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public poet
Google lensの認識アルゴリズムは、露天風呂で背泳ぎをする大学生の股間をナゲキバトとして認識している。行儀の悪さをとがめるヒトも、持ち込まれたスマホをいぶかしげに見るヒトも、ここにはいない。 ぬっ、と見知らぬ手から突然に差し出されたストローは、ぶるぶると震えている。 波間に映り込んだアサヒスーパードライ、その塗装の冷たさ。 「あんちゃん、プルタブ開けて、口にストロー刺してくんねえか、このまま飲むと前歯がカンカン当たって敵わねえからよ」 だいたい水なのに、ヒトは不定形ではない。いつもは人類の隙間だけがぼくだけれど、たとえば、いま、ここ、Hと2とOのあいだにも、ぼくはいる。 気道になったストロー、呼吸のオノマトペを内包した缶ビール。 舞い落ちる紅葉はマグネシウムとして湯に溶け出し、さながら不安定なままの掌。 「あんちゃんも飲むか? やらねえけどな」 ────見て、深夜の西友でえのきを持っている真顔の私笑。 スマホを掲げた若い女が、しゃべる。透過度90%のまま、湯船のへりにすわって。 青いワンピースの毛管がぬるい湯を吸い上げていく。 彼女のまつ毛には電線の妖精が住み着いていて、スマホの画面はダイドーの自販機が佇んでいた夜と同じ色をしている。 「俺だって、目いっぱい歩いてきたんだ。点字ブロックが金木犀だったから、ここまで迷わずこれたんだ」 おじさんはすっかり震えのおさまった手を握りこんで、悔しそうに、でもどこかやり切ったような顔で、泣いた。 電線をかすめて走るのは蝉の遺灰、涼風に巻き上げられて、湯気のように薄まる。 蝉の遺灰はおじさんの表皮から生じている。 蝉の遺灰を追って、エンドロールの端点を見つめる。 「プロローグは日記の中盤にあるんだ、それを知らなかったんだ」 薄まった遺灰に飲まれていく、群鳥。エンドロールとしての、群鳥。 消えていく文字列の中にぼくはいないし、金木犀の花びらなんかないし、Googleの気配すらない。 でも、点字ブロックの香りだけが生ぬるく漂っている。
public poet ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1665.4
お気に入り数: 0
投票数 : 2
ポイント数 : 4
作成日時 2022-01-08
コメント日時 2022-01-21
項目 | 全期間(2024/11/23現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 4 | 4 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 4 | 4 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
びーれびしろねこ社賞に応募した作品です。 既発表ですが、公式ツイキャスにて「応募作品も投稿OK!」とのことでしたので投稿させていただきます。 (百均さん、ご確認ありがとうございました)
0沙一さま、あけましておめでとうございます。 いつもコメントありがとうございます。 わたしの近所には、秋になると金木犀がまっすぐに延々と咲いて、それに並ぶように点字ブロックの伸びる道があります。 白杖を持った方とそこで毎朝すれ違うのですが、金木犀の咲く時期は微笑んで歩いていらして、きっと同じ高揚を共有できているのだろうなと思ったのを覚えています。 作品の根幹の部分をお褒めいただき、大変うれしかったです。 本年もよろしくお願いいたします。
0幻想的やら妖精といった物語を今どきの時流にマッチさせた書きはとても秀でたものに読める。作者の過去作は以前から好んで読んでいて、余談だけれども、しろねこ社賞を受賞するにふさわしいポテンシャルとドリームを備えた、作品、作者だったと個人的に思う。
1三浦さま,あけましておめでとうございます. コメントありがとうございます. 過分なお褒めの言葉,恐縮の限りです. より良い作品を残せるよう今後も精進しますので,温かく見守っていただけると幸いです. 励みになる感想をありがとうございました. 本年もよろしくお願いいたします.
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