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月が消えた
1 アジス・アベバに歌が響く。そこここでコーヒーを淹れる女たち。男は? 霊になっている。 2 私は不在である。五線譜の隙間で震えながら、演奏が終わるのを待っている見えない休符。 3 宝探しの宝とまったく同じ孤独。秋琴楼に撒き散らされた人気者。言葉は? 匂いと喧騒、そして肉体がかき消した。 4 震えている。枕の上で眠れない僕の頭を、月が照らす。埃まみれの部屋、呼吸ができないほどに。 5 墓参りをした。私は彼と話した。彼は隣の死者と話していた。私の言葉は墓の中へしまわれた。そして、何も話さなかったことになった。 6 アジス・アベバから音が消えた。秋琴楼から肉体が消えた。そんなことがありえるのか。あの匂いを、忘れないようにしよう。 7 私の身体は軽くなって、どこまでも飛んでいける。私は、吹きやまない風。月の光のすり抜ける、どこにもいない存在。耐え難さのなかで、小さな埃を運んでいる。 8 目が覚めると、僕の部屋はきれいに片付いていて、荷物も埃もどこにもなかった。冷たいフローリングを撫でながら、小さく呟いた。 9 月が消えた。私/僕の頭を照らしていた、あの月が。コーヒーの記憶だけが残った。震えは、いつの間にか止まっていた。 10 物語の終わりに、何が残るのか。コーヒーカップにこびりついた、忘れられないしがみつき。
月が消えた ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1613.8
お気に入り数: 0
投票数 : 3
ポイント数 : 30
作成日時 2022-02-22
コメント日時 2022-03-20
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 7 | 7 |
前衛性 | 2 | 2 |
可読性 | 3 | 3 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 7 | 7 |
音韻 | 4 | 4 |
構成 | 7 | 7 |
総合ポイント | 30 | 30 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 2.3 | 2 |
前衛性 | 0.7 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2.3 | 2 |
音韻 | 1.3 | 0 |
構成 | 2.3 | 3 |
総合 | 10 | 7 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
この詩、とてもいいと思う。ただこの作品の肝の一つである1〜10に区切った書き方。これがむしろ作品の良さを削いで分散させてしまった、という印象。何か区切りを持たせるにしても、視覚的要素でカバーする(例えば段落、改行、文字の並びの工夫)ことは出来たように思う。一つ一つのセンテンスそして全体のまとまり、示唆するところは、とても良いだけに惜しいと思った作品。ただこれらはすべて僕の個人的な感想。的外れであればご容赦を。
1感想ありがとうございます。数字で区切ったのは明確な意図によるもので、それぞれの断章が時間的・空間的に区切られていることを示したものでした。削がれ、分散してしまった「良さ」について、追記でコメント頂けるとありがたいです。
0そうだったのですね。意図が。時間的、空間的に。それならば僕は例えばAM8:00at〇〇など、あるいはそこまで直接的に表さなくてとも時間的、空間的な違いを表現する別の方法を探したことでしょう。この1〜10という表記だと、どうしても詩が一連ごとに分散している印象が残る。良さが削がれたとはこの1〜10の連携、繋がりが削がれたという意味でもあります。時間的、空間的な差異を詩で表現する。とても面白い試みです。ただ、あくまで僕の場合ならば、方法としてもう一考したことでしょう。これで回答になっているでしょうか。
1エチオピア内戦、大量虐殺のことを思いました。
1感想ありがとうございます。エチオピア内戦というのが74年に始まったものか、あるいは現在ティグレ州で起こっているものかわかりませんが、内戦状態ではない、エチオピアの日常をイメージした文言のつもりでした。
0感想ありがとうございます。指摘されている「不在感」が出発点となって生まれた詩でした。
0すごく良い。 欠損、間の使い方。 言葉と言葉のあわいに何かがいるような。 いないような。
1感想ありがとうございます。
0アジスアベバの音楽や、コーヒー。コーヒー豆はアフリカ起源であったようなことを聞いたことがあります。存在の耐えられない軽さを思いました。ミランクンデラとは関係なく詩性に到達しようとしているのであろうかと思いました。最後の「10」の染みではなくて「しがみつき」。これが物語の終わりを表していると思いました。
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