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思春期、あの最悪な日々を切り取ったプリクラ、同級生への呪いを書いたオマエ、そしてアタシへの讃歌
アタシたちは境のあわいを泳ぐ二対のグッピーだった ミキサーに混入したガラスの破片だった 平穏と愛の中に産まれた哀しさだった なによりも、腐った桃の匂いのするごみ袋だったし コンクリート食む二匹の蛞蝓だった。 思春期の女の子ほど美しいものはないという一方で、アタシとオマエはそこからこぼれ落ちた オマエを好きだとか可愛いと思ったことはなく オマエから友愛を感じたこともまたなかった 私たちは互いを支えられる気力もなく、また優しさもなく、ただただ崩れ落ち、凭れかかっただけで、あの瞬間、コンプレックスと疑心暗鬼でいっぱいだったアタシたちが一時でも一緒にいれたのは、不幸の天秤が釣り合ったからだとしか言えなかった。 それでも、 青春なき思春期、世界を呪うアタシとオマエは同志で、オマエはアタシにとって、 醜さという血肉を分けた妹だった。 ある日オマエは、蛙のような面をして、どこで見つけてきたのか、思春期の女子二人とヤれるなら顔はどうでもよいという男の写真を持ち出した。 写ルンですで撮った男はたしかに美しく、 そしてなにより、アタシのような女をクソのように扱う男特有の、蛇のような目をしていて、 私は身体中が熱くなった。 そいつとヤれるならプライドを捨てられると思った。 オマエとアタシは男が指定した場所で男とヤッた。 帰り道、アタシたちはプリクラを撮った。 はしゃいでてバカみたいで可愛いその機械は、アタシとオマエにとっては羨望と嫉妬の象徴みたいなものだ。嫌いな女をプリクラ女と呼んでいたし、嫌いなやつらはみんな「プリクラやってそう笑」とバカにしたもんだった。 プリクラやってそう。 プリクラやってさりげなく後ろの位置をとってそう。 いまいちな顔をプリクラで加工してそう。 プリクラで顔の回りにハートを並べたりして小顔に見せてそう。 彼氏とプリクラでヤッてそう。 アタシもオマエも、プリクラで小顔になるとかデカ目になるとか、つまり可愛くなりたいとか、可愛くみられたいとか、 そんな欲望を晒すなんて絶対にできなかった。万が一クラスのだれかに知られでもすればバカにされることは間違いなく、つまりアタシたちかプリクラ女たちをバカにするのは、バカにされるであろう自分たちのための復讐なのだった。 しかしその日、アタシとオマエは一軍の男とヤッた。 男はなんと薔薇の花束を買っていて、私たちは最中、それを抱き締めていた。抱き締めて泣いた。声を出さないように、しくしくと。 世界にあれほどの男とヤれる女は何人いるのだろうか。 血塗れの股が手に入れた栄誉だ。 オマエはプリクラに、「✕✕、死ね!」と書いた。 アタシはおかしくなって、「非処女最強!」と書いた。 それからアタシとオマエは黙々と、目以外のスペースをスタンプで埋めた。薔薇は使わなかった。 「すげ、めっちゃかわいい」 オマエはそういって、小さなハサミでプリクラを切り分けた。 「ヤバ」 アタシはそういって、プリクラをゴミ箱に捨てた。 アタシとオマエは笑った。 帰り道、ずっとセックスの話をしていた。素晴らしいセックスの話を。 あの時のことを思い出すと、オマエの体の匂いを思い出す。シーブリーズと薔薇と汗の匂い。それから口臭。どんな匂いか忘れたが、臭かったのは覚えている。 オマエは「マンコが臭いとクンニしてもらえなくなるかもよ」といって浴びるようにシーブリーズを浴びていた。女のマンコを舐める男、あるいはレズビアンを、アタシは尊敬する。 アタシたちはあのとき、何者だったのだろうか? というのは、三十路を迎えるいまになってようやく問いかけることのできた疑問だ。 電灯にたかる飛び虫、一口分だけ残ったビールの缶、黄色くなったマヨネーズ、煙草の浸かった水、黄色の歯、膿の噴き出す傷痕、 汚ならしいものを見ると思い返す。あの日々は地獄だった。そして地獄の日々にはオマエがいた。オマエは確かにアタシで、アタシは確かにオマエだった。 アタシたちはブスだった、 実のところそれに尽きる。 なんかビーレビで自分の人生や友人のことを語るみたいな、そういうのを見かけるようになったので、人生で一番アホだったときの話を。 正直なところこの頃は正気を失っていて、自分でもどこまでが事実でどこまでが幻想だったかよくわからない。あの男が薔薇を持って現れたというのは、オマエが帰り道ででっち上げた嘘のひとつだと思う。私だったかもしれない。それすら曖昧だ。 もちろん、自信を持って言える事実もある。私はもう絶対にクンニはしない。
思春期、あの最悪な日々を切り取ったプリクラ、同級生への呪いを書いたオマエ、そしてアタシへの讃歌 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1053.3
お気に入り数: 1
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2022-06-20
コメント日時 2022-06-25
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
何でしょうか。 詩人たるもの苛烈であらねばならず、反生活的、反生存的でなければならぬ、と言った先入観を感じました次第でございます。 荒地派の後遺症でございましょうか。現代純文学系の方々にも言える現象でしょうが、如何致しましても。 煽情的且つ過剰な嘔吐的感覚に心酔をなされていらっしゃるのでは、と心配にもなりました次第でございます。 人に兎や角言える人間ではございませんが。 下記、高田渡氏の「系図」と謂う歌へのリンクでございます。 小賢しい、とお思いになられるかもしれませんが、気が向きましたなら。お聴きになられて下さいませ。 https://www.youtube.com/watch?v=3FceGQ--Lk4 心身ともども、お大事に為されて下さいますことを。
0写ルンですってまだ売ってんすかね。懐かしい。 むき出しの感性をひっさげて走るオマエはクリトリスそのものだ!ってことではないかもしれないけど。個人的には『限りなく透明に近いブルー』を思い浮かべてしまいました。 ここでは「薔薇」がある種のステータスシンボルとして描かれているように感じた。コンビニで買える手頃なシーブリーズ、これと薔薇の対比が可笑しい。 ただただフィジカルな存在でしかない思春期のアタシ、それは限りなく美しい地獄であったか
0おはようございます そうですね、書きながら浮かんでた方々のうち一人は室町礼さんでした。 ほんとのことではないということに今更ながらびっくりしてますが。 ただ人生って作り話の最中にあるようなものですもんね。 感想ありがとうございます!
