なー、つー、 - B-REVIEW
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PICK UP - REVIEW

ことば

ことばという幻想

純粋な疑問が織りなす美しさ。答えを探す途中に見た景色。

花骸

大人用おむつの中で

すごい

これ好きです 世界はどう終わっていくのだろうという現代の不安感を感じます。



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なー、つー、    

踏んでいたのが ちいさいクワガタムシだ と気づいたのは 仕事が終わって スーパーで発泡酒を買っている時でした そうか クワガタムシだったからか だから 踏んだ時に 井上陽水の少年時代の 「なー」ってとこが聴こえたのか 冒頭のやつ。 そう考えると ねじれゆく日々とは 醤油を四畳半にかけながら フォークギター片手に 「もっと俺が面倒見のいい先輩みたいに言えよ。」と、嘯くようなもので そういえば あんな不安定さを、不安定な肯定感でもって 気持ちよくなっていた頃に ぼくらが聴いていた音楽は 結局、自らが始末書を作成するために パソコンのキーボードを叩く あの規則正しい、よわよわしい じつによわよわしい ピアニッシモの、音階のない 無機質な水気のないテクノ音に のまれきり、僕らは かわききり、ひからび、 歯車になれました、というよりは 歯車に巻き込まれて、ぐにゃぐにゃの やはりその身体、メンタリティーは それはねじれてはいるが まるみはなく 骨身も、肉も、返り血も ちらかりきっていて 連続殺人事件が三歩、歩くごとに行なわれかのように 凄惨極まりなく、 ああ 僕らは蹂躙されたのだと 素面の時には ふと目の当たりにしてしまうのです。 この安酒かあ 酔うかあ と、ワイシャツで締め付けていた負荷を 洗うかあ と 儀式と呼ぶにはあまりにもだらしない ていたらくで この部屋で一番やらかいところに しがむのです。 しがんでいると 隣で井上陽水がクワガタムシを踏んでいました 井上陽水が踏んでもクワガタムシは 「なー」までしか音を出しませんでした 「ここは、なーって鳴くやつしかいないねえ。」 さびしそうな顔をしながら クワガタムシを井上陽水は踏んでいる 湿度が油絵の具の重さをはらむと 黒渦が浮かび、にじんで 夜、 向こう側に行く事があまりにも 途方もなく感じて 井上陽水だからとかじゃなく 遡行する事が出来ない時間が泣いているような おおげさな音たちが部屋に反響しています 「なー」「なー」「なー」「なー」 そのワントーンがアパート中に木霊していて 井上陽水も僕も ライターの火のように 存在がおぼろげで、胡乱きわまりない クワガタムシを一心不乱に踏みました なかなかうまくいかない夜は 十一月になってもまだ暑いもので それはたぶん 手元の狂いきった日本の夏なのでしょう。 麦茶のにおいがし始めれば あの頃のぼくらに戻れるのではないか と酔いきる僕は もうクワガタムシたちの音に こらえきれなくなり 少年時代を 自ら がなり始めていました。 井上陽水は 「そんな曲だったかなあ」 と、呟いていました。 嘘です。 呟いてはいませんでした。 話を盛ってしまいました。 そうだな 僕は子供でも大人でもないわけか。 ただどうしようもなく、 幽霊のように自分を感じとれなくなりそうで、 痺れきった足を放り出し、丸くなり なんらかの生物の形をとらなければと 思案し始めました。



なー、つー、 ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 18
P V 数 : 1172.5
お気に入り数: 0
投票数   : 3
ポイント数 : 0

作成日時 2025-02-07
コメント日時 2025-02-17
#現代詩 #縦書き
項目全期間(2025/04/09現在)投稿後10日間
叙情性00
前衛性00
可読性00
エンタメ00
技巧00
音韻00
構成00
総合ポイント00
 平均値  中央値 
叙情性00
前衛性00
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 エンタメ00
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閲覧指数:1172.5
2025/04/09 13時23分01秒現在
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    作品に書かれた推薦文

なー、つー、 コメントセクション

コメント数(18)
おまるたろう
おまるたろう
作品へ
(2025-02-07)

「不敵な」読み物ですね。モノローグって、わざと可読性を壊したり、ペダンチックでジャーゴンを利用した自分語りに耽ったりしがちでなんですけど、ぎりぎりのところで回避されているようです。(続きは後日書きます)

1
おまるたろう
おまるたろう
作品へ
(2025-02-07)

>「不敵な」読み物ですね。 ここに、「素敵な」も付け加えたい。

1
三明十種
作品へ
(2025-02-07)

アンドレ・カンドレいや井上陽水ならとぼけてこう言いそうやなーと思いましたよー

1
鯖詰缶太郎
鯖詰缶太郎
三明十種さんへ
(2025-02-07)

ね!! ナンダレカンダレ、歌いながらね!!! 言いそうよね!!!

