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雲
夜が来ました 雲はどこかのんきそうに流れて 僕ものんきに彼と並んで歩きました 暗くても怖くはありませんでした この砂浜は金色の月が やさしく照らしてくれますから 夜空というものは 最高密度の紺碧です その青さの中に 星は浸っています おうい雲よ 僕はそう声かけながら 彼の行き着く先を目指します 朝が来ました 彼は少し大きくなっていましたし 僕は竹林の露の光沢溢れる石路を歩いてます 白日の下に全てが晒されました 全ての罪が記されました だけどすべてが僕のものではありません 僕の前に現れたのは 青い炎の幻影だけ 溶けた雪の上に消えた哀傷の幽霊だけ かつての日々に対する懺悔が何になるでしょう 全ては青い炎が映し出した幻影にすぎないのに 昼が来ました どこともわからぬなかで そっとゆづり葉の樹の下に座ります 僕は誰かが譲った言の葉に生かされてきました 僕も僕の言の葉を譲れるでしょうか 雲はぷかぷかと動かずに揺らめいています まるで僕が再び歩き出すのを待ってるかのように もくもくと大きくなりながら 夕方が来ました 子供たちも大人たちもいない西武園です 雲は遥かに大きくなっていましたが 夕焼けを遮らないように動いてます 人々の心を 僕の詩で癒せるのなら 僕は詩を手段としましょう そんなこと思いながら 旧き日々のメリーゴーランド そっと眺めるのです 再び夜が来ました 星月を隠すまでになった雲と へとへとに歩き疲れた僕は 磐城平までやってきました おうい雲よ あとどのくらい歩けばいいんだい どこまでゆくんだ 馬鹿にのんきそうにここまで来てしまったのに 灯を点けて呉れよ もう何も 見えやしないんだ 朝も昼も夕方も夜もないように イーハトヴもまた一つの地名である 彼は雨を降らしました 万物不滅を意味する 水銀の雨を あんなにおそろしくみだれた雲から このうつくしい雨がきたのです 僕は有機交流電燈のガス燈の下 ただその慈雨を一心に浴びました ガス燈と僕以外の全てが 雲に包まれるなか 銀河や太陽、気圏と呼ばれた世界の 泪たちが降り注ぐなか 優しい声が (Ora Orade Shitori egumo) 雲の、雲の、声が 消えていきました 僕の意識と共に 残酷な奇跡の時代が過ぎ去ったわけではないという信念を 私は揺るぎなく持ち続けていたのだ ぼんやりとした僕の視界には あの淡い金色の月と それに照らされた紺碧の夜空 そして永遠に続く砂浜 おうい雲よ どこにいったんだい あの雲は、彼は 僕の星影に残り続けている人みたいに どこにもいなくなってしまったんだ あの人はスイカを待っていた かなしく白くあかるい死の床で あなたが食んだスイカの汁は どことなくあなたの血と混ざったように そう思われました 夢は破れた 塔は崩れた 僕は僕一人でいかなくてはならないのでしょう 優しい砂を掴みながら、ゆっくりと立ち上がります 丘の上まで登って 雲とあの人の名前をそっと刻んで そのままにしていきました いつか夜ではなく春が来て 若草たちが誇るように 丘の上に茂るとき その愛しい名前たちをずっと 守ってくれますように
雲 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 561.1
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2024-09-09
コメント日時 2024-09-11
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
ちょっちながい。具志堅用高ならそんな感じのコメントをしそうです。良くも悪くも読書をしている感じがしました。
0コメントありがとうございます! ……まあ、うん。僕も「ちょっとこれやっちゃったかなあ」という気はしてたんだ……。 でも、「良くも悪くも」で済んで良かった……。
0春と修羅のオマージュ。でもかなりゆるい。 それを過剰さとして(肯定的に)解釈するほどの強度はあまり感じないな。宮沢賢治的古風さがほしい。読んでいるとファンタジーやフロムゲーみたいな気がしてくる。でもこの路線は面白いかもしれないとも思った。
1関係ないけど、宮沢賢治好きは司馬遼太郎も好きなんだろうな、と思う事がある。
1大谷翔平という偉大な将来を育んだ土地柄には時間という概念に囚われない自然との共生を思い描きたくなる。そんな健やかな少年たちの姿が浮かんでもくる爽やかで大らかな詩ですね。
1コメントありがとうございます! ……他にもオマージュ元があるのは黙っておこう。 しかし、フロムかあ……最近、ACシリーズのストーリー動画やAC系楽曲を聞いている以外に、まるで心当たりがないぞ……! それはそれとして、AC4系列は雰囲気いいよね。 司馬遼太郎……ちょっとしか読んでないけれど、確かに好きだな、うん……
0コメントありがとうございます! ……あっ、そういえば彼、そこの出身か(僕の場合は人文系だからか、岩手といえばイーハトーブと遠野、平泉ばっかり連想することが多い) そして、そういった読み方か……むむっ、確かにそれもあるか……。
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