0言いたいこともちょっとわかります。 私、此度の芥川賞選考はじめ、 うーんと思うことも増えてます、 人間、そんなに悩んでる?とか、 そこまで行けるとこまで行く?案外中途半端で安寧を優先するのが9割の世界で、 どうして創作物の世界の、とりわけ女の子は、泣き叫んでるか爆笑してるかばっかなのか。人生の9割は夕飯のことを考えてるときのような、無為な時間であるのに。 ビーレビでも陶酔を優先して肝心の詩がコントロールできてないなあと思ったりもしますが、その激しさがキマってて面白かったりするからなあ。 ただ私が思うのは、鷹枕可氏がどうしてこのコメントを残したかですね。 私の詩なんて、なんのアンチもないです。 ブス二人がギャル世界で生きるためにかいた汗の話です。 私が日常の確実性、虚構にない真実を見直すべきであると同時に、 あなたは詩の中で泣き叫ぶべきではないか。 あなたにも泣き叫ぶべき物語があるのではないか?そんな風に思いました。 ちょっと腹を立ててるので 落ち着いたらリンク先も見ました。
0写ルンです、まだ売ってると聞いたことがあります。私の住んでるところでは必需品でしたね。今みたく加工もできないし写りが悪いものを削除もできないので、外見にコンプレックスがあると、手頃に地獄を量産する機械でしたね笑 「限りなく透明に近いブルー」は私も好きなので、影響を受けているかもですね。 思春期の自分の肉や皮ってほんと、 びっくりするほど内面を裏切りますよね。 オマエはまあ、アホでしたね いまもアホらしいです。 死ぬまで数学を算数と言い続けるでしょう。
0昔っから楽子さんの追っかけをしているクソ陰キャめからすると、楽子さんの作品には楽子さん自身が必ず存在しているような読み心地があります。 架空の話だろうとネコちゃんの話だろうと、作者の楽子さん自身が必ず主人公であるような感覚です。 さながら自伝のような読み心地で、投稿作品を読むと楽子さんが居るような、そんな気がします(こういうのを世間では、知った気でいる、と言い表しますね。いやお恥ずかしい)。 ですから、私個人としては楽子さんの今までの作品と、今回の作品、どちらも楽子さんの人間性を垣間見るという点で違いをあまり感じませんでした。 そのため最終連の作品説明の部分を見てちょっと驚きました。 あなたはいつもいるし、ここじゃなくてもどこにでもいると思ってたわ〜!ってな気分です。 いや取りとめのないコメントですね……。
0疾走感が心地良いです。それにしてもプリクラって悲しい機械。後戻りさせてもらえなくて、本当は弱いのに、すごい持ち上げられて、居心地が悪そうで、女の子の宿題みたいになっている。走って逃げる子の後を追うことも出来ないで、かわいそう。
0んんんんこそばゆい。 でも実際に私の詩は半ば日記なのであっています。ひとの作品を、出来不出来を超えて読むことのできる方なんですね。 私もそのように読んでみたい。
0ちょっとわかります。 写真をとることで繋がりを、楽しい日々を残したい、 原動力はピュアでひたむきな気持ちなんだと思う。 でもひねくれものには人くいの怪物だった。
0いえ、私の心のささくれを撫でるような文章でした。 私は上手い下手であれば、下手、頑張ってる下手、そんな感じ だから技巧の指摘はあると思う、しかたない でも「こんな詩を書くのだから疲労してるのだ」はちょっとムムムッとなりますね。 つかれてる、ふこうかもしれない、 それを指摘されるのは嫌ですね でも大切なことを教えてくれているのだともおもったり。
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