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芝生で覆われた土手一面に、霜が降りて光っている
芝生で覆われた土手一面に、霜が降りて光っている、そんな朝はただひたすらに青く、湖に街ごと沈んでしまったかのようだ。 この青い空気を羽に内包しているらしい白鷺が、音も無く飛翔する、そのまままっすぐ、あの橋の下まで。 あの橋の下で私は一晩中過ごした、寝袋に入って、ひたすらに朝を待った。 わかっていたのだ、投函された手紙はもう誰にも読まれない、それを取り戻すために私は歩いてきた、今手に持っているこの手紙が、最後の文字。 文字は踊っていた、どこか力の無いその文字たちは、夜が好きでは無いらしい、手紙から逃れようと踊りながら、私に気付かれないようにもがいていた。 私は逃げない、あの人から逃げない、そう繰り返したが寝袋は棺桶のようだった、その棺桶を照らす光に、私は気付いた。 夜にも光があると、知っている人はどれくらい居るのだろうか、昼間降り注ぐ光とは別種の、地面から湧き出る緑色の光。 緑色の世界から鳥は逃れている、緑色の光は昼の光の中飛ぶのを妨げるのだ、だから鳥たちは木の上を宿とする、私は寝袋から出て、自分が、発光する地面からの光に染められるのを、朝には膝下まで真緑色になるであろうことについて、祈りながら耐えた。 祈りは両目から水となって地面へと還っていった、生まれることが間違いなら、地面へ戻る方が行いとしてふさわしいと、あの人は言っていた、あの人の匂い。 匂いは手紙から染み出ていた、それは夜をはね返す真昼の室内を思わせた、手紙だけは真昼の時空を維持していた、文字がなぜ逃げたがるのかその時にわかった。 私も文字も空間からにょきにょきと生えている一粒の水に過ぎない、空間を超えることは叶わないのだ、私はもうあの人に会えないのだと、その時に知った。 すべての水がほんとうに溶けきるときに、光が、青でもあり緑でもあり、真昼の卵色の光でもあるとき…そのような時が来ない限り私はあの人には会えない。 電気だって光だ、そう思った私は地面へと還るため、高圧電流と書かれた看板の下まで、あの橋を過ぎて次の柵の所まで歩いた、手紙も、文字達も地面に還したかった。 そこは昼間でも鳥の一羽も来ない場所、せっかく実った柿の木もうち捨てられるままに在る場所、鳥たちの避ける場所、人間の居場所だった。 人の居場所に私は橋を越えて帰ってきた、私が柵をよじ登ろうとすると地面は赤茶色に滲んだ、ふと気付いた、霜は朝日と共に地面へと訪れるらしい。 真っ赤な巨大な目が、僅かばかりの涙をながしてゆくらしい、それで銀色の霜が地面へと着地する、私の祈りが地面へと還ってゆくように、しかし人間の土地へは…人間は横たわることしか出来ない、電気を帯びて気を失った私は地面へと還れずに目を覚ました。 仕方なく私は来た道を引き返した、この橋の下まで私は、膝下まで緑色になった状態で力無く歩いてきた、夜に長く居すぎたのだ、人は自分の居る時間の色に染まる、あの人が卵色だというのも、あの人が真昼にこそ存在しているからだ。 幾日か眠れば、また私も元に戻る、夕方の色に、私は戻るのだ、そして窓辺に立って思い起こすだろう。 芝生で覆われた土手一面に、霜が降りて光っている様子を。 そんな朝はただひたすらに青く、空気を吸うごとに自分もまた青く変化し、湖に街ごと沈んでしまった世界を構成する一部に成ることを。 この青い空気を自らの羽に内包しているらしい白鷺が、音も無く飛翔する、そのまままっすぐ、あの橋の下までゆくことを、私はもう知っているのだから。
芝生で覆われた土手一面に、霜が降りて光っている ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 993.3
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-12-14
コメント日時 2017-12-22
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
一言で感想を言うならば白昼夢のようなものが語られる独白だと思います。 現実的な景と非現実的な空想との混交。あなたへ綴られた手紙の文字、そして言葉。そのことを中心に意識は無意識との狭間で邂逅に揺れ動く。鳥は飛び立つのか、それとも現実から逃げてしまうのか。このことが自らの立ち位置として喩えられている。そのようなものを意識した内容の告白で、なかなか味わいのある独白だと思います。 長いので装飾を意識し過ぎたのか、赤茶色や緑色、銀色の霜とか、光を伴うイメージの色に関していえば表現が無駄に作用している気もします。 粗をあたるようで申し訳ないですが、タイトルと冒頭の被さりですね。流れとしてこの被さりは苦にもならない。しかし続けて読むには長いですね。ので「芝生で覆われた土手一面に」、でタイトルをきるとか、もう少し工夫してもよいのではないか、と個人的には思いました。
0アラメルモさん コメントありがとうございます! タイトル考えるの苦手で…タイトルを切る、という技術、文章を推敲するという技術を身につけたいと思いました。 詩を発表したのはネット上でも人生でも初めてです、初めてのコメントや指摘、感謝します!
