君は私の胸に寝息をこぼしている。
その空気はどこから運ばれてくるのだろう。
感情とも 思い出ともとれない
記憶にしては強烈で
霧消するはやさは超現実的な
微醺のアロマ。
それは私の胸から細い筋で
シーツに伝うが そこではもう香らない
ただの虚しい君の残影。
張力でやさしく膨らんだ
まぶたは大陸プレートのよう。
眼球はレム睡眠におかされ
旋舞して 大陸を震動させる。
たとえマントルのように熱くなくても
君の瞳は不可測な災いをひめている。
涙の跡が乾季の川のよう
ファンデーションの砂漠にかつてあった。
紅潮した顔 微笑で豊穣な大地は
睫の灌木が散乱した荒土となった。
日が沈み 風塵はおさまった。
君がひそかにくれた旅の合図のよう。
顎にかけて迂回する道。
口紅を落とした唇は難破船のよう。
永い航進の末 どこに行き着いたのだろう。
月光にそまった砂漠ですたれて
とどまるのを誰がのぞんだ。
肩にうつる斜面のまえで立ち止まり
君の顔を見晴るかす。
額には奇妙な雲のような髪。
肩まで毛先のウェーブがしだれている。
難破船が胎動するかのような地鳴り。
平凡な小石のように顚落した。
失神は私をひどくゆがませた。
意識が戻るとまわりは柔らかい土壌。
あの岩棚はきっと鎖骨だろうと
近寄って凭れた。
夜空のさやかに輝くオリオンは
三日月に向けて遠吠えしている。
歩み。
洞窟のような窪みにいたった。
爆ぜた果実のような芳香
君の香水が汗に希釈されたのだろうか。
温もりは腋窩の密接した皮膚のものだ。
しかし触れてみると そこらじゅう石
撫でてもくすぐる様子のない岩壁。
私は駆け出した
漫然とただ力を乱費するために。
足許は砂 頭上は猛々しい太陽。
はざまは陽炎。
肉体はどこにもない
私の傷だらけの裸体のほかには。
遠方には山 背後にもう一座の山。
片側はなだらかに反り上がり
片側は平面にのぞむ峨々たる崖。
乳房のようなそれも
全てが妄想であったととなえる静止画。
口に忍び込む砂を吐き散らす。
すさまじい速度で稜線が流れ去る。
黄昏が橙の幕を広げたとき
投げかけられたコインのように
まばゆい湖面があらわれた
オアシスの緑とともに。
しぶきによろめく私の胴体。
空間に囚われた君の肉身。
接触する皮膚。
融合される悩み。
君は目を開いている。
私の視線が君のと手をつないで
君は何か言おうと唇を震わせる。
聞き返して声を発するが
丁度窓から差した濃紫の光が
あらゆる音を吸い込んでしまう。
作品データ
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作成日時 2024-04-02
コメント日時 2024-04-02
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/22現在) | 投稿後10日間 |
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前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
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技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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2024/11/22 00時33分57秒現在
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