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霜の翼を祈りに乗せて
ずっとずっと、君は静かに歩んでたんだ 華奢な肩に小さく可憐な胸を運んで 海鳴りに、遠く人々の鼓動を夢見ながら あの日、ベルクハイデには夢が降りしきっていた 君の、あの安らぎに満ちた横顔 牡丹雪が君と僕を隔て続けるなか 亜麻色の瞳は雑踏を映しながら曇天を抱いていた 永遠っていうものがあるならば あの日君はそれを抱いていたのだろう それはくすんだ灰色で、まるで 人々の明日のような物哀しい美しさをしていて 君が仄かにも哀しみを背負おうとしてるんじゃないかと 薪を焚べるのにも一苦労な君の肩を想って 僕はその場で君を抱きしめたくなった 牡丹雪なんか全部なぎ払って 舟旅から帰ると僕は温もりに安堵したけれど 君はやさしくもどこか悲壮な目をしていて 星々は大地に射すように輝いていた 意を決した瞳の、幾万もの象徴のように その昔―といってもほんの少し前のことだけれど まるで人魚のようにしとやかな腰つきで君は 黄昏の広場をゆっくりと回りながら夢を口ずさんでいたよね 十八番の歌をうたうように優美で その心音が明日に響くかのように温かくって 僕より人々なのかい?と言いたくはあったけれど その瞳は少女のはにかみで潤んでいた でもあの日、亜麻色の湖面に降り積もった灰色の夢は 君を物哀しく現実的なトーンで染め上げてしまった ねぇ、僕は 無邪気に微笑み続ける君を見ていたいよ 透き通る夢に焦がれる乙女でいてほしいよ でも君は選ぶんだね 人々としかと見つめ合い ときに冷たい手を取りながら ほんのりと哀しい明日をともに歩いてゆく道を 暖炉の焔は消えかけていた 目を瞑ると ひたむきな君が凍てつく夜空を翔てゆく 華奢でなだらかなその背中は小さくて 小さくて その瞳が凛々しく煌めくほどに切なさが零れ "君の前途に幸あれ"― 隔てられた遥かなる距離を翔けてゆけと 霜の翼をそっと祈りに乗せていた
霜の翼を祈りに乗せて ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1046.4
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2024-07-16
コメント日時 2024-07-19
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
修辞が多くて、ごちゃついてしまっている印象があります。気持ちの強さを表現する手段は修辞の量に限らないのではないかと思いました。しかしなんらかのパッションがあるのは伝わりました。
1スピンオフ散文詩―クマゼミと彼女― 「クマゼミが好きなの」と彼女が言ったときには驚いた。セミとはいえ一応"クマ"とついているし鳴き声もワシャワシャとけたたましく、それらは彼女の華奢な肩や小さく可憐な胸には似合ってないように思ったから。でも彼女が「クマクマクマ〜」とセミに唱和するように口ずさんだときには、もっと驚いた。というのもそのとき、"そうか、クマはクマでも子グマという発想もあるのか!"との認識に電撃のように打たれたからで、すると今度は真逆に、クマゼミと彼女の組み合わせがこれ以上ないほどにキマっていると思えてきて、僕はあたかも―そこは単に僕の家の庭だったのだけど―森の豊かさに囲まれているような気がしてきたものだった。豊かな森ではなく森の豊かさと書いたのはつまり、木々が鬱蒼と繁っている只中ではなく外れの辺りを庭に重ねていたからで、庭はいわば澄んだ大気の漂ってくる森の庭だった。切り株だってあった。そんなさなかで彼女の瞳がやや強い風に細められると、大地の緑も儚げに揺れて。可愛いくって愛おしくって仕方がなくなって僕は、見上げていた20cm背の低い子グマな彼女をむぎゅ〜っと抱きしめていた。「ちょ、ちょっと苦しいかも〜」と、彼女は照れ笑いをしながら。そのとき気付いたのだけど僕の背にはしっかりとそのか細い腕が回されていて、それは情熱を口ずさんでいた―という比喩がまさにふさわしいように彼女は、両手の親指を除く四本指を僕の背の上でバタバタさせていたのだった。なんだいユー、今度は庭をラテンの国にしちまうのかい?見上げれば空は抜けるように青い。「ラ、ラ、ラ、ラ、ラテンのくにぃ〜」と歌い(?)ながら、絹のような手指に岩のごとき手指を絡ませるほどに狂おしく彼女が、彼女が欲しくなってゆく。心なしかクマゼミたちのボルテージも上がっているようだ。ようやく僕にも夏が来た―
