膝が痛い、今朝駅で豪快に転んだときの恥ずかしさ、「わたし嘘ついてたかもしれない」とつかえつかえ口にして、どうしようわざとらしかったかもしれない、彼の目は鋭くて、凪いだ海みたいで、「そんな風に泣いたらなんか俺が悪いみたいじゃん。君にはいつも、何も見えてないよね。」、いつも丁寧な句読点がいや、「あんまり鮮明に見えるからどこに焦点合わせたらいいかわからないの」、小さく傾げた彼の首、しらじらしい、
あんまり鮮明に見えるからどこに焦点合わせたらいいかわからないの あなたといると度が強すぎる眼鏡をかけているみたいで 頭がいたくてたまらない、
「あのさあ、こっちだって暇じゃないから。話すことないなら帰るよ。」、苦しい、何か詰まっているみたい、眉の寄せ方がこわい、私上向いてたみたい、単調な目の上下運動だけじゃやりきれない、背の高い彼の顔が間近にあった、
「いいたいことたくさんあって それは嘘じゃないのに いいたいことがたくさんあるってことだけでいっぱいいっぱいで なにをいいたいかじぶんでもわからんの でもいいたいことはたしかにあって だからなんもいえんでもぜんぶ嘘じゃない」
彼が左手に目線を落とす、「俺、やっぱ帰るわ。」
あ、腕時計、
コートが冷たい風でふくらんで、走り出さずにはおれんのに走り出せんくて、さっき来た時は子どもがたくさんいたはずなのにもうおらんくて、ぶらんこがゆれていて、「は?牛乳?あーわかった、買って帰るね。いまどこ? ‥‥あーそれなら私のほうが先に着くかも、うん、じゃあね」、高い声がして、振り向いたら女の人が携帯片手にしあわせそうで、やっぱりほら、なんも言えんってことは最初から言いたいことなんてなにもなかったのかも、目頭がじりじりして、頭が重くて、彼の姿はもう見えなくて、口の中はからからで鼻に籠るような味がして、ぎゅっとコートの袖を握ってた。苦しくって気持ち悪くって、わたしやっぱり、嘘ついてるって嘘をついてただけだった、夕日が黒い雲の上で立ち往生してて、明日のバイト、何時からか思い出せない。