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茶封筒の中身
……何やら大きな騒音に目が覚めた 9回二死満塁で投手が押し出しをしたのだ。画面の中で、逆転勝ちという声の響きに その日は朝から真っ赤に曇り、まるで血の付いた綿布を被ったように世界の終わりを予感した。 こんなところで愚図をしていたらいけない。もう後戻りはできない。捕まるのか撃ち殺されるか、こうなりゃ一人殺すも百人殺すも同じだ。それまで太陽は兄弟に意気揚々、暗渠から這い上がってでも逃げ通してやるのだ。 慎重に、あたまを横に傾けては前に進んでいる。急に大きな振動を感じて身は反転した。二つの小さな脚が海を蹴る。 思い出した。約束の賃金を削られて俺は椅子を蹴り上げた。それが奴の膝にあたり怒った奴は俺の胸ぐらを掴み拳を振り上げた。頬に一発喰らった俺は倒れた椅子を奴のあたまに打ち下ろした。奴はそのまま起き上がらなかった。隠すように机の下に置いてある手提げ金庫を片手に俺は車へ急いだ。あたまが宙を舞う。 何処へ向かっているのかわからない。とにかくこの場所から少しでも遠くへとハンドルに任せた。 路地を右に曲がり見慣れない小さな脇道に入り込んでしまった。しまったと思った。車1台がやっと通れる古い家が並ぶ小径だ。案の定、途中小型のトラックが路を塞いでいて俺の苛々は頂点に達した。 クラクションを強く何度も鳴らした。はやくはやく退かせてくれ。少しバックさせて隣の庭へ入ればいい。作業服を着た男が一人飛び出してきた。その後から中年の男もやってきた。男は怪訝気に眉をつり上げていた。文句を言うな。言ってきたらどうなるかわからない。ああ、あ、心配は的中した。中年の男はウインドウを開けて指示する俺に罵声を浴びせてきた。俺も必死に言い返した。喧騒を聞きつけて、車を退けた作業服の若い男が顔を怒らしてやってきた。二対一だ。勢いづいた中年の男はフロントを叩きつけタイヤを蹴り上げた。 作業服の男は何やら金属の棒を手にしていた。わたしを指さして出て来いと促した。 その時わたしはすべてを受け入れる覚悟を決めた。それから何故か冷静になり、助手席の下に隠して置いた拳銃を取り上げると二発弾丸を発射した。大きな銃声音が小径を通り抜けて町内に響き渡る。 苔生した石段を這うように昇る。降るときは脚から歩を進める。海ならばあたまから沈みあたまからあがればいい。その面をつたう空は危険な賭けだ。 追いかけてきた警官を二人狙い撃ちにした。立て籠もり、顔見知りだとやって来た人間を入れ替わり三人ほど撃ち殺す。 あたまを掴まれるのか、腸を蹴り上げるのか。吊り下げられたのは比弱な脚か、切り口の中身、それは誰にもわからない。ここまでくれば気分は爽快だった。もう何も思い残すことはない。辺りは迷妄と挑発の喜びに、裏返り、反転しなければ暗闇の罠に挟まり、ままに、 いつの日か夜を越え朝日が昇れば赤い雲は血の雨になる。土色の世界。光だ。目の前から思し召しが射してきた、俺がいる。ぬかるむ暗渠の中で、手を探り脚をじたばたと動かしていた。
茶封筒の中身 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 793.1
お気に入り数: 2
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2024-04-27
コメント日時 2024-05-02
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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構成 | 0 | 0 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
最初の一行目が一番よかったです。
0おまるたろうさん、コメントありがとうございます。 なんでも始めが肝心。少女はハートマークかイチゴ柄。ご婦人ならば絹絹地に黒かベージュ色。勝負は時の運なりと。
0小説風と言うよりは、散文に仮託した詩、却って行分け詩よりは雰囲気があると思いました。内容的には破滅への序章と言うのか既に破滅の渦中であるかのような、何かカタストロフィーの中にカタルシスがあるのだと主張している詩なのかもしれないと思いました。
0最初の行がまた最後に戻ってくるような形で、展開したら、 とても面白いものが出来たという気がしています。 最初、以降の連句は”やけっぱちのピストル”という感じですが、 なにかとても暴力的で、空虚な内容ですね。
0エイクピアさん、コメントありがとうございます。 カタルシス。間違いなく暴発して止められないカタストロフイですね。 これネタばれになってしまうけど、実はゼッケンさんの最新作から多分に影響を受けていると思われます。直に私を表現さたのは冒頭部分だけで、なので物語る。どちらかといえばショートな小説風味ですね。まだ少し延ばせばもう小説で、より詩風味の策略を意識して時間をずらしたりバラしたりしてわからないように書き込んでみましたが、はて?成功しているか否かはわからない。たぶん失敗でしょう。いつものことです。笑
0おまるたろうさん、再度ありがとうございます。 これね、いきなりピストルを出してしまったのは物語を詩として読ませるのは充分に不足してますよね。893屋さんでない限りピストルは身近ではありませんからね。やけのやんぱちというのは実際私のことで、これはリアルタイムに目覚めた冒頭部分の私でした。これ、ちんぷんかんぷんでしょう。笑。わざとわからないように書いてあります。あまり自分でバラすと~なあんだ馬鹿らし~になるので、控え目に解説などいたしますれば、下敷きは血の業ですね。時間を遡るのです。いつでも再生されたい私がいるのです。
0>血の業 なるほど、だからちょっとランボーっぽいな?と思ったりもしたわけですね。 ランボー、ホモですからね。ディカプリオみたいなアルファ雄ではなく。
0あ、それから「茶封筒の中身」というのも事実からですね。今時実際安っぽい封筒で手渡されしかも中身が!思っていたよりも違う~だったら、そりゃ誰でも少しはあたまにくるでしょう。と中身は想像に任せたいのですが、お金だと直ぐにばれるでしょうね。
0この詩は面白いですね。 小説のように楽しめて一気に読んでしまいました。 こういう物語性のある詩は大好物なのでぜひまた拝読したいです。
0ハードボイルドというかレイモンドチャンドラーほどクールでないにしても少し抜けてておもしろいなと思いました。冒頭が野球から始まるのもどこかほんわかしてよいなと思いました。
0秋乃夕陽さん、面白いとおっしゃっていただいて、コメントありがとうございます。
0佐々木春さん、ほんわかですか、笑。なんか気恥ずかしいのですが、コメントいただきありがとうございます。
0>ゼッケンさんの最新作から多分に影響を受けていると思われます あれ、傑作ですよね。これまで読んだなかで、いちばんよい作品だと思った。
0物騒ですね。
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