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証明書
しょうめいが欲しい 約束に似た何かを形として 保存するわけではなく、 印籠として振りかざしてやる あの時の言った言わないの すった、もんだ、が ああ、煩わしい 非常に煩わしい 甚だしく湧いてくる記憶は 恥ずかしいものばかり 一回目の記憶は台湾のサウナでスペシャルマッサージという名の風俗だったわけで、それ目的でサウナに入ったのに、いざとなって武者震い、悩むこと五分ほどで、友に促されて部屋に移動した。業務用エレベーターに乗って、降り立った先の暗い廊下はまるで料亭の趣き、そして、ぽっちゃりが現れ、英語で会話をひたすらしながら、なぜかひたすら笑われ、てめえ、何がそんなにおかしいのか、しまいには「Sorry, Sorry」って、だけど、覚えているのは「How old are you?」って聞かれて素直に「Twenty Six」って答えたけれど、一体何が聞きたかったのか、わからないから、ああ、煩わしい記憶だ。 二回目の記憶は仕事で熊本に行った時で、それはそれで真っ当な仕事をしに行ったはずなのに、上司もいるのに、先輩が誘ってきたから、もう一度、先輩が誘ってきたから行かざるを得なくなったわけで、高い高い出費だったなあ、それでも復興だと偽善者になって、今度はガリガリの女性、好みじゃない、そして、何しに来たのかやたら聞かれて、「ああ、昨日も誰か来たかもしれないね」って、うちの職場は腐ってやがるな、何となくそれらしく一通り終えたけれど、出るものも出なかったから、最後に「何でこの仕事してるんですか?」って聞いたら、「私、もてないんです」って、「ああ、人に必要にされたいってことですね」って返したら、女性思考停止、さようなら。 三回目の記憶は沖縄旅行に行った時で、一回目の記憶の時の友とまた一緒に行ったけれど、無料案内所使うとか外れだね、きちんと調べてから行った方がいい、両肩に鯉が泳いでいる女性で、やる気のない接客だったけれど、それでも仕事は仕事として慣れていて、初めて出るものも出たもんだから、調子こいて煙草吸いながら、缶コーヒーを頂いたけれど、「それ、スタッフが二十円ぐらいで買ってくる安いやつなんですよ」とか言われて、反応に困ったけど、出るものが出たあとでの補充としては不十分すぎて、とりあえず何か聞きたかったら「その入れ墨本物ですか?」とか、聞かなくてもわかりきったことを聞いてしまった、ああ、煩わしい。 いつまでも発行されないしょうめいがようやく形となったけれど そのうち風に飛ばされて、雨が降って、地面にへばりついて、誰かに踏まれて、踏まれ、踏まれて、靴のへりにこびりついて、いつか風化されるしょうめい それよりもあの時言ったことを忘れないでいて欲しい その代わりにきみが言ったことを都合よく忘れてあげるふりをするよ 一週間後、一か月後、半年後、一年後、三年後、七年後、それぐらいの周期でテストしてあげる 答えられなかったら、 あの時のことをそっくりそのまま再現してあげる (このあいだ、友が飲み会に行って、風俗での失敗談を語っていたら「彼は、風俗に行くの?」ってそこにいなかったはずのぼくのことを聞いたそうだね、友の作り話かもしれないけれど、友もきみもぼくとの間柄だから、そのしょうめいはいらないよ、この話は受理させていただいた) 誰かの記憶に染められて あそこにいたはずのぼくは 消えてなくなった ぼくの記憶がただ 間違っていただけなのか それでも映像が蘇る 雑踏を抜けて自室に帰ると 直前に会っていた人の声が ループ再生される ああ、煩わしい ぼくの頭の中で踊るきみはきみの意思を持っていて、思い通りには動かない それはもちろんよいことだ、幸いなることだ だから、しょうめいが欲しい 煩わしい記憶とさようならができない
証明書 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1007.9
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-03-18
コメント日時 2017-03-26
項目 | 全期間(2024/12/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
今夜は眠れないかもしれない。なかたつさんが書くが綺麗すぎて、鮮明で、1つの物語が小説のような、それじゃなく、映画のような、あれじゃない。 この作品は詩でしかできないことがたくさん詰まっていてがため、それをこなせる技巧に感銘しました。
0奏熊とととさん 十分すぎる賛辞です、ありがとうございます。 大変おこがましいことを承知したうえで申し上げますと、気に入った部分やフレーズなどを提示していただけたら、今後の参考にさせていただきます。
