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重力をミルクに漬けて
きゆうきゆうしやよんで あの子は玄関で口周りを子猫みたいに汚して倒れている。口に付いているものがミルクか血かの違い。遠くから鳴り響く主張の塊を思考の塊で塞いでしまおうとミルクと血の違いが生まれる原因について思考を広げていたら音は耐えきれないくらい大きくなってやがてあの子の突然の沈黙のように止まった。乗せられていく、物になりかけた人。物と人との違いなんて下らないことは考えない。ジョークと憂うつを混ぜて煮込んだりは間違えてもしないのが現代的生き方のような気がするからだ。 気がつけば私はものになって浮いていた。信じられないくらいうるさくて狭苦しい箱を抜け出したいよ。小学校の机に押し込まれたお道具箱みたいな一日は勘弁。扉があった。そっと(のつもりだったけれど自分の力を過小評価しすぎたかもしれない 女の子らしさなんてものは消滅すればいいけれど誰にだって弱くなって守られたい時はあるのと流行りのバンドが歌っていた)押した扉は呆気なく経年劣化を響かせながら開いて 空に吸い込まれる、おびき寄せられる感じ。私がひと昔前の女子高生だったらヤバいって言葉を空中に浮かべていたはず。ほんと。 あの子はアイスクリームの残骸が発光する空に行ってしまうのだろうか。夏の終わりの最後の犠牲者はアリがたかる甘ったるい液体でも脳の溶けた老人でも無くあの子になるのだろうか。 君、重力が逆さまになっているのは最近。下に落ちるべきものが上に登ってくる。もしくは上に昇るべきものが下に朽ちてゆく。そしてみんな血を流している。世紀末より深刻。世紀末は自覚がある点マシだ。君のような違和感に気づいていない子たちをいちいち拾い上げてはもとに戻していたけど、そろそろ俺の身体が黒ずんできた。血を吸い取るなんてもんじゃない。嘘、疑心、嫉妬その他いろいろが俺のことをキッチンペーパーと勘違いしてる。キッチンペーパーが吸い取るのは木漏れ日に拡がる柔らかなささやきだっていいわけだ。けれど古は干物、果てはソーラーパネルだなんだと利用されてきた俺はいつからか諦めを同じ海から吸っては吐いてを繰り返すようになった。このまま鯨にはなれず迫害されたあげく真っ黒に焦がされる憐れな魚みたいになるのかもしれない。『ごめん、焦がしちゃった』『焦がしてないところだけ食べよう』血を流した人達は焦げた部分も食べ尽くせば良かったんだ。綺麗すぎるほど汚れが目立つってもんで、問題がないものよりよっぽど良い場合だってあるんだ。邪険にされるもの。ふとしたノスタルジー、極度の緊張、嬉しはずかしの遠慮。君、何をぶつぶつ言ってるんだって思うだろ。夕陽を懸命に吸い込む水平線をねぎらってみたことがあるか。うまく光れずに落ち込んでいる星を探してみたことがあるか。 「ねえ、分かったから家に帰してよ」 君、稲妻に沿って駆けてみろ。昨日と今日の隙間に挟まってみろ。空の細部を目にはめ込んでみろ。誰かをなぞるように、誰かからなぞられるように。
重力をミルクに漬けて ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 3561.6
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 130
作成日時 2019-09-22
コメント日時 2019-10-07
項目 | 全期間(2024/12/04現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 25 | 23 |
前衛性 | 17 | 14 |
可読性 | 17 | 16 |
エンタメ | 26 | 24 |
技巧 | 20 | 18 |
音韻 | 5 | 5 |
構成 | 20 | 20 |
総合ポイント | 130 | 120 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 1.9 | 1 |
前衛性 | 1.3 | 1 |
可読性 | 1.3 | 0 |
エンタメ | 2 | 1 |
技巧 | 1.5 | 0 |
音韻 | 0.4 | 0 |
構成 | 1.5 | 0 |
総合 | 10 | 4 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