0After Story ―君という物語― 君を想い出すたび、高貴で透き通った何かとしか言いようのないものに、僕は包まれる。そうしてやはり僕はまた、"あの日、ベルクハイデには夢が降りしきっていた…"という一文をもって、語り始めたくなってしまう。 結局のところ、君のすべてはあの日に始まったのだし、そしてまた、遠のいてしまった黄昏時の夢見るいじらしいはにかみも、あの日から振り返られることにおいてこそ淡く、そしてこの胸の片隅をもしっとりと浸す絹のように繊細なのだ。 あの日君は素朴で快活な娘から、艷やかで物憂げな女へとその殻を脱いだ。それはたしかに1つの時代の終焉で、そしてそれは必然だったのだということ。その認識が君を、君という物語を、狂おしいまでに高貴にする。 君のいなくなったこの村は、すっかり侘しくなってしまった。でも僕はめげちゃいない。君という1人の女(ひと)と青春をともにしたという事実が、記憶があるかぎりこの胸は、雲に閉ざされたとて光を見失うことはない。あの日君が曇天の向こうに見ていた、朧ながらもたしかな何かを、胸に射し込む一条の夢を、僕もいつの日にか見出せたらと思う。 もうすぐ村には夏が来る。さらに艷やかになっているだろう君の半袖姿を、いま僕は猛烈に見たいと願っている(笑)
0Side Story ―魂の妹― 孤独に悩みがちな僕も、彼女のことを思い出すと、自信が少し回復する。彼女も僕と同じように、職場で孤高を保っていたから。彼女は、僕が以前働いていた職場の同僚だった。 僕は彼女の、靴を靴箱に仕舞う折の所作がたまらなく好きだった。気のせいかもしれないけれど、というかまず気のせいだとは思うんだけど、なんだか僕にはその折彼女が、"誰か私の相手をして"と胸中に呟いているように見えていたのだ(その様が、切なくて可愛いくて仕方がなかった)。 別に彼女はキョロキョロしてたわけじゃない。むしろ逆に一点を見据えているかのように静的だった。でもそのトーンにはなんだか、虚ろとまでは言わないまでもたしかに、虚を見つめているような趣が仄かにあって、そして半ば無意識にそんな行動―周囲にそれとなくサインを送る―を取っても不思議でない程度には、彼女の雰囲気は幼かった。 まず声がそうだった(可愛いかった)。30を超えているというのに、声だけ聞けば中学生と間違ってしまうような声だった。そしてどこか抜けたところがあった。彼女が入社して間もない頃のこと。彼女は同じ作業場の2、3上の女性に、「これはこうすればいいの?」と、初対面にもかかわらずタメ口で言ったのだった。女性は「あ、ああ…」と苦笑いしてから、「そうですよ、そうすればいいんですよ」と半ばなだめるように言ったのだけど、他にもどこか女性にしては感情の幅が狭いようなところがあって、笑うべきところなのに無表情なんてこともあったし、なによりボケツッコミ的な会話をしているところを見たことがなかった(できなかったんだと思う)。 ここで最初に戻るのだけど、これらのほとんどは、まさに僕にも当てはまる特徴なのだった。ただタメ口に関してはビビリの僕には真似できないし(笑)、声も中学生とまでは言えないけれど。 昔からいつも他人とどこかでズレていたから、みなの輪に入れず孤立していた。そして―ありがちなことだけれど―そんな自分をどこかで特別視していた。といって幼い雰囲気があるからだろう、敬まわれるようなことはほとんどなかった。必然のように、自意識はこじれた。いまも、そんな自意識が完全に正常に(?)なったわけじゃないし、もうそんな自分をずっと抱えて生きていくしかないと開き直っていたりする。 そんな中、もう会うこともないだろうに、彼女も自分ってやつを特別視していたんじゃないかと思うと、この胸はなんだかゾクゾクするように高揚するのだ。もちろんそれは、そんな自分の似姿を彼女に見ることによる甘さから来ているのだとは思う。でも、それを差し引いても、幼声の天然タメ口ナルシストアラサーなんて、ちょっと可愛いすぎやしないか。 さんざん書いておいてなんだけど、僕は彼女とほとんど話したことがない。話したくて話したくって、仕方がなかったけれど。近いようで遠かったその距離感が、"魂の妹"的な幻想を抱かせるのかもしれない。ちなみに彼女は、僕の37年間の人生の中でも1番可愛いかった。それも、とびっきり。
0遠く離れた場所へ旅立つ愛する人への、祈りのラブレターのようです。ここに居て欲しいけど、愛したのは、自分を置いて寒い空へ向かって進む決意をするような人であるから。どうか翼が霜で焼けてしまいませんように。
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