フィラデルフィアの夜に XXⅨ - B-REVIEW
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フィラデルフィアの夜に XXⅨ    

フィラデルフィアの夜に、針金が芽吹きます。  倉庫は人が来ない限り、真っ暗になっています。 誰かが何かをしないのだから、光をつける必要がないためです。 真っ暗闇の倉庫。そこへ夜の帳が落ちると、漆黒が一切の音も立てずに満ちています。  誰も何もいない。 鼠も虫さえもいない。 音がする。 電気の異常でも、自然に壊れる音でもない。 走る音。細い長い何かが、高速で伸びて、走る音。 ひとしきり伸びたのか、音は止む。 静寂。 その中で、小さい小さい音が幾つも続いていく。  続いていく。 小さい小さい音が、いつまでも続く。 彷徨い歩く音は、止まった。  別な音が静寂を揺らす。 金属が軋む。擦れる。 扉が開かれた。  開くことがなかった倉庫に、風が吹き込んでくる。 外の新鮮な空気が歓声を挙げて、静寂を駆逐する。 その声の下、転げ落ちていく。 救援に来たような風を、見向きもせず。  転げ落ちる。転げ落ちる。 望みを叶えるために。  忘れ去られた倉庫。 その扉が内側から開けられ、音をがなり立てて風がなだれ込んでいきます。 悪臭漂うその中を、少しでも清浄にしようとする様に。  その扉の近くの崖。崖の下。 一個の芋が転がっている事に、誰が気づくでしょう。 そしてその芋が、不可思議な事になっている理由を、知る者はいないでしょう。  芋には目があります。無数に芽を出せるように。 その一つが明らかに人間の目と同様の形に抉れ、何かを見据えているかに思えます。 そしてその他の目から生えているのは、芽などではありません。 明らかに針金です。 長い長い針金が四方八方に伸び、邪悪な化け物にしか見えません。  芋は歩いたのです。 仲間たちが放置されて腐りきっていく中を、眼を作り、針金を伸ばし足を作り、脱出したのでした。  芋は、明るい日差しの下にいます。 伸ばしていた針金は抜け落ち、その下からは瑞々しい新緑の芽が顔を覗かせます。 眼は眠り、芽を伸ばしていきます。  芋はここで、成長を遂げることでしょう。


フィラデルフィアの夜に XXⅨ ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 4
P V 数 : 1323.5
お気に入り数: 0
投票数   : 0
ポイント数 : 0

作成日時 2022-03-11
コメント日時 2022-03-16
#現代詩
項目全期間(2025/04/14現在)投稿後10日間
叙情性00
前衛性00
可読性00
エンタメ00
技巧00
音韻00
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閲覧指数:1323.5
2025/04/14 19時09分24秒現在
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    作品に書かれた推薦文

フィラデルフィアの夜に XXⅨ コメントセクション

コメント数(4)
羽田恭
さんへ
(2022-03-14)

それは初めて言われました。 ある程度リズムを守るようにはしているので、その点は朗読に向いているかもしれません。

0
satoshi iwasa
作品へ
(2022-03-15)

一行目からおもしろいです。

0
羽田恭
satoshi iwasaさんへ
(2022-03-15)

こんな一行目ですでに54作品も書いてしまいました。 よかったらどうぞ。 https://ncode.syosetu.com/n5588fv/

1
satoshi iwasa
羽田恭さんへ
(2022-03-16)

そうだったのですね。すいません。シリーズもおもしろかったです。

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投稿作品数: 1