はる !  - B-REVIEW
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PICK UP - REVIEW

ことば

ことばという幻想

純粋な疑問が織りなす美しさ。答えを探す途中に見た景色。

花骸

大人用おむつの中で

すごい

これ好きです 世界はどう終わっていくのだろうという現代の不安感を感じます。



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はる !     

 とにも、かくにも    今日は 三連休の最初の夜  ひじの うらは、  猩々のように優雅に、 「かくり」 と 折れて、 オルゴールの真似事をして くるりくるうりとまわる私の指先の決して届かない 遥か遠くで、星々が燃えています 春のように あかあかと 手のひらには 冬の化身たる月光がたわわと実り、指の隙間からは零れ落ちる光芒が、 掃除されていない部屋特有の粒子的な上下運動をしながら、つまりは、  落ちたり 舞い上がったり しています  春はこわい 肉体が生まれる音がするから  それは、殻の中から嘴が突く音とよく例えられるけれど、もっとありきたりで、  それは、父が、べちゃくちゃと喋るわたしたちの、声に苛立って、  そう、ビールを、あおったふりをして、ジョッキの底で、つよく、テーブルを打ち付けるときの、  おそらく、このことについては、もはや、話し合いでの解決は不可能であるという、  圧倒的な肉体の優位性が、圧して、寄せて、のしかかって、狂う  父の苛立ちを前にしてこどもは肉体など持たない ことばになる  ように  春の到来を前にしてことばは無力に俯いて 小声ている  やさしい、の中にある、かなしい、を取り出すために  わるつ のてん ぽをき ょ くたん におそ く しま ―――     祖母の指先が私の口内いっぱいに苺を詰め込ませます  入らなくなってなお詰め込みます  祖母はきっとしっているのです そしてもう死んでいるのです  苺を食べる幼子は可愛い  夜に喰う苺はこわい  人の顔の見えぬ窓のように  春は視界がけぶる あなたはずっと目を細めているけれど何も見えない  私も見えてはいない つよい風の中で私とあなたは常に寸断されている  あなたは夜浴びしてその日に芍薬の花弁に舌を突っ込んで接吻をして  alcoholの匂いを花の匂いという  春の夜ではそれすらも事実     私は、くるり、くるうりと まわっています  実のところまわっているのは私ではなく地球で  だから私たち皆目がまわって酔っ払っているようなもので  じゅんばんに、おかしくなっていってるんだね。  猩々が果実を撫でるような、あの、悠久の重みを受け止めて  「かくり」  と 折れた肘の裏と、天秤のような手のひらに月光を受け止めて  とおく はるか とおく 春のように萌える星々の下で     目まぐるし、の中で、それでも主観的には   穏やかな心で笑っているのは    とにも、かくにも    今日が 三連休の最初の夜 だから でしょう か  ?   天幕から帳が零れた(粘液のように穴だらけに) 卵生の夜にあってあなたはまだ生まれていません。  小声ることばはどんどんおおきくなって    今はもうこんなに重い。



はる !  ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 14
P V 数 : 2063.0
お気に入り数: 0
投票数   : 2
ポイント数 : 8

作成日時 2022-03-20
コメント日時 2022-04-05
#現代詩 #縦書き
項目全期間(2025/04/10現在)投稿後10日間
叙情性22
前衛性00
可読性00
エンタメ00
技巧22
音韻22
構成22
総合ポイント88
 平均値  中央値 
叙情性22
前衛性00
可読性00
 エンタメ00
技巧22
音韻22
構成22
総合88
閲覧指数:2063.0
2025/04/10 00時57分49秒現在
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    作品に書かれた推薦文

はる !  コメントセクション

コメント数(14)
高代 あさ
作品へ
(2022-03-21)

私は、この詩に対してなにも具体的なことを言えないと思った。自分の世界には存在しない豊かな粘膜のような文体、イメージの流体を、捉え切ること叶わず、あるいは私は、とうめいな他者の卵の中から、この詩を眺めていたのかもしれない。月のひかりが殻を越して、言葉は殻を通り抜けて、私はただ耳を澄ますことしかできず、はる ! の匂いは、そこに、 乾きよりも、豊かな湿り、苺の果汁が垂れてきて、口を塞がれもうなにも言えず、言葉ならぬ詩情だけが残る