1
鯖詰缶太郎
鯖詰缶太郎
おまるたろうさんへ
(2025-02-07)

こんばんわ。 そもそも僕に「学」がないので衒学系はどうにも難しいといった有様です。 長い文章になってしまってすいません。 読んでいただいただけでありがたいなと思っております。 これ、長くなってしまったなあ、、、 と、思ってはいたところなので、、、 作品、読んでいただきましてありがとうございます。

0
おまるたろう
おまるたろう
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(2025-02-08)

サバカンさんのご迷惑にならない範囲で、考察を残していこうと思います。(もしご迷惑なら、お知らせください) とにかく流れがよく、ただ、そこが瑕にもなりえるかもなと思いました。 よく読むと、だいぶ「...へ?」な連想の途切れの箇所も散見されます。でも、そんなの関係ねーといわんばかりの猪突猛進ぶりで、読者を強引に引きこんでいます。サバカンさんは日本男児っすね。一気に読ませる力があるのは、間違いない。 最終連もだいぶ感覚的ですし、まじめに考えだすと頭をかかえてしまいそうです。読み手に「なるほどな、そうか」と思わせるには、第一に、具体性のチョイスが重要でしょうけど、 わたしには、オチの強度が、これを「書かせた」必然性に結びついてないようにも感じられるのです。むしろサバカンさんのノスタルジーや個人的嗜好、視覚的な好みの力で支えられている。 たとえば、井上陽水の「神っぽさ」や、クワガタムシの「なー」というくだり等、一部は面白いけれど、全体で眺めると、メインモチーフと反響してない部分もけっこう点在します。 したがって、徹底したつくりこみがあるとは思わないのですね。かなりラフな偶然性に頼っているように思えます。

1
メルモsアラガイs
メルモsアラガイs
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(2025-02-08)

虫オタクでもあったのでしょうか。もちろん少年時代ですよ。 実際ギター片手に歌われてたのでしょうね。部屋の隅で、人前でも?  おもしろい解釈というか、懐かしさの憐憫に戯れるというか、この少年時代という歌を打ち込みのリズムで、アレグロに流せば雰囲気はガラリと陽気な歌に変わりますね。歌詞などそっちのけですよ。あなた。実際試みたことがあるのでしょう?面倒くさい会社の資料を前にして仕事に飽きて。違いますか?笑 夏が過ぎ 風あざみ~ 夏は夏らしく。こんな季節感なんてどこにあるの? 猛暑だよ。猛暑。そして大雨洪水警報注意報。ああ寒い。そんな年明けにもこの寒波襲来。人間が狂いはじめてんだから、季節が狂うのも仕方ないじゃん。ソイじゃん。 って皮肉に満ちたこの詩はきっと井上陽水もおもしろがるでしょうね。というわたしも目の前の移り変わる街の景色を眺めては少年時代なんて想い出すのは夢の跡屑ですよ。何も残ってはいない。ああせつないが嘆いても仕方ない。時代と諦め受け入れるしかない。   そんな反動的にも嫌悪感を帯びてくる歌ではあります(陽水さんごめんなさい) この詩は力作です。嵩い壇上の詩人会へも投稿をオススメしてもいいくらい。いいくらいダヨネ。アハ。

2
鯖詰缶太郎
鯖詰缶太郎
おまるたろうさんへ
(2025-02-08)

