一畳の和室で、我が子を犯す夢を見た
窓も襖もないその部屋には、蛍光灯のほかに光源はなく
畳や壁に、血と糞が染み付いている
我が子は、黒ずんで木目の浮いた壁にもたれて
わたしの大きな陰茎を、受け入れている
顔は、ほとんど滲んでいて
絶え間なく運動する眼球だけが、明瞭に知覚される
この子の目の端には、いつも蠅がいた
赤い蠅
小さな、首のない蠅が
諂うように、萎れた羽を振るわせている
それが無性に気に食わず
亡妻が使い損ねた櫛の柄で、何度となく穿った
プラスチックの安物のそれはすぐに折れて
その度、血が溢れたのに
我が子は一度も失明することはなかった
ただずっと、固形物混じりの膿が
涙に混じっている
(えるされむでのたれじぬぐんじんとしんきん
さいぼうまくをやぶりはいだすかみがみのおしえ
かえるのたまごをつくえにつめる
ろくさいのぼくらをせんそうとよんで)
蛍光灯は、火花を散らしながら明滅し
ぽっかりと空いた大きな口に
暗闇が嵌っている
全ての歯を抜き、反射するものはひとつもなく
使い古された舌だけが、痙攣している
我が子の手足は、久しく自働していない
腰を大きく振った時だけ、振り子のように揺れるばかりで
長くなった爪に、罅が入る
(ひのうずがかわいてこべりついたのーとるだむのかねのなかで
ほそいうでとぶくぶくしたしたっぱらのおとこがひしゃげたらっぱをふいている
そいつがぼくらのぱらのいあだよ
せんもうがしほうはっぽうにのびるのをだれかのせいにしてはいけない)
わたしはこの子の腹の中の
わたしの陰茎の姿を想像する
どのようにうねり
どのように肉壁をこじ開けるのか
肉壁の襞に、ぴったりと収まった糞が
わたしの陰茎に擦られて、ぴろぴろとめくれあがるのか
実感のない、ぬるい感触が
全身に透明な膜のように絡んでいる
(ようすいのうみのなかでのどがかわいている
どろとにくとらんおうのうずのなかでぼくらはあえいでいる
すべてのけんきせいさいきんのだんまつまのしたで
うごめくというじをかいたいする)
射精は、快楽ではなく
身の内側焼けるような心地と、悪寒を残す
スモッグが、脳溝に染み込む気怠さとともに、最後の一滴が、滲み出し、
わたしの精液が我が子の腸を満たすと
逆流して、股の隙間や、陰嚢の皺に流れ込み、
それは粘ついて、汗と混じり這い回る
腰を打ちつければ、腫れ物が破裂し、漿液が滲み
蛆が、蛆が、蛆が湧く
蛆は、我が子と同じ皮をかぶっている
我が子の手足が、ばらばらに動き、指がひしゃげる、爪が捲れる、顎が揺れる、我が子は、黙っている
首のない蝿が、わたしの唇に止まる
蠅の首は、わたしの口の中にある
( 声が 聴こえる おとうさん ぼくは あなたのことを あいしています あいしていますから ぼくのにくが かわいて あぶらがしみだすまえに おしいれのなかにでも いれてください ひふのしたに あぶくがたまって ちょうないの ばくてりあがうぞうぞと のたうちまわっております ぼくのちょうはやぶけています はいにはあながあいてかびがはいりこんでおります かびは すこしだけなつかしいようなにおいがします けれどすぐに あなたののどを くすぐるのです ですからどうか ぼくのことを もうわすれられてください あなたと なんどもひとつになり あなたのたいえきと ぼくのたいえきが こうかんし じゅんかんし ぼくのないぞうがおしやられ れっしょうし えんしょうし はれつする ほねが あっぱくされ きしむ のが ぼくは ずっと こうふくでした あいする あいする おかあさんよりずっと だいすきな おとうさん と 耳の奥で 焼けるように 水が 溶けた 声は 我が子のものより 少し 低い 我が子は 俺 と 云う 耳に 爪を 立てる )
口の中が乾いてきて
最期のよだれが、我が子の鼻先に垂れた
目を覚まし、隣の我が子をそっと撫でる
そもそも私に、子どもはいない
作品データ
コメント数 : 5
P V 数 : 867.9
お気に入り数: 1
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ポイント数 : 0
作成日時 2022-03-31
コメント日時 2022-04-02
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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可読性 | 0 | 0 |
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技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
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2024/11/21 23時37分24秒現在
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エロティックでホラーな感じ。よく書かれてるなという一読した感じです。 ただ、なんとなく、前のめりに書き過ぎているような。前のめりとは、エロティックでしょう?ホラーでしょう?ほらほらという主張を強く感じるということ。作品が作品へ引き込んでくる仕掛けられた罠が薄いような。
0我が子を犯す夢は、創作の中で一度出てきました。 親近感があってコメントしています 醜くて汚らわしくて罪深いのですが、そこにあるいびつな愛情のいびつさに神性を感じます。 そんな風に誰かに身を供して、誰かに心酔したい。或いは、全てを奪ってやりたい。 セックスって人を自殺に追い詰めるほどのパワーがあるんだろうなーと思います。 哀れでした。美しく。
0ただ読み手に刺激を与えようとする姿勢が嫌いです。何の情緒も主張も感じられません。自分に対する創作の意味をしっかり追求してみては?
1そもそも私に、子どもはいない わたしもいないかもと思いました。
0私にとって性欲は三大欲から去った。覚めてみればSEXはただの粘膜と粘液の獣ごっこ。 性欲が私のように失われたら100年ほどで人間は滅びるのに。 SEXが詩の対象となる時期から過ぎ去った老人の繰り言です。
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