哀憐 垂直に車轍
湿度計の花が硫黄筍に滴り
耳の底に寄せる潮騒は
刺繍の厚紙で出来た
聖母達の泪だ
砕かれた陶彩画のなかの磔刑柱
青い星墜ちた
一番星に掠れて
パラフレニアの少女が夕の街路を横切ってゆく
疫病の町には人っ子ひとりいやしない
だからこうして影を引きずっているのさ
あんたの影じゃあないよ
あたしの影だ!
鉄片
鉄片
誘蛾灯
銑鉄の翅がびっしりと
瓦斯の呼吸器を上下させている
側溝に流れて消えた
蝙蝠傘折られて消えた
濁流の暗室
現像紙のなか
幽霊達
こうしておりますと
影を売る少女の燐寸の灯がゆらゆらゆらと
覚束無く私どもの影をゆらめかせますものですから
階段には
聯綿として
昨日の私、一昨日の私、先一昨日の
私どもの影が
証拠写真として現像されるのでございますよ
狂気、セイレンの絵の中
オデュッセウスの苦悩
水葬せよ
水葬せよ
水葬せよ
渦巻の水渠
あああ、わすれみず
オルぺウスの祭祀
気狂い少女が七つ子生んだ
どの子も盲目、吃、聾
神父さまだけ影がないのはなぜなのでしょう
それはあんたの影を食っちまったからだよ
神父さまだけ生きていないのはどうしてでしょう
それはあんたの死が近いからだよ
僕は汽笛の声がききたい
あれは僕の心臓なのです
この町は
死ぬには狭過ぎて
息苦しい
胸が詰まる
滅多刺しにされたかのようだ!!
影売婆に影食神父、影刺少女達が揃いますと、
銘々かってに茅の輪を描きます
その円い影の廻りを
侏儒達が歌い踊るのでございました
一人目の子が死んだ
二人目の子が死んだ
三人目の子が死んだ
四人目の子が死んだ
五人目の子が死んだ
六人目の子が死んだ
七人目の子が死んだ
なかまはずれはだあれ
流され
消えた
一番星の青い血だ
作品データ
コメント数 : 10
P V 数 : 1404.3
お気に入り数: 1
投票数 : 1
ポイント数 : 25
作成日時 2023-07-10
コメント日時 2023-08-01
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 5 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 5 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 5 | 0 |
音韻 | 5 | 0 |
構成 | 5 | 0 |
総合ポイント | 25 | 0 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 5 | 5 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 5 | 5 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 5 | 5 |
音韻 | 5 | 5 |
構成 | 5 | 5 |
総合 | 25 | 25 |
閲覧指数:1404.3
2024/11/21 22時37分31秒現在
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「金澤詩人」に投稿しようと温めていた詩でございます。 代わりに十万円おくれ。
0ご感想を賜り、ありがとうございます。 アングラ演劇(夙に寺山修司)の世界観を再現したく、したためさせていただきました。 拠って、今日では忌避される名称が山盛りでございます(検閲無し)。 因みに、公式サイト「演劇実験室◎万有引力」内のJ・A・シーザー様のブログ記事へと、公演千穐楽記念にと。本作を投稿させていただきました。 完全に、おかしいやつでございます。消去されぬことを祈りつつ。
1グレースケールで描かれた街の中を 一定のリズムで散歩しながら 物語を横目で流しみるように そのまま余韻に浸っています。 読解はあまり好みではないので 得られた読後感より 良い作品だな、と思いました。
1ご感想を賜り、嬉しく存じます。 気狂い、盲人、吃、聾、侏儒。うしなわれてゆく言葉たちへの愛借を込めてしたためさせて頂きました。 ある既存の差別用語を、文化的に受容するという事は。そのカテゴリに峻別される人々の社会的な居場所を約束することにほかならないと考えて居ります。 小人プロレスも。差別的で許しがたいという理由で解散してしまいました。彼らは何処へ行ったのでしょう。 真に寛容な社会を求めつつ。
1小人プロレスって言葉聞いたことあったなぁと思ってググッて来ました。クラファンなどでギリギリ繋がってるようですね。 ゼンニンの皮を被ったゼンニン達が、世界を埋め立ててゼンニンたらんとしているのですね。
1小人プロレスにつきましては、安堵をいたしました。 蔑称だろうと何だろうと、自身の居場所が用意されていることは誇りであり、安心でもございますから。 正しさにつきましては、難しいですよね。 唯、誰かの正しさが罷り通る時には、その誰か以外の他者の正しさが間引かれることは、常に心しておかねばなりますまい。
1あ、少女が死んでも影だけは埋葬が出来ないんだと考えたら、影は何としてでも生き延びていくだろう。死体であっても影だけは生きている。やっほー。なるほど。死なないのはかわいそうだ。影は刺し身にしたいとこだが踊り食いか。
1読解を賜りまして、ありがとうございます。 余り、辻褄の合わない様にしたためさせて頂きましたので、その様な読みもあるのかと。 無責任な様ではございますが、曲がりなりにも詩に於いて、道理を通らしめんとするのはあまりにも無粋であると思われますものですから。 然し、読み返してみますに、少女=老婆、神父=青年(、とおぼしきもの)という関係も読み取れなくはございますまい。 丁度此の両者が、互いの影であり、また一人の話者の男性性‐女性性の両面を体現し、相補的な影の関係を有している、と謂う前提が成立しますなら。 総ての個が別の個の影であるという、堂々巡りの構図も読み取れましょう。 いうならば、影づくし、です。
1影を売る少女 アイデアがよい。
1ご称讃を賜りまして、まことに嬉しく存じます。 まぐれ当たりにせぬ様、精進致したく存じあげます。
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