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星の星.
みていろ 空の色は かわらないのにもう次の日になった ――0時に くらやみのなかで われらはいつも欲望をまちがう 海のない町に住む 電車は夜半までごとごとうたう 渇いたのどは色水でなくとも潤うのに 星のような自販機に ひきよせられてみたりする またあなたでなくとも ――1時42分に 夜眠ると あなたがいて 星霜のうちの たったひとつのことだけ唇に 載せようとする それはもう言訳みたいには響かない 眠る そのからだの 深みに触れてひとつ星が逃げていくいつだったか夢を 捏造したとき いつもどこか悲しい予感が 玄関が開けっ放しなのが 外で みえない山向こうの空の下で起こることが後になって知らされる気がした ――5時17分に 恥ずかしいことがいくつあるだろう 煙突掃除夫のあたまのうえ.まだきらめいている朝の星 はなれたところにも いろんなものを残してきた 故里ではつきまとうように 波のおとが つくづくあれは薄紗を被ったろうか はだしで けもののようだったのに すべて幻想だ もう呟きもしないでいたらいい もうこれ以上 ! ! みていたのは 幻想だったのに 知らない町にいても 痛かったことなんて忘れても 厚くなった皮に 瞳のうらがわに 品のない冗談に 逆光のように残っているよ 残っている ――7時半に 言葉が曙光ほど明らかに伝わることもあれば、あなたには絡まりきったテレビの裏のようにめんどうくさいこともある。どちらにしてもひどすぎる。わたしらは万能鍵を押し戴いたのではなかったか。いや、機能していないのはきっと、鍵を回す指のほうだな。あなたは、わたしは、どう斗ってもいいのに。 ――10時に あらゆる場所を旅したね 頁を繰って あらゆる人になって あらゆる人に恋して あらゆる人を殺して あらゆる人として死んだ 形も文字も液晶もくそくらえ そのどこにもない時間が 事実が血になって躰のうちを滴る おまえといっしょにいた 生まれ変わってひとつになろうと口約束をした 契約にならない唇でおした判 約束を 人だけがしている ――真昼に 少しずつ生活は生活になる 自分をさいごは土に埋めることを 思ってるの? まだ朱い夏にあって このまとわりつくような静けさは? 昨日に託す、 おとといに託す しわのよった制服に黄色かった通学鞄に忘れることのできない幼い過ちに .託す.託す.託す 一億年まえの ひょっこりとした昼下りの出遭いに 遠いと思っていたどこでもない土地は 象をとろうとしてる 掻き混ぜてできた島みたいに 保険や年金の封筒と 毛虫のように更新される社会網に なんの準備をしているんだろう内側で なにかがとろけ それは 音もたてない ――14時33分に 砂浜のつめたい砂に独り臀を降ろして、いままで褒めてもらった譬喩をひとつまたひとつと海に棄てていく。その終わりになにが訪れるかを予感をいなんで。恥しさ貴さ卑しさ崇さぜんぶ引潮。 ――17時に 結婚式からかえるとき ひどくひとりがこたえた 話していれば気づかないとはおれもばかだよ 書店で買い込んだ本と漫画は 空虚などではなかったろうな? うちひしがれている として 何にだ? 新郎はむかしと変わらない 笑顔だった あれができるか? ひとのために、じぶんのために 救いの断片に思えたものは 木目町の路地で歌うギターひき 最後のひとりと別れてからの約百歩 大型書店の効きすぎた暖房なんかさ そして滓のように脳裏に残った 両手の組み方 ひかりの列車が からだをなじんだ町へと返す ひとえきひとえき近づくごとに 決意が鈍っていくのをおれは知ってる 雪に降られた路上駐車の去ったあとみたいに そのおおきさを測っている ――20時に いつからかしずかな 海へと下りてきてしまったね あやうくまぶしい季節がおわり 太陽も月も(海星もね) ひとしく来たるし ひとしく遷るとわかる ねえ 闇は 思っていたよりすこしあかるく ねがうよりもすこしだけくらいのだな これからさきの だいたい無限回くらいのながれ星を かくしたり ぬりつぶさなかったりする ――21時に 液化した思いあがりを海に流して バイバイ と 言おう ひとつかみの卑しさを今晩の あなたの枕の下へしのばせる いろいろなものがはずかしめなので きっと消えかけで気づいた虹に希望をだぶらせた. 打ち寄せる波.波..波にゆ.られて喪われたあなたの躰が帰って来る 妙につややかで りんごあめ いちごあめ ぶどうあめのしろじろと 長い便にゆられてわたしも忘れてしまった 何が裏通りの稚さで起こったか 攪乱されてる 秘密めいてる 昨日に昨日を重ねすぎてる かがやく冷蔵庫のなか. ときはとまってみえただけ ――22時50分に 冷たいのだ、鷺よ。