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車庫
一台のためだけの狭い古びた車庫が、 いつ見ても空いている 囲む塀にはまだらに苔が生えて緑色を添え コンクリートは黒ずんでいる この車庫を目にするたびに、私は美を感じる 無意味とかイメージだけとか そういうものと同程度にむなしいものが、 この車庫には充溢している。 友情に似たような気持ちさえ私は抱く 頑に虚無を譲らないその在り方が好きだ もとから揺らいでいる本質というものがある、たとえば 演奏中に客が増えたり減ったりする小さなライブハウス アマチュアバンドたちが己がじし、 成長のために進んで己の誇りの価値を試す 私は他の聴衆のように集まったり散ったりせず、 一人不動で最後まで見ていられる 出演するバンドとそれを見に来る聴衆とがなくなれば、 ライブハウスは無に帰する そんな危うい本質に拠っている在り方が好きだ 心がやさしいままに 心が厳しくなれないままに あの車庫の前を通るとやはり車の影はなく そして私は美を感じる 誰も車を入れない車庫 車庫の形をした何か 本質に渇く車庫 本質を欠いて虚無を誇る車庫 虚無を握り続けて汗を滲ませる車庫 今もなお私が愛して車庫と呼ぶ車庫 そしてまた本質は おそらく私の忘れものである
車庫 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1227.3
お気に入り数: 0
投票数 : 4
ポイント数 : 0
作成日時 2023-09-17
コメント日時 2023-09-26
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
こんにちは。 この詩の表していることを一言で言えば、 「存在は本質に先立つ」 ですね。 1連目の空の車庫の描写がいいですね。 むなしさの充満した車庫。 頑なに空虚で在り続けようとする車庫。 そこに美を観る感性がこの詩の根幹をなしていることを感じます。 しかしよく読むと微妙に異なる見方が見えてきます。 一つは、小さなライブハウスに喩えられている、もとから揺らいでいる危うい本質、あるいはそんな危うい本質に拠っている存在。 もう一つは、本質の枯渇してしまった車庫。 それ故にもはや車庫とも呼べぬ、存在の形骸。 そしてライブハウスについては、その在り方が「好き」であるのに対し、車庫については「愛して」「美を感じる」。 何処か微妙なニュアンスの違いを感じます。 その微妙な違いと末尾の 「そしてまた本質は おそらく私の忘れものである」 というところに何か関係があるような気がします。 忘れものというのは以前は手元にあったが今はどこかに置き去りにしてしまったもの。その置き去りにしたということが、「好き」から「愛」や「美」へと昇華する要因だったのかもしれません。 いやこれは、深読みしすぎですか? 違っていたら済みません。 でも空の車庫という日常的な風景から、深みのある内容へと展開している、良い詩だと思います。
0これは年老いてゆく母の姿にも重なるような古びた車庫の話ですが、哀れに寄り添うような作者の心の温もりを感じました。
0こんばんは。 僕はわりかし、ライヴハウスでモッシュピットに立って、わあっと騒ぐんですけれど そうすると、後方で腕を組んで、アマチュアバンドたちを眺めている方々に対して どういうことなのだろうか?ってちょっと今まで疑問だったんですね。 そうして、車庫と本質というところで、こういったロジカルが働いているんだ と納得しましたし それも、直言してこういうことだ、というより、記述による発話によって 現出された思考のように受け取ったんですね。 やっぱり書いて考えないと考えられないというのがあると思うんですけれど なんだろ、それが、詩の効用、といいますか、魔法かな。
0スムーズに作者の思考を追体験できたように思いました。 最終連でわーっとイメージが膨らむところが良かったです。 最後が分かりやす過ぎると言えばそうなのですが、ちゃんと説明して締まっている事で、しっかり受け取れたぞ、という納得感が得られました。
0存在についての詩ですね。車庫とライブハウスは、似ている、ハコという点で。 忘れる私、そんなものを哲学的に考察されているようです。
0ライブハウスの場面、アマチュアバンドの演奏。そして繰り返される車庫。頑なに虚無を譲らない在り方とは何か。その謎が分かる時にこの詩の読解が容易になるような気がしました。
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