0投稿有難う御座います。とても心騒ぐ作品だと一読して思いました。橋の下という場所の設定と『文字が逃げたがる』という語り。私は読書量がそんなに多い方ではないのですが、これはかなり独特な物語性というか、文面から匂い立つものにピュアなものを感じました。子供のような純粋さでなく、大人になっても落ち着かない心みたいなもの。「あなた」が居た場所、「あなた」の匂い、、時空超えの物語に個人的に興味を昔から持っているのですが、本作品に「時空超えの物語」をちょっと感じました。んんん、なんか読み返せば読み返すほどに、この作品は解る人には解る作品に思えてきました。2読、3読するうちに、変な言い方ですが、他の人に読まれたくないぐらいな作品に思えてきます。失礼ながら、やや推敲が不足している感もします。もっと削れるような気もします。しかし、この作品に沈められている「何か」が解ると、傑作に思えてきます。一つの大きな物語があって、その一部分を読ませられてるような。全体が判っていないだけのような。
0散文詩は、段落の最初のフレーズに驚きがあると、読者をグイグイ惹きつけます。 この作品で言うなら、〈文字は踊っていた〉〈夜にも光があると〉〈祈りは両目から水となって〉〈私も文字も空間からにょきにょきと〉このあたりの中盤の展開が素晴らしいと思いました。 アラメルモさんが、全体の「長さ」について(あるいは、ながい、と感じさせてしまう、冗漫さを感じさせてしまう点について)コメントされていますが、私も同じような印象を受けました。 作品そのものの冒頭、〈そんな朝は~〉を、たとえば(あくまでも一案、ですが)「芝生で覆われた土手一面に、霜が降りて光っている、街ごと湖に沈んでいる」とか、「朝の青い空気を羽に含み、白鷺が飛翔する」など、削れる部分を削ってみる、というのも、一つの工夫かもしれない、と思いました。 橋の下に向かっていく白鷺と、語り手の意識は、重なっているのでしょうか。白鷺に意識を乗せて、橋の下で夜を明かす自分の姿を、夢想している、ということか・・・額縁のように、白鷺のイメージが作品を挟み込んでいるのですが、寝袋に入って朝を待つ、という具体性、現実感と、どうリンクしているのか、そこが少し気になりました。 寝袋に入って、骨の髄まで凍てつくような夜を耐え忍ぶ、という具体的な設定のゆえに、緑の光や、その光に染まっていく過程(植物への同化、大地への同化のイメージ?)も無理なく受け入れられる。補色の赤の鮮やかさと、朝日の鮮烈さが重なり、死の緑から生の赤へ、変容が起きる。 〈真っ赤な巨大な目〉あらゆるものを見通す超自我の目、としての朝日。その朝日の色に染まることが、語り手は出来ない。緑に同化し(死んで)大地に還ることも出来ない。では、語り手は、何色に染まる、のか。 〈人は自分の居る時間の色に染まる、あの人が卵色だというのも、あの人が真昼にこそ存在しているからだ・・・また私も元に戻る、夕方の色に、私は戻るのだ〉ユニークな発想だと思いましたが、自分のいる時間、が、年齢に重なってしまう(一般的に。)作品全体を読む限り、〈あの人〉は壮年で、〈私〉は老年、という印象を受けない(ほぼ、同世代、語り手は比較的若い人、のイメージ)ので、少し違和感を覚えるフレーズでした。真昼、という言葉から(この作品では)人生の頂点とか、ときめいて今をキラキラ過ごしている、人生において、スポットライトが当たっている、そんな印象を受けるのですね。夕方、という時間帯も、生命エネルギーが低下している状態、という印象。 さらに、全体が青の時間で挟まれている、わけですが・・・青に同化する、というのは、大地にすら還れない〈私〉が、空中に霧散してしまいたい、というような、消滅してしまいたい願望、とでもいう心の色でしょうか。 まだ未整理の部分が残っているような気がしますが、とても魅力的な作品であると思いました。
0三浦果実 さん コメントありがとうございます、本作とは関係無いのですが、システム上…レスすると上がってしまうということが隠れたがりな私にとっての難関です。 書き逃げしたい気持ちが強い癖に実は真摯なコメントがありがたい、このような詩の交流の場で自分の幼さを直視せざるを得ない状況です。 詩は何も考えずに書きましたので、恥ずかしながらもちろん推敲もしておりません、書き終えた後に推敲する、この作業を学ぼうかと思います。
0まりもさん 恥ずかしながら何も考えずに詩を書いています。 夜は緑色の光が出ているように感じるなあ…朝日は怖いよなあ…朝は青い空気だよなあ…という具合に思いつきだけを書きました。 卵色、真昼…このフレーズも、まさにその人とはクロノス的な時間での「真昼」に会っていたので、真昼の時間に存在していると書いたに過ぎないのです。 詩そのものよりもまりもさんのコメントの方が深い視点で語られていますので、これに対し私が答えるべきことは素直になるより他に無い気がしました。 何にせよ推敲するということを意識してみたいと思います、作品に意味を込めると言うことは正直まだ、感覚として追いつきません、本当に勉強になりました。
0大熊さん トップに上がってしまうこと・・・・そうなんです。同様の御意見を多数いただいておりまして、年明けに大幅なサイト改造工事を予定しておりますが、そのなかに「表示切替」機能を持たせておりますので御期待ください!
0個人的な好みなんですが、好きな文章です。寝袋の話が特に好きかも知れません。頭と尻に白鷺を絡めていく所も面白いと思いました。発表したのも初めてで、推敲もなしで、このような流れるような文章を書けるというのが嫉妬しますね。整理させながらの読みはまりもさんが書いて下さったと思うので、僕からは何もいえないのですが、次作、投稿してくださるなら待ってます。
0百均さん 寝袋のくだりは、ほんとに個人的な話であれなんですが…寝袋に入ったまま凍死する夢をよく見ていたのでそれを書いてみました。 白鷺、電流の流れている施設、鳥の一切寄ってこない柿の木、そういった近所の風景をごった煮にしたい気持ちが常にあります、また投稿させていただきます、コメントありがとうございます。
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