こんばんわ。 コメント、ありがとうございます。 かなりごもっともな意見だな、と真摯に受け止めたいと思いました。 具体性への歩み寄りも考えて、文章を作っていくという事を、「抽象表現」だしなあと思い過ぎているのも、読んでくれている相手を置き去りにしすぎているのではないか。 というのは、書いた後、自己分析するなりで、自省したりします。 結構、自分のこれまでの作品にも言えるような指摘で、やはりそこの「ちょうどよさ」や「微妙ではなく、あくまで絶妙をやってみるべきだ」というのは、これからも文章表現をやっていく上で、「他人に読んでもらう」という行為に対して、誠実とは何かという事を追求していくという意味でも醍醐味であるよな、と改めて考えました。 作品、読んでいただき、ありがとうございます。

0
鯖詰缶太郎
鯖詰缶太郎
メルモsアラガイsさんへ
(2025-02-08)

こんばんわ。 コメント、ありがとうございます。 井上陽水氏の「少年時代」。 ひとつの場面、あるかないかわからないような場面、この曲はひとつの空間を切りとってしまっていて、そういった「空間」を丸ごと、もってきたような曲っていうのは、そりゃなかなかないもので、そういった意味でも「特異」な曲だなあ、と思っております。 「うつくしい」とか「ノスタルジー」と一言で語るには、足りなかったなあ、言葉が。 と、余韻の中で、自省をうながされるような、ほっとけない魅力があると思っています。 「日本現代詩人会」。 毎度、公開されている入選作を読むと、そりゃ入選するな、と、ひとりごちます。 (と、同時にそりゃこれでは落選するな。とも思います。投稿した自作に関して。) なかなか、これだ!と思うものが書き上げられないので、投稿自体しばらくやっていませんが、なにか、これかな?というものが出来たなら、また投稿したりしてみたいなと思っております。 作品、読んでいただき、ありがとうございます。

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おまるたろう
おまるたろう
作品へ
(2025-02-08)

陽水って、なにか「神っぽい」ですよね。単なるシンガーソングライター以上の、どこか神秘的で超越的な存在感がある。ぎりぎり昭和生まれくらいの世代までなら、みなそれぞれの心のなかに陽水がいる。 だからほんとうは「少年時代」だけではない。「ダメなメロン」の陽水もいるし「娘がねじれる時」の陽水もいる、「闇夜の国から」「ワインレッドの心」の陽水もいて...。陽水のイコンはますます多層化し、増殖を続ける、Make-up Shadowに。 時代ごとに相貌がかわる。四畳半フォークの70年代から、異常気象の人新世まで。 >ああ 僕らは蹂躙されたのだと >素面の時には >ふと目の当たりにしてしまうのです。 話者のこういう気持ちは単なる個人の感傷ではなく、時代の大きなうねりの中で「巻き込まれた」感覚として、共感しかないですね。もう「狂う」くらいしか、選択肢がなかった、というか。 むかし聴いていた音楽が、今や「キーボードを叩く、規則正しい、よわよわしいテクノ音」にのまれ、かつての熱量が失われてしまった。「もうクワガタムシたちの音に こらえきれなくなり 少年時代を 自ら がなり始めて」も、「少年時代」のあの頃に戻れるわけではない。

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おまるたろう
おまるたろう
作品へ
(2025-02-08)

>そうだな >僕は子供でも大人でもないわけか。 >ただどうしようもなく、 >幽霊のように自分を感じとれなくなりそうで、 おもいっきり明後日なプロファイリングかもですけど、ある時代にすごく刺さったであろうタイプの作品にも思えるのです。いまふうの、品の良い群れたがらない人や、シュッとしている、六本木とかに住んでるイケメンやらは、扱いが分からないので苦手にしている、、そんな感じの話者ではないか。

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鯖詰缶太郎
鯖詰缶太郎
おまるたろうさんへ
(2025-02-11)

井上陽水氏であれば、こう言うだろうか、こうは言わないだろう、と思って書いていると、どこか「達観」しているというか、ノマド感があるというか、そんな感じになってしまったかなあといった感じでしょうか。 なんか、物語の途中で急に近くにいても、違和感のない感じといいますか。 実際は、突然、そばに現れると「きゃー!!!」ってなもんで、「グラサンのオジサンが、自室でクワガタムシ踏みながら、なんか言ってるー!!!」って卒倒するな、と思いますが。

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おまるたろう
おまるたろう
鯖詰缶太郎さんへ
(2025-02-11)