これ最高ですね。夏野ほたるさんお久しぶりです。どうしちゃったんですか!って言いたくなるくらいに天才的な作品だと思います。今年、僕は有名作家の本も含めてあんまり読んでないけれど、本年読んだ中で一番かっこいいし、最強の世界観ですよ。これ。どこがどうとかを述べたくなくなるぐらいにヤバいやつです本作は。こんな感じでコメントを終えてしまうとアレなんで、一言添えると、感情の構造化が完璧だと思う。ところどころの文法としてのミスタッチに思えそうなところまでもをレトリックとして読ませてくれる。もう一つは読み心地の良さ。ビーレビには長文系の投稿作品がよくあるけれども、ことごとく読み難い。それは、「ほらほら、こういう語句、こんな文体、かっこいいでしょ?狂ってるでしょ?」的なあざとさばかりが残る。本作にはそれが無いし、それでいて、情念が宿っている。読んでよかったです。
0まずタイトルが最高である。そして理屈抜きに好きな作品だ。作者が男性なのか女性なのか、何歳くらいなのか、私にはわからないけれども、詩というのは25歳以下の「若者」と女性に圧倒的に有利な表現媒体であると勝手に思っている。それは数学が若者に圧倒的に有利な学問であるのと同じだ。この作品は散文の形式を取っているがあまりに詩なので、作者は女性であるかあるいは「若者」であるか、またはその条件の両方を満たしている若い女性なのだ、と断定したくなるほどだ。私はわざと読みにくい長文を垂れ流して、自分の作品の詩情のなさをごまかすのがとにかく得意である。だから逆に、この作品のような小細工の少ない素直な詩情を湛えた散文詩というものには正直、嫉妬を禁じ得ない。すべてが柔軟に感じられるのだ。
0み う ら さん、お久しぶりです!コメントありがとうございます。ワ〜そんなに褒められたら次はけちょんけちょんに言われるんじゃないかと震えてしまいます。でも飛び上がってしまうくらい嬉しいです。詩として書いた文章の中でこんなに長いものは初めてで自分の中ではぐだぐだ感が否めませんでしたが、読んで頂けた方によく言われる「読みやすさ」がまだ健在なようで安心しました。
0survofさん、コメントありがとうございます。「散文の形式を取っているがあまりに詩」素敵なフレーズですね。小説の新人賞で、散文の形式を取っているがあまりに詩であったため落選、などと言われてみたいです。長文で作品の詩情のなさをごまかすのがとにかく得意とのことですが、それほどの長さの中に感傷的なフレーズをこれでもかというくらい詰め込める思考を持つ脳が詩情そのものな気がします。
0沙一さん、コメントありがとうございます。死は常に私たちの周りについてまわっているのに、終わりが見えないまま流されているような錯覚に囚われているのかもしれませんね。
0この可読性の欠如がすばらしい。 また、随所に見られる秀逸な詩的文句がすばらしい。たとえば、 >あの子はアイスクリームの残骸が発光する空に行ってしまうのだろうか。 とか、 >キッチンペーパーが吸い取るのは木漏れ日に拡がる柔らかなささやきだっていいわけだ。 とか、 >夕陽を懸命に吸い込む水平線をねぎらってみたことがあるか。うまく光れずに落ち込んでいる星を探してみたことがあるか。 とかである。
0まずタイトルに惹かれました。 次に冒頭の一文に惹かれました。 そうして読んでいきますと、どうも感傷が刺激されて読めない。一旦読むのをやめて何度かリトライするものの最後まで読み通すことが出来ません。それでもどうにか感傷を排して読み進めていきますと、涙が湧いてきました。皆さんもコメント欄に記載されていますが、本作は余計な言葉を一切書かずにただただ「よいねえ」と読んでいきたい詩だなと思いました。文面から意味を掬おうとしてもうまくはいきませんが、抒情ははっきりと掬い(=救い)出せます。コメント欄にもありますが、理屈抜きに好きな作品です。ファンになりました。ありがとうございました。
0勉強のつもりで昨日から皆様の詩を読ませて頂いているのですが、読んでいて「…おおう」と声が出ました。こういうの書いてみたいなぁ、と単純に思いました
0南雲 安晴さん、コメントありがとうございます。私は過去の自分の詩を見て今回は比較的分かりやすいなあなんてうぬぼれていたのですが(お恥ずかしい!)やはり伝わりづらいでしょうか。へんてこ性と可読性のバランス考えていかなくちゃいけませんね。
0左部右人さん、コメントありがとうございます。感傷をチクチクできたようでとってもとっても嬉しいです。感傷のあの夕焼けとか怒られた事とかやたらめたらにまじり混じって鼻にツンと来る感じ、楽しいですよね。
0Sunano Radioさん、コメントありがとうございます。お勉強よいですね。おおう、頂いてしまいました!