0花緒さん コンパクトにまとめていただいて、ありがとうございます。 この作品は勢いのままに書いてしまい、私の中で書こうと思ったことと書こうと思っていなかったことが交錯して、結果的にこの形になりました。 分岐点によって選択されなかった言葉たちもいずれは何かしら書こうと思いますが、「勉強」というより、何かしらひっかかるものがあったなららば幸いです。
0なかたつさま はじめまして。拝読させていただいて、次の箇所が特にいいなあと思いました。 最後に「何でこの仕事してるんですか?」って聞いたら、「私、もてないんです」って 風俗嬢に何でこの仕事をしているのかを聞くのって嫌がられる質問だと思いますが、それを聞いちゃう話者にひやっとすると同時に、ああ、楽しくなかったんだなあという投げやり感が伝わってきました。その上、嬢の「もてないから」っていう返しが秀逸です。こういう何の気なしに出る一言が詩的だなと思うことってある気がします。 風俗ネタは詩にできそうで、なかなかできないイメージが個人的にはあるのですが、果敢に挑んでおられていいです。参考にしたいと思いました。
0どしゃぶりさん 風俗ネタに限らず、すべての人の生には、その人なりの歴史が必ずあるはずで、そういったところを探るのが僕は好きです。 そういった意味で、たとえ風俗嬢であろうと、むしろ風俗嬢だからこそ、なぜあなたがそこにいるのか、ということが気になってしまうわけです。 詩にできそうで、なかなかできないイメージがあるかもしれませんが、それは風俗に限らず、あらゆるものが詩になりうるものだと信じて、それを感受する側の問題として、僕は挑戦し続けたいですが、やはり、僕は風俗ネタが好きですので、僕は僕なりに自然な行為だったと言えるでしょう。
0私は本当に小心者なので、半世紀以上生きてきたのに今まで一度も風俗というものに行ったことがない。別に真面目なわけでもあっち方面が淡泊な訳でもないのだが、恥ずかしい思いをしてまで行きたいとも思わず、友人や会社の同僚に誘われてもさり気なく断っていた。そんな私だが、この詩の中のエピソードや会話は非常にリアルで面白いと感じた。 旅の恥はかき捨てだからと忘れてしまえば良いのだが、こういうことが頭から離れない人もいる。私がもし語り手と同じ体験をしたら、やはり何年たっても忘れられずに思い出しては頭を抱えていたことだろう。風俗での一種の失敗談を語るだけなら、それは単なる軽めの旅行記だ。だが風俗の女性たちと共に、「きみ」についての話が出てくることでこの作品は立派に詩として成立していると思う。語り手が証明書にこだわるのは、自分への自信のなさだけではなく「きみ」への愛情的こだわりのせいかのかも知れない。
0もとこさん 詩にリアリティを求める、求めないは人それぞれであり、これが実話かどうかも議論すべきかどうかはわかりませんが、リアルで面白いという評価はうれしいものです。 後半部については、僕から特に申し上げることはありません。 ただ、風俗というのは、お金と行為による明確な利害関係が存在するのですが、その関係性を幾層にも重ね、また、風俗嬢という存在の層をたずね、それと同時に、「私」自身にある幾層の「私」を表したかった結果が、「きみ」へのこだわりが必要だったのかもしれないです。
0以前のコメントはすみません。詳細に書いていこうかと思います。 私がこの詩を評価したいことは ・表現の生々しさ ・詩の形態の変化と構成 ・言葉に濁りがない という点です。 ・表現の生々しさ {一回目の記憶}の {台湾のサウナでスペシャルマッサージ} {業務用エレベータに乗って} ここの部分が私は好きでした。 台湾のサウナからの業務用エレベータで不十分で怪しいお店を表現する この生々しさは真似できません。 また {缶コーヒーを頂いたけれど、「それ、スタッフが二十円ぐらいで買ってくる安いやつなんですよ」とか言われて} この部分がとてつもなく私は好きです。さらっと流すようでとんでもないことを言うようで ・詩の形態の変化と構成 詩の構成がジャズのようにまた全体の構成が一枚絵のように感じます。 私もこういった散文詩や詩の配置などを工夫しようと思いましたが、この詩は詩と詩の溶接に出っ張りがないというか 区切りが見えないのです。 そういった点で私は大いに感銘しました。 なぜなら、私がこういったことをやるとしましたら区切りを思いっきりつけて、ポストハードコアになってしまうので ・言葉に濁りがない これは私の個人的感想です。 言葉に濁りがないといいますか、政治家の前衛的な詩でなく一歩引いた綺麗さを重視したことで先ほどの生々しいフレーズがすんなりと 感情に入り、「しょうめい」が知らぬ間に自分の心の中にいることです。 私は元々、ネット詩を見て来ましたが、どうも、なんというか「作者の心情が押し寄せる詩」が苦手です。 ですので、私はこの詩を評価します。 なかたつさん、本当にありがとうございます。
