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穴
マンホールに耳を当てると 落ち葉が擦り合う音。 不確かに消えていく情景と時間。 うずだかく積もった危惧。 巨人は街の下に横たわっている。 体内にはみみずの如く 人々が腫れた頭を布団に埋め 空の鎌から隠れている。 間歇的に管から滑り落ちる雫。 民衆の歌は憂苦の弦となる。 過敏な精神を揺さぶる一本の弦。 歓楽の隙もない呻き声。 穢らしい指によって弦が弾かれた。 爆発音が巨人の空洞を疾走し 老人たちのうたた寝を略奪した。 少女が涙の粒を母の胸に注いだ。 雪の軋みが悲鳴の如く 木の葉が嘲りの如く マンホールという幻影の窓から 巨人の五臓を引き攣らせる。 暇も義務もない虚構の時間。 考えるように仕向ける空白。 暗黒の四季の生活は 千紫万紅の音色として流れる。 夏の一日を脅かす凄まじい手。 巨人の胸ぐらをつかみ 体内の人々もろともに 首筋を捻って絞殺した。 息を引き取った氷の体は 暗渠を優雅に流れていく。 陽光を一面に浴びた大河。 壊れた橋の影に打ち上げられた。
穴 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 923.2
お気に入り数: 1
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2024-03-06
コメント日時 2024-04-20
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
うわ!これ結構好きだ…… しんだように横たわる巨人の孤独さが良いと思います。でもなんだろう、勝手読みだけどやっぱり巨人=私読みをしてしまう。すると私、私で自己主張つよく感じられ、第2連で一度出てきたあと、すこし頻度を少なくしたほうがいいような感じもする。いや、でもそんなことないかな…… すみません、ありがとうございます
1この詩においてどこを主軸に持ってくるかで随分読解も変わってくるように思う、マンホールという幻想の穴と、街の下に横たわる巨人という部分がキーなのかなと思った。コレだ!という読解に至ることもできないのだが巨人とは人間がどうすることもできない災害や災厄なのかなと思った。ところでマンホールという穴、をインスピが欲しかったので何気なく検索してみたら#マンホールという映画に出会った。ネタバレまで読んでこの詩に当てはめることもできそうかな?とも思えたので。結局そういった読み手の心を通し、詩とは新たな息吹を与えられるものなのだなと、勝手に納得して、コメントにしたいと思う。インスピを掻き立てられる詩だと思います。単純に上手いからね。まあ誤読すぎてすいませんでした!
1A・O・Iさんの、災害、災厄についての詩という意見になるほどなと感じながら、そのレンズを通して細かな表現を見てみたい。 災厄のレンズで違和感があるのは、第四連の表現で、自然災害だと捉えると「穢らしい指」というところに首が傾げられる。また、「爆発音」や「略奪」といった言葉も、自然に反抗する心の表れとしてしまっては少し残念なように思える。 「暇も義務もない」、「夏の一日を脅かす凄まじい手」といった表現から、戦争の過ち、その過去が巨人となって街の下に横たわっているのではないかと私は感じた。今も私たちが悩まされている自然災害というよりも、マンホールの窓から見える「幻影」としているところから、又、私たちの歩く「橋の影」に打ち上げられているというのも、昨今の不穏な情勢が覗いてくるような現実がある。 私たちはそんな過去の上で身を寄せあっている「落ち葉」に過ぎない命。先人たちの痛みを一人一人が想像する世界を保っていかないとなと、そう思いました。
2詩連として組まれていたので私は無駄に行間を広がりで読もうとしてしまったんだなと。ミハイさんのコメントを読んでから、目を通すと確かに〝過去に確かに起こった戦争〟についてはっきりと書かれているわけだ。この作者の詩作の姿勢は、なにかしらの題材をとても真摯に向き合って書いてるんですよね。以前作品内のコメントでこの作者は「私は具体的な描写を書くことというのはこれからの作品でも曲げたくありません」とおっしゃっていたので、もしかしてコレはそれを一旦置いたものなのかなと勝手に思ったのです。わたし盛大に誤読しましたね、なんかすいません失礼しました。気づけてよかったです
1穴、そしてマンホール。耳を当てると~巨人は街の下に横たわっている。巨人とは一体何でしょうね。旧字体あり四字熟語もありと新人類には読むだけでも難儀です、笑。巨人の穴とは何でしょうね。不穏だ。マンホールとは都市の地下を巡るライフラインの源です。辿れば何処にでも通じてしかも中を覗き込めば暗く隔絶された一本の世界。地上から眺めるのも憚られる陰湿で不気味な空間です。しかし我々の生活に欠くことのできないこの塞がれた空間は、実は常に我々を監視し我々の生死さえも左右する力を持っているのです。ひょっとしてこの細く暗室に埋葬された空間世界こそが実は都市という巨大な空間を影のように操る。巨人なのではないかと、
1確かに、巨人を語り手(これも私は意識していません)自身として書いているつもりはありませんでしたが、そう捉えることもできそうですね。とくに孤独さが伝わるという評価は嬉しいです。
0私は誤読というのに、全く嫌悪感を抱いていません。むしろ、作品の雰囲気を感じ取って貰えれば、それだけで書いた甲斐はあったなと考えます。 私が過去に具体的な描写は曲げたくないと言ったのは、抽象的な表現と議論が(少なくとも書く側としては)嫌いという意味が大きかったです。しかし、時には実験も良いと、この作品は、一見全体をわかりにくくする暗喩を取り入れることで、感覚を刺激しようという試みでした。
1我々の生活でマンホールほど身近で、不気味なものは他にないと思います。マンホールだけで無限の想像が膨らんで、連想によって自分でも思いがけない筋立てが完成しました。マンホールが無ければ、この詩は生まれなかったはずです。 メルモsアラガイsさんの解釈には、また違った作品に広げることができそうな想像の種があり、感心しました。
0私の変質的で、つむじ曲がりな性格から、搾り出されたこの詩が、これほど教育的に、健全に、解釈されることが可能なのかと感動を覚えました。ありがとうございます。世の中、案外拠り所もあるものですね。
2すごい世界観だと思いました。ぼんやり探してるわたしが普段感じることのないその捉え方に読んでよかったと思いました。
1希望の歌を歌ってくださって、ありがとうございます。我々人間の自由は、遠い過去の神話 の時代から、確約されていたのです。それを、必死の思いで暴き出そうとした人間の努力が、 我々の未来への神話となる。今やその時、ちょうどいい時代です。何かが明けてくる。
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