フィラデルフィアの夜に XXXⅠ - B-REVIEW
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フィラデルフィアの夜に XXXⅠ    

フィラデルフィアの夜に羊歯植物が生えます。  羊歯は原始的な植物で、少し暗く湿った物陰に好んで生え、しばしば気づかれることがありません。 生えだした姿は、先端を発条の様に縮こませ、人の頭にも思えます。 そんな羊歯が、小さく今年も生えたのです。 誰も知らぬ、石の陰で。  誰も知らぬ石の陰。 その昔、大きな戦いがあったと記している石の陰に、どれだけの人がそこを訪れたとしても覗く人はいません。 だから、気づかないのです。  針金が生えてきているのを。  そこには最初、ただの羊歯が生えてきていたのです。 羊歯は、まるで家族の様に一か所に数本が円を描き生えてきます。 大きなものも小さなものも、団らんを作るかのように、緑に丸めた頭を向き合って。 夜そこに、銀に輝く頭が入り込んできた。 その家族の中に針金が、一本紛れ込む。 初め、丸く。先端を丸く。発条の如く。 夜、伸び始め、先端は発条よりも丸みを帯びる。 さらに夜、銀の体をさらに伸ばし、先端は完全な球体へと変えていく。  羊歯は植物ですので、昼に伸びていきます。 羊歯は家族を昼に伸ばしていく。 針金は異形のまま、その家族に寄り添っていく。  緑の家族の中、針金は紛れ伸びていく。 先端をさらに丸く球体へ、今度は刻みを入れていって。  夜の度に先端は形を変えていく。 羊歯の緑は伸び、針金は伸び変わりゆく。  夜、月光。 そこに羊歯の家族が照らし出された。 一本、異形の羊歯。針金の。その先端。 人の顔が、そこにはあった。  戦争の石碑。その下に、苦渋の人の顔が一個知られることなく存在している。 家族にもなれない、羊歯に混ざって。  羊歯は胞子をつけ、風に載せて散布します。 そのために丸めていた頭の様な先端は大きく広げ、肋骨状の葉を全力で展開させます。 頭を向き合っていた日々は終え、緑の花を咲かせるみたいに家族は解散するのです。 針金を一人置いたまま。  苦渋の、苦悶の顔をした針金の羊歯は、物陰の中立ち尽くしていました。  春。 次の春。 さらに次の春。 また次の春。  石碑の陰に、針金の羊歯がいました。 苦痛の顔を向き合う四本の羊歯が。  その羊歯の顔は、顔を知られる事なく亡くなった、石碑に刻まれた者の顔だと誰が知る事でしょう。 次の年に、さらにもう一人増えるかもしれません。


フィラデルフィアの夜に XXXⅠ ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 2
P V 数 : 757.1
お気に入り数: 0
投票数   : 0
ポイント数 : 0

作成日時 2022-05-24
コメント日時 2022-05-25
#現代詩
項目全期間(2025/04/14現在)投稿後10日間
叙情性00
前衛性00
可読性00
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閲覧指数:757.1
2025/04/14 20時51分49秒現在
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    作品に書かれた推薦文

フィラデルフィアの夜に XXXⅠ コメントセクション

コメント数(2)
ささら
ささら
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(2022-05-25)

羊歯の成長の様子が説明一辺倒にならず、視点が流れるように描かれていて見惚れました。

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羽田恭
ささらさんへ
(2022-05-25)

職場の近くにゼンマイやクサソテツといったシダ植物が多く生え、食費を浮かすためにも収穫しているのですが。 そんなシダが家族が頭を寄せ合っているように見えたので、書いてみました。 以前から何かとシダを収穫していて、成長の様子を見ていたのがよかったようです。

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