きみにはずっと話していなかったけど、僕は何年も前に新宿御苑で毛の無い動物を飼っていたことがあったんだよ。名前はシャバウォーキン。凶暴なやつで僕は何度も腕を食われかけた。親指の一本ですんで本当によかった。ああ、工場での事故で親指を潰したっていうのは嘘なんだ。すぐに成仏しちまったがシャバウォーキンは愛玩動物だった。僕によく懐いてね、ゴム毬みたいにはね回って、鋭い爪で辺りを切り裂いた。それはそれは可愛かった。うん、僕らが出会う何年も前の話さ。なんで今更そんな話をするかって?なんでもない、ただ思い出しただけだ。シャバウォーキンと過ごしたのはたった二ヶ月だった。二ヶ月目のある朝目覚めると自分の目をくり抜いて死んでやがった。でも、その一週間前に僕はやつが死ぬことを知っていた。夜、一匹の蝿が僕とシャバウォーキンの塒にやって来て言ったんだ。こいつはもう時期死ぬぞってね。僕はその当時、仕事もまともに出来ないほど疲弊していたからシャバウォーキンが死ぬことを悲しく思わなかった。ああ、死ぬのか、それだけ。僕は蝿を叩き潰した。蝿はそれでも喋り続けていた。ようやく俺もこの世からおさらばだ!ざまあみろ!って叫んでやがった。僕はムカついたから何度も何度も踏みつけたら土と見分けがつかなくなった。文字通り土に帰ったわけだ。物音でシャバウォーキンが起きてきた。僕はなんでもないんだと言ってそっと抱きしめてやった。やつは喜んで喉をぐるぐると鳴らした。僕たちは抱き合って眠った。やつが死ぬまでずっと。やつが死んでから僕は新宿御苑を後にした。それからはきみも知っているだろう?僕は新たな仕事を始めた。とても退屈だ。僕だけがシャバウォーキンの死臭を感じることが出来る。新宿御苑。僕らは毛の無い動物を埋めた場所で出会った。わけも分からずに連れてこられたきみと全てを悟っていた僕とやがて来るお別れの時のために死に続ける愛玩動物シャバウォーキン。みんなみんな僕が撒いた種だった。発芽するはずがない空っぽの種だ。ほら、今日みたいなよく晴れた日には静かすぎる青空をよく見ておくといい。僕はひとり苦しんでいるから。悲しむことなんてひとつもないんだ。悲しむことがないことを悲しむ以外には、なにも、何もないんだ。
と言って彼は苦し紛れに笑ってみせた。悲しいほどよく晴れた日のこと。私は彼の笑顔をきっと忘れないだろうと思った。
作品データ
コメント数 : 17
P V 数 : 1415.1
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 7
作成日時 2022-07-12
コメント日時 2022-07-23
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項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 4 | 4 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 7 | 7 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 4 | 4 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 7 | 7 |
閲覧指数:1415.1
2024/11/21 19時37分58秒現在
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少しバランスが悪いと思う。 最初はなんで改行しないのかなと思ったが、最後まで読んで意図は理解できた。このばあい読み手としては息継ぎなしということになり、だからスピード感が重要になると思うんだけどこの作品にはそれがすくない。 「僕」の語りは全体的に書き言葉になっていて、これは親しい間でかわす手紙の言葉だと思う。手紙の言葉とセリフの言葉は別物だからスピードが出にくいと思う。しかし、単にじゃあ文法を崩して一文を長くしていわゆる話し言葉にしたらオーケーなのかというと、それはこの作品の軸をブレさせることになるから、私の指摘もなんかいまいちという感はあるのですが…… すみません。わかりません。
1嬉し涙と悲し涙を誤解すると大変なことになる。 この作品は好き
1何かの習作でしょうか。 書かれようとしている情感、自分ではどうにもならないけれど自分が世話しなければ生きて行けないと思い込んでいるもの、生に対する愛情。 そんなものを感じます。 そうした情感が嫌いではないです。
1コメントありがとうございます。 話し言葉ではあるんですが可読性みたいなのをあまり意識してなかった点はありますね。
0コメントありがとうございます。 話し言葉ではあるんですが可読性みたいなのをあまり意識してなかった点はありますね。
0コメントありがとうございます。そう言って貰えて嬉しいっす。
1空疎な気分を嘆く時、暴力すらいとおしく感じる場合があります。生きることの賛歌として暴力的な存在でもあるシャバウォーキンがそんなかわいいシンボルとして空想の世界に立ち上がっているように感じます。生きがいは自分で見つけなければなりませんね。
1コメントありがとうございます。 嫌いではない。その言葉に救われます。
1コメントありがとうございます。 そうですね、二十年くらい前なら新鮮に読めたかもしれません。 ここの部分、自分の詩をアップデートしなくてはという反省と、それでもそれなりには書けてたのかなというポジティブさの両面で受け取ることにします。
0コメントありがとうございます。 シャバウォーキンを気に入ってもらえて嬉しいです。 死んだように生きてる、死への羨望みたいな雰囲気は出したかったのでよかった!
0以前、SNSでこの作品を見かけて一読していたんですが、なにか妙に読後に引っかかる感じがある作品だったように記憶しています。 シャバウォーキンという語感も不思議と名付けとして刻まれるし、物語もなにか爪痕を残してくれる印象がありました。そういう、凍った海に斧を振り下ろすような手触りのある詩は、貴重なのではないかと思ったりします。なんだか生々しく、他人事でない感じもあるので、ひとつには単に私の好みでもあるのだろうとも思うのですが。 情けなくも他人の言葉を借りてしまいますが、沙一さんの「爽やかな空虚感」という言葉は近いなと思いました。改めて好きな作品です。
1コメントありがとうございます。 生きることの賛歌として暴力的な存在 それなんですよ。無垢な暴力への憧れみたいなのありますよね。 自分の生きがい見つけたいものです。
1コメントありがとうございます。 凍った海に斧を振り下ろすような手触りのある詩 ある種の低体温を持たせたかったのでとても嬉しい言葉です。 好きな作品といっていただけて光栄に思います。
0愛玩動物と書き手は書いてましたが私にとっては親友のように思えました何かを犠牲にしないと絆は深まらないと実感しました。ただ親指を失うのは嫌ですが
1詩を批評する能力はありませんが、なんかすごく疲れたので頭がおかしくなりたいって人が書いた詩というような印象を受けました。
1コメントありがとうございます。何事にも犠牲はつきものかもしれません。ぼくも親指はなくしたくない。
0コメントありがとうございます。 随分前にかいたものなので今となっては当時の心境を覚えてませんが疲れていたのかもしれない。
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