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side order(田中修子へ捧ぐ)
* たとえばあのひとが、 ひとにならず、 辞そのもので あったなら、 花のために悼む 星が乱反射する路地裏で あのひとの詩を見かけた、年号のない日付 あまりにもおれはおろかだった そしてかの女を苛む棘のようにその世界に存ったから、トマトクリネの皿を投げ、憎悪のなかでわが身をのた打った それでもあのひとはわたしを非難しはしなかった 2019はいつも秋だったせいで、おれのなかの「さよなら」だけがいつもきらめき、そしてそのなかで書かれたものが、おれにとっての採光だった 冬の裁判所で待っています * たとえばあのひとが、 死のなかになく、 流体そのもので あったなら、 草のために悼む 航空力学を学ぶためには牡蠣の山葵漬けがよく似合う だれもいなかった人生に登場人物たちが現れ、おれを慰めては消えていった これはスーパーカーの仕様ですと執事がいっているのに、おれは気づかないふりをつづける 解剖美術のもっとも昏いところで、4月18日のバラードを口遊む醜い隣人 危険物取扱の資格をマスターするためにも、牡蠣がもっと必要なのだ 「愉しい会話術」を読み、ふさごとを夢想するおれは、モーテルの出口で あのひとの死を見かけた もっとも淋しい時代に生き、そして高速反射する光りが、やがて黒くなってボクサーのパンチに炸裂した * たとえばあのひとが、 過去になく、 いままさに 生まれるなら、 鉄鋼物のために悼む なにしろ魚類にはアリバイがない 鮭も鰯も夜には逮捕できない 平松学のエレキベースを聴きながら、車が転落する 黄金のつまった死体が闇ルートで換金された たったいま、たぶんおれのようなものを不滅にさせようとディレクターが企み、そのまちがいを天使が解明する バスキアは死んだ ガリレオは逆らった そしてジェムズ・ブレイクの横顔がクローズアップされ、まことに退屈な流れのなかで、おれはあのひとの詩集を売り払い、その悔やみのなかでいきなり発語する * わたしは求めない あのひとの諒解なんか いままで断ち切った枝のように ずっとずっとまわりつづける *
side order(田中修子へ捧ぐ) ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 2361.6
お気に入り数: 2
投票数 : 3
ポイント数 : 3
作成日時 2021-12-14
コメント日時 2021-12-27
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 1 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 0 |
エンタメ | 1 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 3 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 3 | 3 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
ガリレオの逆らいはローマカトリック全てを驚異に陥れたのだと思います。田中修子さんに対する哀悼の念が伝わって来ました。
3技巧、構成力、筆力。いずれもずば抜けている。凄まじいほどの激情、ぶつけどころのない怒りを、先に挙げた三つの能力でコントロールし、読み手が当惑しない、鑑賞出来る作品に仕上げている。知人の死に際して、避けられなかった運命に激昂し、悼むという言葉が軽々しく思えるほどの、激烈な苦悩まで描いている。だがこの作品は感情に溺れず、仕掛けも論理性に満ち、思考と理性が破綻していく様を、極めてテクニカルに構築している。追悼詩でありながら、人間にあまねく訪れる運命への筆者への反逆、反抗心を感じる。 ここまでは作品評であり、ここから先は中田氏へのメッセージです。貴方には類まれな才能と努力を感じる。商業的なもの、人々への浸透度とは全く別にして貴方は高みに行くだろう。その時、貴方の目には商業誌などであくせくしてる人々が醜く、浅ましく、惨めに見えるかもしれない。だがそのことを口にしてはいけない。それは貴方の口を汚し、貴方の思考をかき乱し、結果として貴方を貶めるからだ。もし僅かに顕示欲というものがあり、貴方にそのような行為をそそのかすなら、顕示欲の声に耳を傾けてはいけない。貴方の作品、衝動、想いそして激情。誰かが見てくれているし知っている。現にここにいる私もその一人。だから安易に口を汚してはいけない。それは貴方の作品の純度を最終的には落とす可能性があるからだ。貴方は進むべき道を歩み、人々はまた選ぶべき道を選ぶ。 以上中田氏へのメッセージでした。
4私が、田中修子さん知ったのは、ここビーレビの作家様たちの詩や、フォーラムのコメント、皆様のツイッターなどからでした。 もっとはやく、この人に、出会っていたかった、友人でありたかった... さびしく、残念です! できる限り遡ってツイートを読んでいくうちに、修子さんが、あなたを、あなたの詩を、誰よりも評価されている言葉を見つけ、それが深く印象に残っています。 私は、この詩で、修子さんが見つめていた、あなたを、ほんの少し知ることができたかもしれないです。
2「花に嵐」から中田満帆さんの作風が変わったとみていて、その進化が確かなものとして続いている本作。来年に新たな詩集本が出される予定だという。楽しみである。
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