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窓と生活 二編
祖母の住むマンションを 外から眺めて思うこと この窓という窓、一つひとつが 中に生活を秘めているということ それが恐ろしいこと たった六階建てのマンションが抱える 莫大な生活感の重みに 耐えかねて目を逸らす わたしの指先が痛くなるのは怖いときなのだ、 ちょうど手すりのない階段を上るときと同じで。 足元を凝視しなければ 二次元の裂け目に落ちるから きっと「ぎゃあ」と叫んだとしても 誰も気づかないから 色の違う灯りが 干すタイミングのずれた敷き布団が 数やサイズの違う服をぶら下げるハンガーが これほどまでに恐ろしく映るのは わたしが「生活」をしていないことを まざまざ見せつけられるから さんざ愚弄した生活が 今になって安全圏からしっぺ返しを食らわす 認めたくないのは わたしも窓の一つの中に帰らざるを得ないこと たくさんの生活に擬態した わたしのおままごとを繰り返すこと 遊ぶのもわたしなら人形もわたしの 倫理の壊れたおままごと * 夕暮れ時の電車は ごった返す鍋の中のようで 飴色の日光が染み込んだわたしが ほろほろと崩れてゆく感覚 輪郭を失くす すると 溢れるわたし あり得たわたしの生活 仕事から帰るわたし 娘を迎えに幼稚園へ急ぐわたし トイレットペーパーを買いに 近所のスーパーへ行くわたし 窓の外では無数のわたしが 寝て起きて食べて働いて死んでいる 「おかえりなさい」 扉が開いて、たくさんのわたしが 電車を出て 芋を洗うよう 「わたし」は「みんな」になったので 座席には一人分の空白が残る
窓と生活 二編 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1284.0
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 2
作成日時 2022-06-15
コメント日時 2022-06-16
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 2 | 2 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 2 | 2 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
むかーし、毎週通る道路の脇の家に、柴犬を飼っている家がありました。 そのお宅の家族構成も生い立ちも何一つ知らなかったけど、わんちゃんは道路から見えるような位置の犬小屋に飼われていましたから、私は毎週毎週、あ、今日もわんちゃんいるじゃん!と確認しては少しだけ嬉しくなっていました。 私にとっては何の変哲もないある日、その家の前を通ったら、わんちゃんが遺影になっていて、犬小屋の中に飾られていました。 その時私にとってのなんでもなかったはずの一日は、喪にふくすための悲しみの日となりました。 今思うに、もしかしてそれって全く知らない家族の生活に私が少し入り込むような行動であって、どこかおぞましい事であったのかな、と感じます。 私たちの人生はぐるっとコンパスで描かれた円のように領域として定められていて、その一部が、関わるはずのなかった誰かの一部と重なってしまったような感覚です。 きっと作者様もその重なりが怖くなったのだろうなぁ、と作品を読んで感じました。 ただ、誰かの中に私が侵食してしまう、あるいはされてしまうことは怖いことですが、一方でそれらに生かされているのも事実だと思います。 このサイトの作品群を覗く時、とてつもなく誰かの人生を覗いてしまうし、好きな音楽を聴くことはその作曲家の生命の形を知ってしまう行為とも言えます。 私たちはそれら他者の命に犯される一方で生かされるわけです。 この面白さまで作品に書き込めるようになった時、作品ってレベルが上がるんじゃないかなぁと思います。 悪いこと一辺倒でも中々描きにくいですし、この作品を描いているささきさんは確かに存在して私を(良い意味で)犯しているのが、なんとも人の命の面白いところです!
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