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アスチルベの水辺
花たちに付けた名前を思い出す。 最初に、早春に散ったハナニラの空、ビバーナムにはビッグマム、クレマチスには6月と子供たち、青アジサイは懐かしい夏、白いアナベルは海。 晴れた日のマルチングは、蜜蜂の羽音を数えながら鳥の声を翻訳する。そんな日は、すべてがわかったような気になる。 ちいさな丘を走る野良犬にも、公園の隅で眠る野良猫にも名前をつける。空を切り取るツバメには凌霄花、冬眠から目覚めたアマガエルには灰色グマ。 * 目の前を通り過ぎる盲目の老犬が少しのひかりを頼りに世界を視ている。誰も振り返らない街角で、 世界中の、あらゆる密室に埋められた脈拍と、あらゆる場所に息づく暴力の数は等しい。 * 庭先からこぼれ落ちてゆく砂が、 雲をわたる、 風は、名づけた花も名もない花も一斉に揺らし、ちいさな池にちいさな凪が生まれる。木々が落とす陰翳に葉脈が染まる。 欠損が、絡みついてゆく、 古い骨に、群らがる蔦、 日陰からうまれる、子供たちの、 ゆきさき、群生する星々と、 遠ざかるいくつもの母国語、 センダンの花が降る、 春にみちた雪の積もる庭に盲目の老犬が立っている。足跡も泥濘みも全てがここにある。
アスチルベの水辺 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 684.5
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2024-06-19
コメント日時 2024-06-19
項目 | 全期間(2024/12/04現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
情景を辿るのかと思いきや、盲目の老犬が出てきたところで内容はがらりと奥深く浸透するわけですが、この盲目の老犬をどう捉えたらよいのかと迷ってしまう。つまり内容を深めたことで作品は二重性を帯びるわけですが、冒頭からの数行に照らし合わせてみれば、それがこの詩にどういう影響を投げかけているのか。ちょっと懐疑的な見方になってしまった。
0読みましたけど読めなかった。 これも、わたしには非常にむつかしかった。
0盲目の老犬を人とみなし比喩とすればまた違った世界を生み出すものだと思ったが。これは純粋にそのままの意味で私は読みたい。この詩は飼い犬と共に散歩した道、盲目である老犬の視界は狭くきっと頭上すらわからないほどだ、とすれば共にいる人間が常に声をかけ続け、存在と慈しみをあらわすこと、そういった信頼関係を置くこと。今ある世界がどんな姿をしているのか、教えてあげている光景。一連目に思い出すとあるから、この詩は飼い主の回想だろう。 *3のぜんごから最後にかけて、とても意味を含ませていて、この詩の情景だけに囚われてしまうと、難しく思わせてしまうのかも知れないが、この老犬が眠る場所、そしてどれだけこの老犬を好いていたか、時が移り変わっても生まれてくる生命、そのやさしさや力強さがとても伝わってきます。花の一つ一つを調べそのフォルムを思い起こせば(調べました)、その散歩道に美しい光景が見えてくる。けれどこのものがたりは盲目の犬そのものが主役であるから、書かれている文字を手に取るように愛でるように近づけひとつひとつぼんやりとでも流していけばそれで、この詩としての完成度をより深めているようにも感じました。逆に取れば花の名前など知らぬ飼い犬の目線で、香りや色、降れた時の感触などで、あらわしてみても、その差を過去と今に振り分けて書いてもおもしろいのかもしれません。兎角すてきな詩です(^^)
1>ちょっと懐疑的な見方になってしまった。 書き手の中には読者を導いてあげるような書き方をする人もいるんじゃないかと最近気づきました。私は全く自分本位に書いているのと、これまでよりも複雑なものに挑戦したいと書いた作品なので、こういった感想もある意味嬉しいです。コメントありがとうございました。
0目を通して頂いただけでも有り難いです。コメント残して頂いてありがとうございました。
0温かく素敵な読解をありがとうございます! 読んでいて発見(気づき)が多かったです。そして何だか報われた気がしました。作品が、というより作品を超えて私自身の生活が報われた気持ちです。(感謝) そして『犬の目線』かぁ…流石、目の付けどころが良いですね。(いつかやります!笑)
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