脚を撫でさすり暖めてくれないか。 たかが一晩のこと。 そうとも。 しかしその一晩すらも差し上げたくないのです。 花が好きか? とても。 家族の絆は分かちがたいか? ええ。 おまえの生は祝がれてあったか? はい、そしてこれからも。 いや。 わたしは時を献げました。まだ献げねばならないのですか。 おまえのものは何一つない。 心は。 それは私の側からしか見えない。 明日をわたしの枕元に置いておいていただけませんか。朝に。 言葉はまったく傲慢きわまる。 わたしは言葉のほんの細い隙間を透って、透くとおくへ行きたかったのです。 行けばいい。できるなら。 さようなら。 明日。 明日に。 ――時計は見ずに 夜の果てるところを探しに いきたいといったのは口実だったね だってもうそのころには 待てば来るのがわかっていたから。 動かない星すら知らないで 厩に着けばなんて 国道の信号をいくつもくぐった。 夜の種類は 爪のかたちみたいに 電灯のない夜 それとも明るい夜 屋根のある夜と 風の夜 靴の中の爪先まで冷えきる夜と、 親しい涼しさの夜 ひとりの夜と 三人の夜がある なんでおまえを幸せにしないといけないの いつか示し合わせた朧に いま優しげにあらがって 答えまで歩いて取ってきて. 簡単そうに せせら笑ってみせて
星の星. ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1322.6
お気に入り数: 2
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2022-03-27
コメント日時 2022-03-30
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
久しぶりに詩を、声に出して読みました。声に出して読みたくなる詩だと、そう思います。
0言葉をもって僕たちはやりとりをしていて、普段でも言葉での理解が十全にできるものだと図らずも思い込んでしまうふしがあるけれども、それを打ち砕く現実ってありますね。この作品の所々にそうした言葉の現実に突き当たった語り手や登場人物を思い浮かべます。 この言葉の現実というのは現在のロシア・ウクライナ情勢とそれをめぐる言説とも重なっているけれど、語り手の深夜から翌日の夜までの時系列上で、個人的な位置を軸に語られているところが良いと思います。恐らくそのために〈現実の時系列の並べ替え〉が必要だったのだろうと推測します。 日常的現実のレベルで言葉が傷ついた時、そこから普段遣いの言葉で語っても通じることは少ないからフィクションという形をまとって、日常的なありようでは語れない言葉で語れなさを語る、という、つくりとしてもしっかりした作品だと思います。 ありがとうございました。
0自分の書き物が知らないところで声に出して読まれたという事実。嬉しいです。 ありがとうございます。
0>日常的なありようでは語れない言葉で語れなさを語る 形容していただいて納得するような気持ちになりました。読まれて人の内でそうなるものが書けたらいいなと。 日常レベルの言語ルールの息苦しさから逃れる手段に、私たちはまた言葉を選んでしまっている。 人に使われるとき言葉は傷つくのでしょうが、その傷つけ方をいいようにやれたらと思います。 ロシア、ウクライナの状況についての要素がこのスタイルで意識的に書き込めていたとしたら、めっちゃ格好よかったでしょう。でも私の中でそれらの状況は今だ意識して書くほどに内面化されておらず、残念ながらそこまで意図していたわけではありませんでした。 そこが繋がったのはひとえに藤さんの読みの力だと思います。 色々と考える機会になりました。こちらこそありがとうございました。
1しろねこ賞の時の投稿を記憶してくださっていたとのこと、ありがたい限りです。 タイトルは"."も含めて、自分の中では執着のある部分だったので言及していただけて喜びました。 私が創作物に期待するのは、色んな感情でごちゃごちゃになって、でも何かが確かめられる、そんな感覚です。書く側としてどれだけできているのかわかりませんが。 心が震えたと感想をいただけるのがとにかく嬉しいです。 ありがとうございました。
1何かしら資するところがあったなら幸いです。全体の構成に関してはジョイスのユリシーズが念頭にありました。今思うと使いこなせているとは言えないですね。 コメント下さりありがとうございます。
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