0こんにちは むむむ、散文的な詩は、ただ何も考えずに言葉書いてるでしょってやつと、逆に考えすぎでわざとらしすぎるよってやつが多いと思っているのですが、この詩は、どちらかというと前者の方に傾いているように思えてしまいます。 ただ、その中でも、確かに詩としてまとまっていて、詩全体を通して感じるものがある。というのは、すごい事だと思います。嫉妬します。 最後に、好きな詩なのですが、もう少し、洗練できたのかなというような気もしました。ほたるさんの詩、これからも読みたいです。
0なぜか頭に入ってこない。なぜか。それはこの作品の筆致に隠された、激しい衝動のようなものが読む者を圧するほどのパワーを持っているからだろう。この詩にはまだ完成形を見ないがゆえに(筆者がまだまだ伸びるという点で)畏怖、恐怖を感じる。この作品はのほほんと暮らしていけたらなあと考えている人にとっては剣です。悪意なんてないのに、ただそこに存在しているだけで人、詩作に励む人を斬りかねない詩。そのような作品に感じました。内容自体にはほとんど踏み込んでいっていないのをご容赦を。
0私は詩を書くときに 言葉の絞りとしてタイトルから決めるのです。 だからタイトルには結構拘るんですけど この「重力をミルクに漬けて」というタイトルにこの詩は 人の数だけ回答はあるけど ベストアンサーだと思われる。 日記じゃない、詩らしい言葉があって それが歪ではなく、良いフックを作っていると思われる。 個人としては 救急車に乗って来る人も沢山見たし 不幸自慢だけど救急車に乗るハメになったことがあり その時に感じたのは 意識が不思議なもんで 体がズーンと沈んでくんですが 自分を見下ろしてる自分が浮いていく そして距離がどんどん遠くなっていく そんな経験をしました。 その時の感覚を思い出させる詩です。
0夢うつつさん、コメントありがとうございます。なるほど、何にも考えずに書いているように見えてしまうということはそういう事なのでしょう。きっと。よく分からないけど絶対何か考えてるでしょう〜!という詩を目指します。
0stereotype2085さん、コメントありがとうございます。私はやる気満々でずんずん歩んでいくようなタイプではないのですが、衝動を感じてもらえたというのは言葉を考えているうちに私の中の欲がはみ出してきたからかなと思います。全身が意気揚々と光っているひとが羨ましい・・・
0カオティクルConverge!!貴音さん、コメントありがとうございます。私はいつも後付けなのでウンウン唸りながら決めている訳ですが、今回はタイトルがしっくりくる位置に収まってくれました。タイトルから言葉をぽんぽん出せるのが凄い!です! 救急車に乗ったことは一度も無く幽体離脱的な広がりのない想像ですが、カオティクルさんの体験と重なる部分があったようで想像はあてにならないとも言いきれないですね。自分で自分を見下ろす感じ、興味しんしんです。
0そうですね、こんな感じの散文的な詩が書ければと私も思います。 「あの子はアイスクリームの残骸が発光する空に行ってしまうのだろうか。夏の終わりの最後の犠牲者はアリがたかる甘ったるい液体でも脳の溶けた老人でも無くあの子になるのだろうか。」 こんなところがとても印象的でした。
0エイクピアさん、コメントありがとうございます。うれしい!過ぎ去って帰ってこない夏を文章で残すことが求められたような気がしました。
0こんばんは。なかなか感想の言葉がまとまらないのでうまいこと書けませんが、冒頭の、 >きゆうきゆうしやよんで も、いいなと思いました。普通なら、「救急車呼んで」で済むのだけど、なんかもうヤバい状態だってことが、このひと言(の崩れ具合)だけで表されてるので。
0コメントに詩文中の語彙を用いて、ひと昔前の女子高生でもないのに もうしわけないんですけど ヤバいって言葉が なんども 浮かびました。ほんと。 まず、最初に 血とミルクの類似をさらっと書いておられるところで、ヤバし 惹きつけられました。その後も 血とミルクの飛沫が交互に押し寄せる感じが、狂気でした。狂気と言えるほど 生と死が甘くて辛い。そして、世界は分からないもので満ちていて、この詩は戦っている。そのように感じました。
0藤 一紀さん、コメントありがとうございます。分かってくれて嬉しい!なかなか意識しました。けれどひらがなにしても焦りに焦って前のめりになるような緊急の感じがパキッと出なくて、難しいです。
0るるりらさん、コメントありがとうございます。わあ、嬉しいです。ほんと。もうこの世には分からないものだらけですよね。戦ったってどうにもならない心臓の締めつけ、いつか取れるでしょうか。
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