0性を描きながら、快感を書くのでもなく、侮蔑を描くのでもなく、讃嘆を描くのでもなく、屈辱を書くのでもなく、煽情を目的とするのでもなく、義憤を書くのでもなく、哀憐を描くのでもなく・・・つまりは、肌感覚や感情に関わることを書いていない、その淡々とした筆致に驚きました。 人間関係のわずらわしさ、ひいては(変な言い方ですが)生きていくわずらわしさ、そこに照準が当たっているのですね・・・レストランでマズイ食事を出されてしまって、そのウェイトレスとの会話のような・・・「風俗」という生々しさ、アングラのイメージとはまるで異なる、日常の続きの様な書き方が印象に残りました。
0奏熊とととさん 僕が想定した以上に、詳細に書いていただき、誠にありがとうございます。 表現の生々しさ、というところは、確かにこの詩の持ち味かもしれません。 背景を語ってしまうと、作品が色褪せてしまいそうで、正直語りたい気持ちがあるのですが、そこは我慢して、ただ、生々しさを感じていただけたのは幸いです。 溶接に出っ張りがないというのもいい表現ですね。 詩は声であると僕なりに定義づけているのですが、それは呼吸であって、また、転調・変調も起こりうるものだと思っています。 そうした、転調の境い目を意識して書くこと・読むことはおそらくどんな詩にもあてはまることで、一行と一行の間のスピード感というのは、まさにその人なりの呼吸のスピードだと思います。 重ねて御礼申し上げます。 まりもさん 肌感覚や感情にかかわることを書いていないというのが少し驚きました。 というのは、僕が書いたから僕はわかってしまうのかもしれないですが、この詩は僕の弱さが滲みでてしまっていると思っているからです。それをごまかしているのかもしれないですね。 まさに「風俗」は、日常と地続きにある世界だと思っております。そこにいる人、来る人、場所だって、見落としているに過ぎなく、どんなものにも僕と同じような生もあれば、僕と違う生があるのだと信じています。
0なかたつさん、こんにちは。 この作品が作品として完成されているかいないかというのはよく分からないけれど、飽きっぽい私がこれだけ長い作品を通読できたというのはひとえに作者の筆力だと思う。そして、この作品は「書くために書いた」作品ではなく「書かれるべくして書かれた」作品であるような気がして、読めてよかったな、と素直に感じました。人の生理なんてうたわれるほどうつくしくもない、ましてや劇的でもない。語り手にとって3回の風俗経験はとても印象深いものだったのかもしれないけれど、風俗嬢にとってはおそらく顔すら覚えてない客のひとりでしかない。そんな誰の記憶にも残らないような(傍から見れば)些細な体験が語り手のなかでは煩わしい記憶として残り続けているんですね。私も風俗に通ったことは一度もないのですが、ふとした瞬間に過去のセックスの体験が蘇るというのはよく分かります。性的なコミュニケーションというのは言ってみれば自分が普段秘匿しているものを曝け出すわけで、その瞬間ってこの上なく無防備だと思うんですよね。そんな交感を誰かに「業務」として消化してもらうというのが私は想像するだけで耐えられないのだけど、おそらく語り手にとっても決して快いものではなかったのでしょう。語り手(クライアント)が風俗嬢(ベンダー)に「何でこの仕事してるんですか?」と聞くこと、聞かずにはいられないのも、もしかしたらそのような耐えられなさからかもしれません。直接的な表現は作品としての弱みとも言えるし、題名の証明書というのも、作中に散々「しょうめいが欲しい」と書いているのだからもう少しひねったものでも良かったのではないか、と思わなくもないのですが、作品としての体裁を繕えば繕うほど記憶は偽装/隠蔽されるでしょうからこのくらい素直な方がいい気もします。こういう評価の仕方は卑怯だし、作者としては不服かもしれませんが、やはり私は作品としての完成度云々以前に「この作品を読めてよかったな」と思ったのでした。
0紅月さん 「書かれるべくして書かれた」というのは、僕にとってもそうかもしれません。 風俗嬢にとっての視点は正直抜け落ちてましたね。確かに僕は一方的に記憶している出来事が多くて、相手側からしたら何もない記憶、でも、そういったことがこの詩のテーマになっているのだと思います。 実際の証明書というのは、名前と印鑑が重要になる気がしますが、この作品においては、そういったものではない「しょうめい」を求めていたんだと思います。 僕は、作品を推敲するのが苦手で、書いている途中は細部をちょくちょく直しますが、書き上げてしまうと一気に投稿してしまいます。そういった意味で完成度、見直す余地はあると思っています。(冒頭の「印籠」のくだりはいらないと思ってます) ただ、他の方のコメントと似たような「この作品を読めてよかったな」という賛辞をいただき、ありがたく思います。
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