。 表面的な「重さ」よりも、むしろ本質的な「軽さ」に注目します。 この文体には「今ここ」という気配があると思いますね。

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A・O・I
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(2024-07-19)

これ、自分履歴じゃないとおもったけどな。かなり巧みに書いてる。いまっぽいね。この方は色々書いて試している感じに見えますね。ただの暗くて捻ってんのが私の好みってだけだなそれはもうしわけなかった。うまいよ、次も楽しみにしています(^^)

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田代ひなの
田代ひなの
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(2024-07-20)

なんとも言えない魅力に引き込まれてしまいました(⁠*⁠´⁠ω⁠`⁠*⁠) 上手く伝えたいけど、どう伝えたら良いだろう?悔しい(泣) とにかく好きです★

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真保
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(2024-07-22)

それぞれの言葉の持つ色や雰囲気の組み合わせがとても良くて、すごく美しい詩だと思いました。海とか魚とか工場とか、とても好きです。

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熊倉ミハイ
熊倉ミハイ
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(2024-07-30)

とても好きです。しかし、A・O・Iさんのような言い分も分かる。私は、「何者にもなれない」といったある種の答えを書いてしまうのが、蛇足なような気がしました。 冒頭でプールの底を泳ぐ海蛇や、食い込む針金、声帯を吸い込む排水口などの表現で神秘的に彩られたこの「プールサイド」という場所の、さらなる深みを見たかった気がします。ゾクゾクする言葉づかい、今後も期待しています。

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投稿作品数: 1