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おとぎ話は、いつ始まって、誰が書いて、誰が演じて、そしてなぜ終わらないのか
八月と九月のあいだで あなたは映画を観ている 王子様が貧乏な娘を幸せにするという 映画を観ている しらない主人公が しらない物語のなかで 愛してる! と叫び あなたはそれを 黙って見つめていた おとぎ話は、いつ始まったんだろう? あの日読んだ物語には眼がついていて 生き物のようにぎょろっと こちらを見ていた わたしが物語を読んでいたはずなのに いつのまにかわたしが読まれている こっちを見ないでほしい 名前がなければ 誰ともわからない コピーアンドペーストで出来上がっているような おとぎ話のなかの 女性役を演じていることを 見透かされているようで その視線に 何だか耐えられない アネモネ、ダリア、金木犀、セントポーリア、菊、ゼラニウム そうね、 九月になったら わたしたちが知らない間にかぶっていた この透明なヒジャブを 一糸残らず燃やそう どうせ日本語しか喋れないのだから すきな言葉くらい自分で選びたい きっとおとぎ話に終わりは来ないから だから続きは わたしたちが書くことにする そうして わたしを保っていたものは わたしを維持できなくなり ばらばらに散って インターネット上の ゴミとなる おとぎ話は、いつになったら終わるの? あの日の書いた文章は 相変わらず下手くそで 書いては消してを繰り返し そのうちに、 何度も消した場所から 穴があいて そこからまたあの眼が生まれた 生き物のようにぎょろっとこちらを見て こんなくだらない物語を よく書いてくれたなと そういう まなざしを送っていた 謝る隙もなく その文章に配置された文字たちは みるみる色を失い そこにはあの眼だけが 燦燦と輝いていた そういう光景すら またこうして書かれていく わたしはここでも 詩人を演じるしか 自分を保つことができない ルビー、サファイア、アメジスト、琥珀、シリトン、ガーネット 複製されたダイアナ妃たちが 個々人のスクリーンのなかで 愛してる! と次々に叫ぶ 誰かの承認を得るために なにかを被るのはもうやめたいのに なぜかあなたは王子様風の 変なコスプレをしたままそこに立っている いつの間に あなたは映画のなかに行ってしまったの? ねえ、はやく帰ってきてよ ずっと寂しかったんだよ いつになったら 会いに来てくれるの? 目を開けると なぜかあなたが立っている あなたは燃えたマッチを持っていて それをゆっくりと 頭に被さっている 透明なヒジャブに近づけた わたしはもう 愛してるって言わないよ と宣言してみたら あなたは 口元に大きなえくぼを作って 君の物語、読むよ とだけ言って 頭近くにあったはずの火は またすこしづつ遠ざかり あなたは自分の手に持っていた 過去に書いた詩を めらめらと燃やしながら テレビの電源を ゆっくりと 切った
おとぎ話は、いつ始まって、誰が書いて、誰が演じて、そしてなぜ終わらないのか ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1631.2
お気に入り数: 1
投票数 : 2
ポイント数 : 44
作成日時 2021-09-17
コメント日時 2021-10-09
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 22 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 15 | 5 |
エンタメ | 2 | 2 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 4 | 4 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 44 | 14 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 5.5 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 3.8 | 2 |
エンタメ | 0.5 | 0 |
技巧 | 0.3 | 0 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 11 | 5.5 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
室町礼さん、こんにちは。 本当におっしゃるとおりで、シンデレラストーリーって終わりがないんですよね。 いつの間にかおとぎ話は生まれて、知らない間に目にしていて そうして無意識にシンデレラを演じているような気がするんです。 村社会は常に立場上の役割を演じることを求めてくるくせに、 その一方で個々人のアイデンティティやオリジナリティの大切さも求められますね。 なんだかひどく矛盾しているようで、わたしも自分の作品だと思っていたものが いつの間にか誰かが書いた現代詩風になっていたりします。 きっと、そうやってまたおとぎ話は続いてしまうんでしょう。 いつか自分が終わらせて、また別のおとぎ話を書きたいと思っているんですが、 そういう技量も才能も持ち合わせていないので、何だかがっかりしてしまいます。
