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Bの鉛筆
Bの鉛筆が立っている 何もない白い部屋にある 灰色の机の上に メーカー品ではない どこかのプライベート・ブランドの 透明なニスが塗られだけで 肌色の木目が見えている Bの鉛筆が一本だけ立っていて 電動の鉛筆削りで削られたであろう その鈍く黒光りする鋭い先端を 何もない上方の虚空に向けて 微かな風でも吹けば 倒れてしまいそうだが 部屋には窓はなく ドアも閉めきったままで 誰もいないので 空気が動くこともなく Bの鉛筆はいつまでも立っていて ものを書くという 鉛筆本来の機能を果たすことを いつまでもできないまま 一本だけ虚空に鋭い先端を突き立てて 虚しく立ち続けるそのBの鉛筆が 己の本性を具現できないままでいるのは 鉛筆の本質が鉛筆そのものの内に 確固として存在するものではなく それを使用する人間の内に在るのだが この部屋には誰もいないので 鉛筆の本質もそこには存在しないから 更に ものを書くという鉛筆の本質自体も 人間の内にア・プリオリに 存在するものではないので 書くという行為や鉛筆という存在を 見たことも聞いたことも 経験したことも全くなく それを認識できないものにとって 鉛筆とは 短く細い木の棒の中心部に 更に細く脆く黒い棒が貫いている けったいな代物でしかなく 従ってBもHもHBも何の意味もなく 何の価値も認められない だから 何もない白い部屋の中で 灰色の机の上に一本だけ 上方の虚空に鋭い先端を向けて ただ立っているBの鉛筆は 虚しく どこまでも虚しく 動くことのない空気に包囲されて いつまでも いつまでも立ったままでいるのである 「書く」ということの困難さを 全身で顕しているかのように
Bの鉛筆 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 947.4
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-12-02
コメント日時 2017-12-17
項目 | 全期間(2024/12/22現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
花緒さま 最後の二行と、プライベートブランド云々といった部分は削ろうかどうか迷った末に残してしまったのですが、やはり余分だったようです。 遠藤周作氏が、書きすぎることを戒める内容のエッセイを残されていますが、それを今になって思い出しました。 自分の内にある不安感との戦いですね。 コメントをありがとうございました。
0鮮明に映像が立ち上がる冒頭から、思弁詩へと移行していく中盤。作品に関する指摘については、花緒さんの批評に尽くされているので特に申し上げることはありませんが・・・ 虚空に突き立っている鉛筆そのものが、語り手自身と重ねられている。自身の本領を発揮すべき機会は、どこにあるのか、いつ訪れるのか。自身で動くことが出来ないまま、じっと、何か、を待っている・・・「わたし」を用いて、本領を発揮させる「存在」は、どこにいるのか。その不在に対して、問いかけている、そんな問いかけの詩であると思います。 「ゴドーを待ちながら」の、まさにゴドーにあたる「なにか」を、待つ、という行為の切実さを、キリリと垂直に立つ鉛筆の姿に託している。鉛筆というものの「書く」という機能に即して、なおかつ垂直性、削り痕や芯の黒光りといったイメージをうまく活かした作品だと思いました。
0まりもさま 仰有る通り、この鉛筆はB-REVIEWに投稿している自分自身と重ねて書いたものです。自分自身のカリカチュアこようなものです。 詩の本質が書き手に在るのか、読み手に在るのか、それともそのどちらなもないのか、人によって考え方はまちまちでしょうが、そのことを表現しようと思い、この詩を書きました。 コメントをありがとうございました。
0哲学と詩は兄弟みたいなもんだなって思いました。記述のジャンルの差異があるだけで本質的に同じようなことであると。しかしそのほんのちょっとの、HBとかBとかの、ほんの些細なことなりがこの世界のすべてだと思ったりするんですよ。
0コーリャさま 詩と思想は切り離せないものだということを、どこかで聞いたことがあります。 その一方で、詩が教訓的になると、陳腐と化してしまうという意見も聞いたこともあり、 なかなか難しいです。 コメントをありがとうございました。
0論述的に硬質な語り口調なので、これは逆にHBのうすくて硬い質感を意識してしまいますね。 Bが鉛筆の芯なのか何ものなのか、はっきりと示されてはいません。 しかしたとえなんであれ物質と脳内を巡る記憶の相関関係には違いない。 深尾さんが投稿されていましたが、これも同じように観念を超えようと推察する意思のようなものが感じられる。 認識される物質からみた、観念の記憶のようなものを表現しているのではないか、と思います。
0アラメルモ さま 硬質な語り口が、BよりもむしろHBを連想させてしまうことは、想定していませんでしたが、確かにそうかもしれません。 深尾さんの詩も読んでみました。 硬い感じでしたが、面白いと思いました。 コメントをありがとうございました。
0読んでてわかりやすかったです。 >「書く」ということの困難さを >全身で顕しているかのように ここは評価分かれますね。僕は最後の二行で説教から、語り手にも分かんない事があるんだなみたいな事を思いました。本質を体現するのは人それぞれであって、物ではなく、鉛筆を使い描き、描かれた物を読む人間によって本質は宿されていくが、しかしながらどのような過程を経る事によってそのような物が立ち上がるのかについては、分からないという感じがしました。
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