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フィラデルフィアの夜に Ⅲ
フィラデルフィアの夜に針金が炎上します。 それは赤く、大きな輝く火でした。 ある日、大きめの箱が、ゴミ捨て場に置いてありました。 昨日まで無かったそれは、堂々と鎮座してます。 何かがぎっしりと詰まっているものの、開けてみればあるのはゴミ。 ほとんどが針金。 それに、古びた雑貨や誰かの写真。 不法に捨てたと、誰もが思います。 そのまま、そこに。 ゴミなのは変わりないから。 次の日、箱が膨らんでいます。 見ると、前よりも明らかに物が詰まっているために。 はち切れんばかりに、無理矢理似たようなゴミを詰め込んだようです。 ですが、誰が。わざわざ箱に。 こんなにも力尽くに。 夜、何かが来ます。 赤ん坊のおもちゃ。写真。小さい靴。幼児の服。三輪車。使い古したクレヨン。 まるで足でも持ったかのように、こっちに来ます。 ゴミ捨て場へ。あの大きな箱へ。 無機質な小さい金属音が合唱し、街々に響く。 見ます。細い針金のような足で、走って行く様を。 分かる人は、分かります。あの写真、あの記事は、死んでしまった小さな子供のものだと。 亡くなってしまった子供たちの遺品が、足を持って走っていると。 箱に、子供たちの遺品が、思い出たちが、汚れ捨てられてしまったのだろう、それらが、入り込んでいきます。 箱がきしむも、次々に。 今日だけでどれだけ入ったのか。 昨日はどれだけそこに突入したのか。 箱は、明らかに壊れる寸前でした。 あまりに異様な風景だったために、人々は箱の周辺に集まっています。 息を潜め、じっと。 ボッ 箱から火が上がります。 火の気はなくとも、あまりの圧力で火が上がったのか、そう何人か考えます。 次の瞬間、一気に箱が炎上しました。 ガソリンタンクが炎上するかのような炎が、天まで昇り、街を煌々と照らし出す。 そして炎が揺らぎ、歪み、何かの形に。 胎児。 人の、生まれる前の姿。 そして街は紅く。 朝、ゴミ捨て場はいつもの平穏な風景でした。 あるのは、針金の残骸だけ。 もうすぐ崩れ去るだろう、胎児のような形の針金だけ。 あの時をかろうじて思い出させるものでした。 ゴミ捨て場の壁にいつしかこう書かれました。 「八万四千の子が埋葬された。あなたはそのうち誰を悼むのか」 そう、書かれました。
フィラデルフィアの夜に Ⅲ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 890.7
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-11-10
コメント日時 2017-11-14
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
スパッと短く切っていく呼吸と、流れるのを抑えるように、中途で少し前のめりになりながら止めるような文体が交互に織り成す「物語」・・・ ひといきに時間を巻き戻して、原初のエネルギーを解放するかのような・・・カーニヴァル等で火を放たれる巨大な紙人形のような胎児の炎上が、鮮烈に印象に残りました。
0はじめまして! 知識も人生経験も無く薄っぺらい事しか言えないですが、コメントさせて頂きます。 数時間しか生きれなかった、もしくは生まれた時には死んでしまっていた胎児でも生命の価値は生きた人と一緒であるというような儚い生命の悲しい美しさを感じました。重いテーマで考えさせられますが、どこか幻想的な表現で読んでいて楽しかったです。
0仲程さん、こんにちは。 そのような時は背筋を伸ばし出来るだけゆっくり息を吐きつつ、気持ちを落ち着かせるのが良いかと。 それはさておき、思った以上に独特の迫力の場面を書けました。 自分としても少し驚くくらいです。 発想の元になったのは原始仏典のテーリーガーター(釈迦の時代に出家した尼僧の詩集)で、最後の下りも少し変えてますがそこからです。 まりもさん、こんにちは。 少しバーニングマンフェスト(アメリカの砂漠地帯で行われる炎を盛大に使ったイベント)が頭にあった様です。 情景を改めてイメージすると、我ながら凄い光景ですよね。 夏野ほたるさん、はじめまして。 感想いただけるのは、ありがたいですよ。 そう感じてくれたら、なによりです。 テーリーガーターの頃からの問題ではあるんですよね。答えが出ないのでしょうけど、考えるべきなのかと。
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