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フィラデルフィアの夜に Ⅱ
フィラデルフィアの夜に、針金が夢を描いていきました。 何の目的も無く、ただただ彩っていくままに。 開かなくなったドアを無理矢理こじ開け、数人が部屋に入っていきました。 いなくなった男を捜すためでした。 しかし見つけてしまった物は、夢。 部屋を、きっと孤独な男の人生を、彩ったもの。 極彩色の、人形たちの。 暗く静かで、色の無い部屋。 そんな部屋に入り目にした物は、積み上げられた、紙がべこべこした本。 何かが挟まっています。 一冊、開いてみると。 原色。 部屋が、開いた一冊だけで輝き出す。 そして、本の上で踊りだす。 針金が。人の形をした、不格好な針金が。 樹脂を塗られ、鮮やかな人間が、そこに。 現実には無い世界で、踊る。 周囲を見渡せば、壁一面大量に積み上げられてます。 そんな本が。 もう一冊。 友人と思しき人と、冒険に。 もう一冊。 恋人と思しき人と、踊る。空の上で。 もう一冊。 平和な世界。数え切れない程の人形の、針金の人間と。 踊り、歌を唄う。 机の上に、さらに一冊。 それは落ち着いた色合いでした。 人形は酷くくすんだ赤色で、灰色の中に。 じっと、座っていました。 細い、隙間だらけの姿で。 きっと、それが男の実際の姿だったのでしょう。 灰色の世界に、そんなくすんだ赤い針金人形が、ぽつんといるばかり。 いくら、ページをめくっても。 最後に針金を貼り付けたと考えられるページです。 何も無い、世界。白。 そこに、いました。 黒い姿で、手を振って。 あとは、その後に続くページには何もありませんでした。 きっともう見つからないと、部屋に入った者たちは思います。 ただ最後、すっくと元気に手を振った姿が、そんな針金人形が、心に残りました。 その後、その本を開くと、酔いしれると、評判を呼びます。 孤独な男の極彩色の夢と、踊る針金人形に。
フィラデルフィアの夜に Ⅱ ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 929.5
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-10-21
コメント日時 2017-10-27
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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可読性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
〈原色。 部屋が、開いた一冊だけで輝き出す。 そして、本の上で踊りだす。 針金が。人の形をした、不格好な針金が。 樹脂を塗られ、鮮やかな人間が、そこに。 現実には無い世界で、踊る。〉 この、凝縮された一節、暗い部屋で、テレビだけが光を放っているような映像が立ち上がる一節が、静かな語り口調の間に埋め込まれている。この緩急のリズムに惹かれました。 〈机の上に、さらに一冊。 それは落ち着いた色合いでした。 人形は酷くくすんだ赤色で、灰色の中に。 じっと、座っていました。 細い、隙間だらけの姿で。 きっと、それが男の実際の姿だったのでしょう。〉 前作では、そのような事件があった、と「報告」するような印象がありましたが、 この作品では、部屋に入っていく数人と共に、読者もまた入っていくような感覚がありますね。 そして、男の遺したものを「発見」する。 部屋の中に造形物としてある、のではなく、書物の中にあって・・・開くと、その場に空間を伴って現出するようなイメージが新鮮でした。物語を作りだす事、物語ることは、その人の人となりを描き出すこと、登場人物を、その人に見合った時空間で躍らせること、なのかもしれません。その物語を読むたびに、その人物は再び立って踊り出す。 実際にあった「事件」が発想源であったとしても、このように自由に、自身のイマジネーションで展開していくならば、それは事件をもとにした、ということではなく、(インスパイアされた)本人の作品になっている、と思いました。
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