スープ皿が二つ。僕の前と、彼女の前に。
とてもおいしくできたの。
その言葉に疑いがなかったと言えば、嘘になる。言葉にすれば、あらゆるものが、すべて同じ運命をたどる。それと同じような、たどたどしい手つきで、あたりをさまよう迷子がするように血管をなぞられたことがある。
どこへゆくのか、知りたかったの。
僕たちが?
いいえ、わたしが。
ひとりで、どこかへゆくの?
わからない。だから辿ってみたの。
結果は?
わからなかった。時々波打つ血が、不気味だっただけで。
僕の前に置かれたスープは、無色透明、無味無臭だった。骨で出来たスプーンを上下させて、口元へ運ぶ。苦痛。対岸で、彼女の口にするスープは赤黒かった。白いはずの彼女の歯が、うっすらと赤い。抜歯でもしたかのように。では、抜かれた親知らずの跡地に、何を建てよう。
私たちの家を。
家?
私たちが暮らす家を。
(沈黙)
早くカワウソの尻尾で歯を磨いて、向こう町のオノマトペにいきましょう。
彼女は自分の分の皿を川の水で洗い始めながら、言った。
セックスをするの?
セックスは一人ではできないから、わからない。
僕はまだ食事がしたいよ。
口に合わないんでしょう。早く捨ててきて。
そんなことはないよ。
いいのよ。あの人たちが、そうしたように、私たちにも簡単にできる。
……食後にアイスを食べよう、買ってある。
あの際限なく伸びるアイス? この川よりも長く伸びそうな、馬鹿馬鹿しい綿菓子みたいに何も残さないあのアイス?
馬鹿馬鹿しいアイスなんてないよ。アイスは平和の象徴だ。それに、あのアイス、好きだったろう?
ええ、四歳の時はね。
作品データ
コメント数 : 8
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投票数 : 2
ポイント数 : 8
作成日時 2022-12-17
コメント日時 2022-12-25
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 5 | 5 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 8 | 8 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 3 | 3 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 5 | 5 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 8 | 8 |
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2024/11/21 23時12分52秒現在
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幸福感を表すものって家を建てることとかセックスってあったと思うんですよね。それらは喪失した。喪失したのはそれらの事象が出てもあんまし共有出来ない。少なくともそれらをポジティブに語れないですよね。アイスが平和の象徴として出てきたけれども、それは四歳の時だったという結末はディストピアな世界。なんだろう、シェアだとか共有だとかがもてはやされる時流だけれども、対岸に内包されてる意味は私たちには優しいものにまでなってるぐらいに他者との線は交差しない。交差しないというか、線の有無さえも判別出来ない。だから、対岸は、在るというだけ、今の時代では優しい。
0コメントありがとうございます。 > 対岸に内包されてる意味は私たちには優しいものにまでなってるぐらいに他者との線は交差しない。交差しないというか、線の有無さえも判別出来ない。だから、対岸は、在るというだけ、今の時代では優しい。 とてもわかります。せめて対岸くらいはある関係でいつづけたいものです。
0コメントありがとうございます。 >全体にきれいきれいに、また、洗練された知的な読み物として書かれようとしていたのでしょうけど、 この一行がなにか隠されていた舞台裏をみせてしまったようなブサイクなものになっている。 そんな感じがしました。用意周到なのにその用意周到さがこういう一行にしわ寄せとなってあらわれる。 きれいにきれいにしたかったわけではないです。しかし、ここに皺寄せが来ているとのことで、もう少し考えます。コメントありがとうございました。
0すごく雰囲気が好きです。アイスが平和の象徴っていう表現がすごくいいですね!
1異性と食事をするってセックスより深いと思うんですよね。だから、この詩の中にセックスという言葉が無い方が個人的には好きです
0コメントありがとうございます。夏冬どちらに食べるアイスも平和だなと思います。
0なるほどです。今回書きたかったものに、セックスのワードが不可欠だったので入れました。しかし、つつみさんのおっしゃることも解ります。
0コメントありがとうございます。今回使いたかったワードに、親知らずがあったので嬉しいです!
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