もうだめですだめでしたぼくはくることのない王子様を待ち続けて自分が悪い魔法使いだとは気付くこともありませんでした
七歳の女という病理におかされたぼくは七歳のままときが止まってしまっていていつまでも男の子を好きな自分を手放すことができないせいでドッジボールでもボールを取ることも投げることもできなくてだからずっと教室で本を読むふりをしていました
ぼくはこくはくもこいばなもできないでいておんなのこたちがそんなはなしをしているのがうらやましくてそしてぼくのすきだったおとこのこが
おんなのことてをつないでみみをあかくしていました
ぼくは、ぼくのはだかをみたかれのみみがあかくならないことくらいしっているけれどぼくはぼくのからだをきらってしまうことだけはできなくてあのきょくせんをほしいとはいちどだっておもいはしなかったのは
なんでだったんでしょう
ぼくは、
ななさいのこどもの、まま
ななさい、の、こどものまま、で
こうていのすみで、
すなを、いじっています
おうじさまが、いらっしゃったら
どうか、おこしください
おまちしています
僕は早く大人になってこの小さな七歳のこどもを抱いてやらなくてはならないというのに
からだばかりがおおきくなりかなしみばかりがとしをとりぼくはいつまでもななさいのきみとかさなっていて
この泣いている子どもとぼくを分離させなくてはきみをだいてあげることはできないのに
まだ
きみを犯しきみを嬲りきみのいっさいを優しく解きほぐしてきみを殺してやらなくてはならないというのに
ぼくはまだ
きみと、重なったままで
ぼく、は
ななさいの、
こどもの、まま
おうじさまを、まって、いる
ねむりひめの
ほうでは
なかったんだよ
ぼくは、おひめさまをかえるやぶたやむかでややすでにかえてしまうわるい
わるいまほうつかい
が
ふさわしいやくまわりで
だから
ぼく、は
ぼくは七歳の女を殺しに行く
僕は例えば向日葵の近くで唸り声を上げている卑しい蠅の擬きで
僕は例えばアイスクリームをダメにしてしまうつむじ風で
僕は例えば七夕に降る雨で
それも、とびきり濁った酸性雨
七歳の女たちの顔を
溶かしてしまおうかしらん
けれどけれど
顔がなくなるとかなくならないとかではなく僕は
七歳の女たちの命ぜんたいを
溶かしてしまわなくてはならないのだ
目玉を落とし、鼻を落とし、歯を落とし、耳を落とし、髪の毛を落とし、舌を落とし、睫毛を落とし、爪を落とし、唇を落とし、肌を黒ずませ青ずませ黄ばませ白ばませ、肌を剥がし、筋肉をほぐし、脂肪を洗い流し、内臓を落とし、腸を広げ、血を広げ、散骨の相を残して
残すかよ
骨も、
ほね、も
残さねえよ
骨なんか残したら
その白く乾いた清潔さに
きっとまた
おとこのこをとられるから
ぜんぶ
ぜんたいを溶かしてやらなければ
けれど
変身の魔法は
それほど長くは続かないから
やはり殺すなら
七歳の女を殺すなら
刃物で
切れ
喉笛を
喉仏のない忌々しい女の喉笛を
掻っ切れ
掻き切って掻き出して僕の汗が蒸発して
女は末期の数秒を不快な湿度の中で痙攣する
僕は、頭を 踏みつけて、頭を、変形するまで踏みつけて
柔らかい布に包んだ木の枝を折ったときのような違和を感じ、
女の顔が
出来の悪い人形焼きみたいに
ひしゃげて
亡骸は犬に食わせ
キラキラだのフリフリだのした服を燃え種にして
女の家に火をつける
オレンジ色の、火が揺れるのが
首を切られた女の痙攣に似ていて
蝶の女が、猫の女が、雀の女が飲み込まれていった
七歳の
女たちが
燃える
燃え残った
ティディベア、を
別の
もっと歳をとった
女の、焼死体の、腹を裂いて
詰める
詰めて
石神井川に捨てた
川に流された死体は
犬に食わせた死体は
天国にはいけないの
地獄にもいけないの
永遠に死んだときの
苦しみを感じ続けて
永遠に消えもせずに
何度宇宙が終わって
新しくはじまっても
ずっと犬の腹の中と
石神井川の底の方を
ぐるぐる繰り返すの
これが僕のちいさな
ちいさな信仰なんだ
ざまあみろ
ぼくがどれだけすきでどれだけだいじでどれだけみみやむねをあつくしてもともだちでしかないようなおとこのこがおまえらがちょっとてをつなげばかおをちかずければすきかもといえばかんたんにたいおんをあげることが
おまえたちのそのやわらかいからだがそしてせいちょうとともにてにするきょくせんがうとましくてうとましくてぼくは
切り落としてやろうかしらん
と
そして
だいすきなおとこのこのいえのげんかんやろうかに
敷き詰めてやろうかしらん
と
おまえたちのへそのしたにあるそのにくのふくろ
おまえたちがときにいとおしみときにうとむその
ちいさな、濁った、あたらしいいのちをうみ、みらいにつながっていくにくのふくろ
それだけは、それだけ、が、うらやましくて
うらやましいからこそ
それを抉り出して
引き裂いてやりたいと思ってるんだよ
抉り出した後の穴には
ホオヅキを詰めてあげるから
お前たちを
おまえたち、へ
お前とお前の母親しかいない誕生日パーティーの日に
ケーキを踏みつけて飛び散ったクリームに唾を吐きかけよう
お前の耳に火のついた八本のろうそくを押し込もう
プレゼントも、メッセージカードもぜんぶぜんぶ耳の中に押し込んで
お前の脳みそが反対の耳から溢れてくるように
フローリングに落ちた脳みそを
トイレに流したら
水が逆流して、ズボンの裾が濡れてしまった
お前たちの、後生大事にしていた写真立てが倒れ
流されながら、分解する
きっとお前たちの家からは、向こう300年