0お伽話にとらわれる私たちの様子と,いざその物語のヴェールに気づいてしまった時の放浪感が的確に表現されているなあと思って読んでいました。 花や宝石の名が挿入されていますが,昔読んだシンデレラなど童話の絵本の装丁を思い出します。 よく学校で暗記をするとき語呂合わせで覚えたりしますが,人は物事を物語形式にしないと覚えられないからだそうで,ある程度人間の性なのでしょう。 この壁にぶつかったとき多くの人は演じやすい役どころに落ち着くか,頑張って主役を演じ切るかしているのでしょう。最終連で「あなた」は役を演じ切ることに決めて,袂を分かってしまったということでしょうか,それとも私の詩を読んでくれるというのが救いになるのか。ちょっとまだ消化しきれていません。 余談ですが,物語からの脱出には日々の偶然の出来事や今この時を意識することが有効かなと考えたことがあります。諸行無常とか禅に近いのかもしれません。とはいえこれも物語を乗り換えただけに終わることもあり,あるいは一瞬物語から脱出できても,結局は元の物語に自分がいることは変わらなかったりとうまくはいきませんでしたが。
1ささらさん、こんにちは。 >よく学校で暗記をするとき語呂合わせで覚えたりしますが,人は物事を物語形式にしないと覚えられないからだそうで,ある程度人間の性なのでしょう。 なるほど、確かに物語形式だと色々覚えやすい気がします。 >最終連で「あなた」は役を演じ切ることに決めて,袂を分かってしまったということでしょうか,それとも私の詩を読んでくれるというのが救いになるのか。ちょっとまだ消化しきれていません。 エンディングまで描いてしまうとこれもまたひとつの物語になるような気がして、そこはあんまり書きたくなかった部分かもしれません。 >物語からの脱出には日々の偶然の出来事や今この時を意識することが有効かなと考えたことがあります。 面白い発想ですね。確かに、頭のなかにある物語よりも、もっと外に目を向けて現実に注視する方法はひとつの手かもしれませんね。物語は物語でも、わたしは他人が書いた物語にいるのが嫌なんですよね。じゃあそこは自分が書いてみたとて、誰かが書いたものと似たり寄ったりで、そこでも書き手役になっていたりするので、確かにおっしゃる通り、元の物語に自分がいることは変わらなかったりしますね。笑 親切かつ丁寧に読んでいただいてありがとうございました。
0沙一さん、こんにちは。 お読みいただきありがとうございました。 ヒジャブに関しては、イランの女性たちがヒジャブを外して抗議デモをしていたことを受けて書きました。好きな服を着て、好きに生活したい。でも、いま自分が選んでる好きって本当に自分で選んでいるものなのか、ときどき不安になります。少なくとも、わたしがイランの女性だったらヒジャブを外して抗議はしませんね、ヘタレなので。
0投票期日まであとちょっと。私はこの作品に投票したいと思います。 話を語るように、そして主語や述語がたいてい明らかで、伝わるように書かれている作品。伝わるように書かれていると言っても、タイトルは深い問いになっているし、内容はなかなかに難しいです。おとぎ話、映画、物語、演技、インターネット、文章、文字、スクリーン、詩、テレビ、透明なヒジャブ、コスプレ、「わたし」をぎょろっと見てくる眼の幻想、そして作中の適切な位置に置かれて読者が読まないでは通れない植物や石の名前。私たち読者も話者の「わたし」と同じように、こういった夢幻的なものの中に陥るようです。そしてリアルなものごとを渇望するのですね。 >いつの間に >あなたは映画のなかに行ってしまったの? >ねえ、はやく帰ってきてよ >ずっと寂しかったんだよ >いつになったら >会いに来てくれるの? 私はこの箇所をこの作品のクライマックスだと思いました。現実を渇望してもかなわない私たちのうちの幾人かは、この箇所を読んで感動し、若干泣きそうになったのではないでしょうか。 少し心が弱くなってしまいますが、良いと思いました。
1yasu.naさん、こんにちは。 コメントくださってどうもありがとうございます。 そうですね、できれば誰でも簡単に読める作品がいいなと思っています。 おとぎ話って、だいたい女性が受け身だなあと思っていて。 白雪姫にしろ、シンデレラにしろ、男性が助けてくれるのを女性が待っている。 そういう物語を読んで育っているからか、いつの間にか男女平等となった今も、世の女性たちって男性が来るのを待ってしまっているような気がして。プロポーズもだいたい男性からですよね。 それって、物語がわたしたちを産んでいるんじゃないかと思うんです。 該当の箇所は、それでもわたしはあなたを待ってしまう、愚かな自分を認める部分でした。 わたしたちはわたしたちの物語をここから始めなければいけないし、 あたらしいわたしを産むためにはあたらしい物語が必要なんじゃないか、そんなことを思います。
1ヒジャブとは覆うものだそうで、この詩の中で、透明なヒジャブと言うフレーズが有り、不思議な感じがしました。
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