いつものように しれっと汽車に乗っておりますと「点子ぢゃあないか」と声をかけてくれた方がいらっしゃるではありませんか。それはそれは嬉しゅうございました。さまざまな名前で好き勝手な呼び名で呼ばれてきましたが、この方は私のことに点子という名前をくれた方です。こうやって点子と呼ばれると、わたしの全身の黒い毛が うっすらと透明を纏って銀色めいて感じられるから不思議です。
この方は、髭を くいと 丸くカールさせたまま 口を への字に歪ませています。
おなつかしや、おなつかしや。そうです、そうです。この人間らしからぬ艶のあるお髭がの方です。以前と同じ懐かしい声で「点子は いいなあ。」と背中をなでてくださいます。
汽車は チャームな わたくしを乗せて 蒸気をあげて走ります。昨日までの私とは違います。わたくしは こそこそと汽車に乗ったのではありません。あたかも改札券に
穴をちゃんと開けてもらったように、この方の膝に居るのです。そして、この方は昔とすこしも違わない口調でおっしゃるのです。「ああ おまえにはおまえには やっぱりチャームポイントがある。一目で おまえだと解ったぞ。」「ああ おまえだおまえだ。」と繰り返しては 喉をなでてくださいます。
そして、わたくしのおなかを擦り なにかにきがついたようです。「どうした?」
「しらないっ。お会いできなければ そんな恥ずかしいことなんて言いませんでしたわ。」と、尻尾で つぶやいたのですが、
「そうか、身籠ったか。ああ おまえには おまえにはな やっぱりチャームポイントがある。産むまえに、こちらに帰ってこようとしていたのか。よしよし。点子にも線が生じるんだなあ」私も ずいぶん変わりましたが、この方も なにかが以前とは違っております。この方が変わったのではなく私が変わったのでしょうか?今日は、どうも この方のお髭が人間らしからぬ髭であることばかりが気にかかります。猫に似ているかどうがなんて、以前は どうでも良いことですのに。しかし、この方は、猫ではない。そうでした。私は猫で、この方は猫ではないのです。
あの方のお髭は、不愛想で表情が無いのですが、きっと なにかをご存知です。今の私のお髭は、この方のあのお髭で感じていることよりも もすこし遠くにある初めての匂いを、感じているのでございます。
作品データ
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作成日時 2021-09-30
コメント日時 2021-10-22
#現代詩
#縦書き
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2024/11/21 23時01分26秒現在
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第一連目で点子の名前の重要さが分かりますね。その命名者のこの方。私のチャームポイントを指摘するこの方。ああ、妊娠の事だったとは。4連目からの展開が興味深いのですが、髭に引っ掛けて、猫ではない猫ではないと強調すればするほど、髭と猫と無表情、つなげてしまう思考が避けられません。
0この詩にでてくる男性は、明治時代をイメージしてます。明治時代といえば、わたしの場合は 祖父が明治生まれでした。仁丹という謎の種のようなお菓子を、よくもらいました。 この詩の おひげの紳士は、仁丹て名前のパッケージに描かれていた紳士を参考にしました。無表情だけど、私は 彼を思うと、やさしい気持ちになります。
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