絶えずお前たちの脳みその匂いがする
それでもなお
ぼくは
ぼくはななさいのこどものまま
ぼくは、いつまでも、
大人になれずに
井戸の中で
濁り続ける茶黒い水を
青いと言い張りながら
ななさいのこどもが
井戸の中に落ちて
死に損なってしまって
僕はボクが落としてしまったぼくを拾い上げることができないまま
井戸の周りに日にひとつ子宮を並べ
ぐるぐると周り続ける痩せた犬になってしまったのです
だからぼくはまだ、
泣いているちいさな七歳の男のを抱いてあげることができずにいる
王子様になってやることができずにいる
おまえたちがかんたんにおひめさまになりがんばっておうじさまになっているあいだぼくはわるいまほうつかいのそれもまほうがとびきりへたくそなさんまいめのまほうつかいのやくまわりをあたえられて
しかも顔は、牛蛙なんだぜ
ずるいんだよ、おまえら
ぼくは、ぼくは本当はいっぱいのご飯といっぱいの水といっさつの本でじゅうぶん幸せなのに
七歳の女をみると殺したくなるよ
ホットパンツを履いていれば尚更
おまえのそのすがたにおとこのこがかおをあかくして
そのちいさなしんぞうにいくつものほしをまたたかせていることをそうぞうして
男の子たちの星空にはぼくが作った星なんて一つもないの
だから
ずるいから
死ねよ
死ねよ、じゃなくて
殺すよ
おまえらが例えば家族みんなでスーパーマーケットなんかにきているとき
刺す
おまえらが入学祝いにファミレスでハンバーグなんか食っている時に
撃つ
お前らがダンスの発表会を終えて楽屋から出たところをじいちゃんばあちゃんや友達に迎えられているとき
かち割る
長い髪もラメ入りの服も興味ないけど
おまえらがくったくなく笑えることだけがぼくはどうしても許せないから
女なんか、みんな殺してやる
そういって
女の中からばあちゃんとかあさんを除外していることに
気づきもせずに
ナイフや散弾銃よりも
トラックや爆弾よりも
おまえたちを確実に殺すことのできる道具を探している
おまえたちが生きていた証とか意味とか幸せとかあったかい心とかぜんぶ
思い出とか家族とか将来の夢とか友だちとか初恋とかぜんぶ
おしゃれとかスイーツとか昨日見たテレビとか好きなアイドルとかぜんぶ
ぜんぶぜんぶぜんぶ
はらわたと一緒に引っこ抜いてやる
だから
女を全部殺してやったから
ぼくのことを
誰か好きになってよ
僕を、大人にして
誰か
ぼくの裸に、
ななさいのぼくのはだかに
耳を赤くしてよ
お姫様の皮を剥いで
撲り殺されるようなオチは
もううんざりしているから
王子様は、わるいまほうつかいに、うばわれてしまいました
めでたしめでたしで
絵本を閉じてよ
がんばって、おひめさまをころしたんだから
都合のいい、魔法で生き返らせて
わるいまほうつかいを臭い泥の詰まった棺桶に押し込むのはやめてよ
蛙や豚や百足や馬陸や蚯蚓や蛭や船虫や竈馬や蛇や蜥蜴を
醜い嫌われ物を入れる
棺桶の、中に
入るのは
怖いよ
ぼくは七歳の頃からずっと
その棺桶の中が
どんななのかを
ずっと知っているから
絵本を閉じなくちゃ
いつまでも泥が溢れてきて
大人に、なれないから
ぼくは
いつになったら大人になれるんですか
もう、その頭と尻尾を縫い付けたような
知らない人のめでたしめでたしのお話を聞かされても
困るよ
なにひとつ
お姫様と王子様が幸せになるお話なんてなにひとつ頭に入りやしないよ
殺しても殺しても湧いて来る女たちの物語なんて
聞きたくも、
聞きたくもないのに
やたらに、頭に残る言葉があって
結局ぼくはそのつまらない物語を聞き続けている
その物語の、一節によれば
人間はみんな、後ろめたさを抱えて生まれてきて
自分を一つ許してやるたびに一つ歳を取るらしい
どこか、合点が行くような気がして
ランドセルを、背負ったまま寝ていることに気がついた
なら、ぼくは
どうしたら、自分を許してあげられるんだろう
その答えを、ずっと待っているのに
物語は、繰り返すばかりで
どれだけ七歳の女たちを殺しても
ぼくは、少しの間だけ
自分を許せた気になって
けれど、また
ぼくは、だめなのだと
ぼくではだめなのだと
結局、校庭で、砂を弄っている
ぼくの時計の針は
みんなとおんなじように進むのに
カレンダーだけが、同じ歳を繰り返している
あなたの歳は、いくつで止まっていますか
ぼくは
ぼくはまだ、ななさいの
こどものまま
作品データ
コメント数 : 2
P V 数 : 878.2
お気に入り数: 2
投票数 : 1
ポイント数 : 0
作成日時 2023-10-18
コメント日時 2023-10-23
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
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2024/11/23 18時59分34秒現在
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グロテスクな表情がありながらも、少年の純真さが仄暗く、読めました。
0初恋の男の子が、僕の裸を見ても赤くなってくれない。 だから、女の子に殺意を抱く。一体いつになったら、僕の裸に赤くなってくれる男の子は現れる んでしょうか。そうしたら大人になれるのに。情熱の爆発がかっこいい。
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