1
エイクピア
作品へ
(2022-03-21)

父と祖母とのエピソード。父はビール。祖母は苺。繰り返される三連休最初の日であると言う通奏低音でしょうか。全体を覆うわけでもなく控えめに控えている。春は残酷な季節であると言うエリオットの残響も聞かれました。父のジョッキのエピソード。桜祭りとつなげられているのかもしれません。父は誰の声にいら立つのか。それは私たちとこの詩では言明して居て、母と私の事?かと思いました。ぺちゃくちゃと。父の肉体の優位性。苺を詰め込んでくる祖母。あなた?あなたとは。恋人?それとも。母の事をそう呼んでいる可能性を思いました。卵生と言う感覚。小声る言語感覚。地球と私の一体性。春の星々や月光は私の支配圏内でのみ光っているものなのかもしれません。

1
nameⅠ
作品へ
(2022-03-22)

3連符ですかね?流石音として読みやすい作品を書かれる方だ。やっぱ楽子さんの作品好きだ。

1
柳煙?
作品へ
(2022-03-23)

諸魚無常 聖者必滅 冷静無題 観音進化 磊落葡萄 愚直公散

1
福まる
福まる
作品へ
(2022-03-23)

「はる」ですね。苺は美味しいです、春の出来事とし思うことは親子げんかも祖母とのやりとりも過去のできごとであまりいい思い出ではないかもしれませんが、でも最後は赤ちゃんが生まれてほっこりしました。

0
satoshi iwasa
作品へ
(2022-03-28)

おもしろかったです。 ちょっぴりゾッとするとこもあり、 ひきこまれました。

1
楽子
楽子
さんへ
(2022-04-05)

コメントありがとうございます。 春に感じる恐ろしさを突き詰めたときに、存在の豊かさ、何か取り返しのつかないものが生まれてしまったおそろしさを感じるからだ、と思ったのです。 どこかに何かがいる気配が、あたたかくもあり、おそろしくもあるなあと。 それで何とか、そういうものを表現したいというのがきっかけでした。

1
楽子
楽子
高代 あささんへ
(2022-04-05)

コメントありがとうございます。 この詩を書くにあたって、あささんの書く詩を参考にした部分があります それは、 文脈ではなく、単語そのものが持つ美しさというものがあるということ 単語だけではなく動詞の多様性に気づくこと 説明しなくても、響きは伝わるということ 幼生の美しさです

1
楽子
楽子
エイクピアさんへ
(2022-04-05)

この詩で一番難関だったのが出だしで、当初予定していた出だしは 「肘の裏側は、月光の重さに耐えかねて、かくり、と それは猩々のように」 だったと思うのですが、 ビーレビのサイトの場合出だしがすごく大切なので、 わるつ、というテーマをもうひとつ入れることにして、出だしになりました。

0
楽子
楽子
nameⅠさんへ
(2022-04-05)

三連符ですね。ちょうど三連休なのと、さん、れん、きゅう、という三連休自体がもつリズムの符号、 三連休の、最初の、夜 というリズムの良さに気づいて取り入れました 音の響き、すごく頑張ってるポイントなので嬉しいです。 ありがとうございます。

0
楽子
楽子
さんへ
(2022-04-05)

夕方~夜ごはんの間に書いたので、だいたい3時間ほどだったと思います。 構想⇒8割の完成までが20分で、あとは文章を直したり単語の意味を整えたり、見栄えがよくならないか考えたりして足したり引いたりする感じですね。 だいたいの文章は日頃つけているメモや日記から抜き出しているので、その時間も加えたらもっと長い時間になるかと思います だいたい皆さんどのくらいで詩を書きあげているんですかね?

0
楽子
楽子
柳煙?さんへ
(2022-04-05)

 諸魚無常は面白いです。

1
楽子
楽子
福まるさんへ
(2022-04-05)

こういう纏め方をしてくるのが福まるさんの面白いところだなあと常々思います。 感想ありがとうございます。

0
楽子
楽子
satoshi iwasaさんへ
(2022-04-05)

感想ありがとうございます。 ぞっとする感覚を持っていただけるのは嬉しいです

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投稿作品数: 2