ブロークは現実に限りなく近い、どこかグロテスクで残酷な世界を描く詩人です。この「死の舞踏」(原題「Пляски смерти」)には五篇の詩が編まれています。表題通りどれも死に関するものですが、進展がない人々の生活を嘆かわしく描いている一面もあります。ブロークが創り出す世界の静寂と恐怖をご堪能ください。
死の舞踏
アレクサンドル・ブローク
一
人々のなかで生命と熱意を装うのは
死人にとって いかなる疲労だろう。
だが必然なのだ 社会に摺りついて
職のために骨が鳴る音を隠すことは。
生者は眠る。死人は柩から起き上がって
銀行に 裁判所に 議院に赴く。
夜が白々しいほど 憤慨は黒光りし
羽毛は歓声の如く軋む。
死人は一日中 報告書の作成に励んでいる。
公務は終わった。するとご覧──
議員に卑猥なアネクドートを
彼は囁いている……それも尻を振りながら。
もう晩。小雨は泥で叩きつける
通行人を 家屋を その他の芥を……
ところが死人のことは──また違う乱脈へと
タクシーが運ぶ 軋轢を轟かせ。
無数の柱と人を収めた大広間へと
死人は急ぐ 美麗な夜会服を纏って。
彼には従順な笑みが贈られる
妻──痴女と 夫──阿呆によって。
彼は役人の暇に疲れ果てたが
カタカタ鳴る骨は 音楽で搔き消される……
同僚たちと彼は固い握手を交わす──
生きている 彼は生きていると思われたいのだ。
柱のそばで 女友だちと目が合った。
彼女も彼と同様 死んでいる。
彼らの名目上 社交である会話の裏で
本音を君は耳にする。
「疲れた友よ ここは私にとって奇妙だ」──
「疲れた友よ 墓地は寒いわ」──
「もう零時か」──「ええ ですが貴方はワルツにNNを
誘わなかったかしら。彼女は貴方に恋をしている……」
すぐそこで──NNは熱愛の眼差しで探している
彼を 彼を──血に潜めた緊張とともに……
華やかな乙女の顔には
空虚な 生きた愛情の感激……
彼は彼女に耳打ちしている 無意味な文を
生者にとっては魅惑的な言葉を。
眺めている 肩が赤らむ様子を
肩にうなだれた頭を……
そして 公的な憤怒からなる尖鋭な毒を
超越した険悪さで 彼は浪費している……
「なんと明晰な彼だろう どれほど彼は君を愛しているのか」
彼女の耳には──聞き慣れない奇怪な響き
それは骨と骨がぶつかり合う音。
二
夜 街路 街灯 薬屋
無意味で仄かな光。
あと世紀の四半期暮らそうが──
全てこのまま。活路はない。
死ぬ──また振り出しに戻り
万事が昔のように反復される。
夜 水路にはまだ凍らぬ波紋
薬屋 街路 街灯。
三
空っぽな通り。唯一の火が窓のなかに。
ユダヤ人の薬剤師は夢でうめく。
Venena*と書かれた戸棚の前では
畑で屈むときのように膝を折って
目まで外套を被った骸骨が
何か探している 黒い口の歯をむき出して……
見つけた……が 誤って硝子の音を立てた
そっと髑髏を回した……薬剤師は鴨の声を上げ
上体を起こした──寝返りを打っただけだ……
この頃──来客は神秘な薬瓶を
外套のなかから 二人の鼻がない女性に突き出している。
通りで 白っぽい街灯の下で。
(Venena*はラテン語で毒)
四
古い 古い夢。闇から
街灯は走る──どこへ。
そこは──漆黒の水のみ。
そこは──喪失 永遠に。
影は隅から辷り出し
それに他のが辷り寄った。
外套は開けていて 胸は白く
夜会服の襟章には緋色。
二番目の影──細身の胸甲騎兵
それとも教会式からの花嫁。
兜と羽根。顔はない。
死人のような静止。
門では呼び鈴が轟き
鈍く錠が鳴る。
敷居をまたぐ
売春婦と男娼が……
凍てついた風が咆哮し
虚ろで 静かで 暗い。
上では窓が灯っている。
どうでもいい。
鉛の如く黒い水。
なかには喪失 永遠に。
三番目の霊。君はどこへ
君か 影から影へと辷るのは。
五
またしても富豪は怒って喜ぶ。
またしても貧乏人は辱められる。
石からなる巨体の屋上から
白い月は見ている
静けさを差し立て
傾斜の陰影を落とす
岩壁と
屋根の暗黒の。
全ては無駄だっただろう
法秩序を保つための
ツァーリがいなければ。
ただ宮殿は探さないでくれ
親切な面も
黄金の冠も。
彼は──遠い荒野から
奇しい街灯の光のなかで
出現する。
首を手拭いで絡め
穴が空いた帽子のつばの下で
笑っている。
作品データ
コメント数 : 1
P V 数 : 548.8
お気に入り数: 2
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2024-01-27
コメント日時 2024-01-28
#現代詩
#ビーレビ杯不参加
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
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2024/11/21 23時23分53秒現在
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否、素晴らしい試みです。 肝心の翻訳‐作へ素人なりの感想を記述させて頂きますなら。 制度の只中に生活をするものたち「銀行員」や、「裁判員」「議員」等を鮮やかに死者へと顛倒せしめ、体制への諷刺どころではない――徹底的に冷徹な視座を以て――「文化的」生活への冷笑が記述されており。 「詩」とは此処まで凄まじい反現実的現実を叙述し得るものである、と「思い出させて」下さり、目が洗われる心境でございます。 「不在のツァーリ(皇帝)」への希求的心情等、夙に心に刺さり。 しかもその姿は恰も「農奴」か「案山子」を彷彿とせしめるがごとく記述をされていらっしゃいます。 深読みを致しましても素晴らしく、修辞の綺羅燦然たる退廃‐美も、復。相俟りまして、思わず恍惚と致してしまいました。 此の水準を指標と致します事には、眩暈を覚えざるを得ませんが。其処迄達しなければ、プロフェッショナルとは言い難いのでございましょう。 勉強をさせて頂きました次第でございます。
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