面白い考え方ですよね。 わたし自身は、サバカンさん独自の「サブカル一歩手前空間」みたいなのが設定されているのが、 妙に「読めて」しまうような身体性があって、 まあ勝手な思い込みかもしれないですけど。 書きたいことを直接書く手前で、 巧妙なオペレーションをかましている。そこが興味深いと思っています。 今月投稿された「なつねこ」も非の打ち所がないような巧さがある。 この「巧さ」の低音の定位みたいなのがあって、 例えばオタクのファムファタル待望(オタクの部屋×妖精=同人誌的な) をモロに出すと引かれるだけなので、そこはきちんと回避されているが、 でもどこか通じる部分もあるような、、そんな感じがしているんですね。 「意識的にポップになり過ぎないようにしている」というのか?、、まあ、操作ですね。 もしそうなのだとしたら、なぜそういうふうに書くのか?という興味もあります。 単純にサバカンさんが「大人だから」ともいえるかもしれないですが。

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レモン
レモン
作品へ
(2025-02-11)

こんばんは。 これは良いです。 文章の破壊と再構築がきちんとできていて。 しかも面白くて、途中で私、笑ってしまいました。 笑わせられる詩は強いです。 「つー」で少し悩んだのですが、 丸くなった生物の形かな?と思いました。 良い詩を拝読させていただき、 ありがとうございます。

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鯖詰缶太郎
鯖詰缶太郎
おまるたろうさんへ
(2025-02-15)

こんにちは。 読んだ時にどう捉えたかという「読み手」の解釈が、それぞれありまして、 僕も、こう書いたら、他の人はどう解釈するんだろうなあ、と手探りで書いています。 こういったところに投稿するので、「読み手」の存在を意識して、「具象的」に表現してみようと思っております。 個人的に思う「抽象表現」の魅力は、どういった解釈でも、「ほぼ無限」に楽しめる要素があるところだと思っています。 たとえば、教員研修テキストとして読む「夏目漱石、同時代の作家群との教師未満教師以上として考察する比較論」や、ハーマン・メルヴィル「白鯨、そのあたらしい聖書たりえたかもしれない可能性の考察」みたいな、多様な解釈方法。 真正面から見れば、緑の狸に見えたが、 骨相学として見れば、赤い狐に見えるのだ、というような。 「他の人」が自分の作品から紡ぎ出すナラティブが単純に興味深い、という理由で、こういったところに「作品」を掲示するのはおもしろく思います。 (なんか、長々と書いてしまい、反省。)

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鯖詰缶太郎
鯖詰缶太郎
レモンさんへ
(2025-02-15)

こんにちは。 その、あまり関係ない話かもしれませんあが、 昔、結婚などのおめでたい式典で、おめでたいパフォーマンスをやるバイトの面接に行った事がありまして、その面接の後に実際どういう事をやるのか、このあと、「研修」をやるから、という事で空き地のような所で、研修を受ける事にしました。 パフォーマンスの簡単な型を覚え、「ここで面白い顔をするんだ。」と言われ、面白い顔をしました。 「ぜんぜん、おもしろくないじゃないか!」 と、それのどこが面白いと思ってんだ!と言わんばかりに怒られました。 面接、落ちました。 僕は、「おもしろくない」人間だと、基本的に思っているので、笑っていただけたならば、単純に嬉しいです。 タイトルは苦しまぎれに、なんとか「つけきった」ような気がします。 タイトルつけるのは、面白い顔をするのと同じくらい、難しいです。 作品を読んでいただきありがとうございます。

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おまるたろう
おまるたろう
鯖詰缶太郎さんへ
(2025-02-17)

サバカンさん、こんにちは。 こちらこそ、ウザ絡みですみませんでした。 そういうことですね... となると自分の「かなりラフな偶然性に頼っているように思えます」という認識は、改めないといけないようですね。そうではなく、その余白には、サバカンさん独自の美学があるということ。 いや、本当に勉強になりました。感謝いたします。

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貴月 紫之
貴月 紫之
おまるたろうさんへ
(2025-02-17)

初めまして(?)。 私、大和撫子じゃないもので、 日本男児とは、とことん合いません。 私が愛してるのは、メルモsアラガイsさんです! (fammefatalのエルフより) ※尚、お返事は必要ありませんので、宜しくお願い申し上げます。

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