でもルンバは嫌だ、エヴァが良い

歌人・塚本邦雄が好きな漢字に苦艾にがよもぎとあるがこれで〈チェルノブイリ〉と読むそうだ今年、ウクライナ人はさぞかし苦しそうにヨモギ餅を食べて桃の節句を祝ったことであろうそんなひな祭りが十八年続いた暁には十分に発育した女の子たちをシンジ君はニッポンへ逃してやりたいと思っている今から精が出る　　『マジック・ミラー号で幾千の綾波を連れてゆくために』塚本邦雄が好きな漢字はもう一つある焼肉これは〈やきにく〉と読む、それに彼は人間の焼け野原と注記することを忘れないその語感だけでもヤバいのは間違いないだがもっとイカれているのは十八歳とは徴兵とポルノが解禁されることである解禁とは何だまるで渓流釣りみたいではないか河辺で冷やしておいたビールで喉を鳴らす今日はもうマジック・ミラー号は運転できないシンジ君も、さすがに飲酒運転だけは御免だそうだ〈マジック・ミラー〉ってなに？それは、明るい側からは鏡に見えて暗い側からは向こうが見えるビームスプリッターだよ〈暗い側〉ってなに？そりゃあ、光がないところだよ〈向こう〉とは？光があるところだよそれはいつだって対岸さ綾波は時々このような禅問答を繰り返すそれに付き合うのもシンジ君の仕事である〈ニッポン〉は明るい側？暗い側？鮎みたいなものさ、その肌理に浅い明暗がある〈釣り〉楽しい？いや、まったく　　『でもルンバは嫌だ、エヴァが良い』涙が鳴る汗が飛ぶ買ってきた卵を全部割ってしまうお母さんも頑張れもう、ヒキガエルみたいに生きたい僕は面と向かって神さまの方を向きたくはないそれが僕のズルさならば神さまが僕のことを放っておけないのも卑劣というべきか涙が鳴る汗が飛ぶ渡ろうとする海を全部割ってしまうお母さんも頑張れもう、ロボットみたいに生きたいでもルンバは嫌だ、エヴァが良いそれが卑劣というべきかやはり捨てきれない自尊心をシェルターから持ち出して風に曝す皮膚呼吸をする生物の心臓のような心臓が欲しいわかりますか　　『One Last Kiss』〈これからどうなるの？〉わからない何がどうなるというのだシンジ君は男雛を置きながら不躾に答える今日もひな祭りなのだ女の子ばかりが大きくなってゆくそれに反して男の子は小さくなってゆくそして互いに分かり始めるそれを甘受することがスマートな生き方であると梅雨前線で気むずしくなる性格たちが室内でさらに温くなってゆく洗濯ものを取り込まなくちゃお母さんも頑張れ逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、シンジ君は綾波をマジック・ミラー号へ次々に担ぎ込むお母さんも頑張れ遠い悲しみを近い悲しみへすり替えるいつからキスは慣習になったのか

でもルンバは嫌だ、エヴァが良い　ポイントセクション

作品データ

コメント数　： 3
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お気に入り数： 0
投票数　　　： 1
ポイント数　： 17

作成日時 2022-06-12
コメント日時 2022-06-16

#現代詩 #縦書き