<エピキュリアンの背中に爪を立てるのは妖女。煙を上げるのは最早禁断でもない大麻の残滓。鏡の欠片に映るのはマニキュアの指先。喪失の悦びのあと「神様、二度とこんなアルバムは作りません」高熱にうなされたロッカーは祈った>
美しいことを述べよ、耳に聞こえのいい言葉を投げよ。汝、生きながらえてなお死を知れ。子女をかどわかす者を遠ざけよ。子息をたぶらかす誘惑を退けよ。汝、生きながらえてなお恥辱を知れ。信仰をくつがえす者の根を断て。
*雨の中、職場へ向かう足取りは軽く、僕は一人ぼっちでもないのに妙に孤独だ。煙草を吸ってはギャンブルに身を投じ、借金をしこたま抱えた元職場の同僚は癌で死んだ。徐々に血の色が失せた彼の今際の言葉は「こんな楽しいことがやめられようか」。雨雲が遠ざかったあとも、デジタル時計の4:44がやけに目につく*
汝、生きながらえてなお死を知れ。
汝、生きながらえてなおのたうち恥辱を知れ。
*警句でも箴言でさえもない、ヒステリックな拘束具としての言葉、彼の者の言葉が僕の神経を病ませる。商品を並べながら、時折手の止まる不穏が存在の証明の一つだとしたら、僕は少しばかりの慈悲を求めて仏にでも手を出すしかない。一人きりで流れる音楽の辿り着く場所、それが空白で満ちているのが、
お前がお前であることの証左だ。
お前がお前であることの論証だ。
僕のこめかみに浮かぶのは脅迫めいたループ。
コーヒーは相変わらず美味くはなく、
トーストを頬張るのがやっとだ。
人は、夢を見ない子供と一緒に暮らし、公園で夕ぐれが消えていくのを眺める。
眠ることの出来ない息子の手を引き、遠ざかる人混みに事実の断片を見つける*
汝、生きながらえてなお。
汝、生きながらえてなお。
*僕はふと引き合いに出した逸話から、自分の深層を見た気分になり手が止まる。明日の朝に飲むコーヒーはやはり美味とは程遠いのだろうか。美しい言葉、美しいスピーチ、美しい喧伝に囲まれながら、僕は虚偽の基軸に振り回されて死ぬ。笑うのはトリックスターであり、詐欺師だ。それでいてそいつが裁かれる保証もない*
<「神も、地に墜ちたもんだ」。
黒人音楽にどっぷり浸かったシンガーソングライターは、カクテルを横倒しにしてベッドに潜りこんだ。彼の脳は酔いが回ったままだ。もう素面に戻ることもない>
*母の手料理を口にして、ようやく幸せに包まれるも嫌な情景はまた押し寄せる。冗談で済ませるはずの4:44の並びも、何か意味があるようで気味が悪い。僕の喉元から溢れるのは、
たけき者も遂にはほろびぬ、
偏に風の前の塵に同じ。
盛者必衰の理あり。
蓮の花を噛んで、
飲み込むミルクは井戸の底。
無限地獄の恥知らず。
遠吠えしてのたうち回るは、
悪い夢から未だ目覚めぬ、赤鬼*
作品データ
コメント数 : 7
P V 数 : 1043.0
お気に入り数: 1
投票数 : 1
ポイント数 : 14
作成日時 2022-06-06
コメント日時 2022-06-07
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 2 | 2 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 6 | 6 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 5 | 5 |
総合ポイント | 14 | 14 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 0.5 | 0.5 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 3 | 3 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 2.5 | 2.5 |
総合 | 7 | 7 |
閲覧指数:1043.0
2024/11/21 23時34分41秒現在
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快楽主義は地獄の入り口なのかも知れない
0柳煙さん、コメントありがとうございます。地獄の入り口。確かにそうかもしれません。ただ、僕個人は過度に宗教的で戒律を重んじるタイプの男ではなく、適度に奔放で適度に人間的です。この詩は僕が一部持っている要素を拡大して書いたものなのです。今朝方読んでみましたが、荘厳で決して悪くないと思いました。
1室町さん、コメントありがとうございます。どうでしょう。神と死について描くのに陽気も陰気も、コミック的かリアリスティックかなどないと思いますが。あくまで室町さんの基準で神と死について描くのなら、もっと深遠で重厚でなければならないという偏った見方があるのかもしれませんね。
0いいですね。 と合図、相槌言おうか迷っています。迷うぶん、ちゃんとおののきとしたしみが有ります。誰か助けて下さい。
0てんまさん、コメントありがとうございます。この方向性の詩でてんまさんからコメントを貰えて嬉しいです。相槌。打っちゃってください。冗談めかして言いますが。それはともかく、てんまさんのような方におののきとしたしみがあったということは、この詩がある程度の成功を見たのだなと実感しております。生きながらえながら死を知れ、だなんて酷薄で無慈悲。現世で生きることを突き放したようではないですか。
0再度のコメントありがとうございます。僕が偏見と指摘したのは、もっと重厚に深遠に、という捉え方が室町さんにあるのかなと思ったのですよ。一般的に見て重厚さも軽さもあることを偏見と言ったのではありませぬ。ご了承を。一つ目のコメントはコミック的で浅薄という皮肉だと思ったのです。違ったのなら失礼を。
0こちらこそありがとうございます。室町さんとやり取りして気づきが大いにありました。
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