飲み屋で会った君はいつになく上機嫌で、隣の男と気軽にLINE交換なんてしてるけれど、家に帰ったらすぐにそいつと縁を切るってことを僕は知っている。SNSとネットのお陰で僕らは偉くなった分、孤独という名の化け物とお付き合いしなきゃいけなくてそれは結局、天狗とか鬼をなだめるのと大して変わらない悲運なんだ。僕らは狐火に弄ばれるいにしえ人と同類だ。
最近の君は沢山のツールと情報を集めて、一儲けしたりちょっとした名声を手に入れようとしているらしいね。ただそれは結局徒労に終わるよ。賢い猿が賢い道具を使ったとしても、それは所詮猿の行いに過ぎないんだ。人間には、届かない。もちろんこのご時世、人間なんてものが本当に存在するのかどうかも、怪しいものだけどね。
君の声が聴こえるよ。助けておくれ。寂しくて仕方ないってね。
僕が君に送れるメッセージと言えば、
月に兎が住んでると信じてた時代の方がよっぽど気楽で、
美しかった。
ってことくらいかな。
今日もニュースは正気を疑うようなものばかりだ。何、それも今に始まったことじゃない。石を持ったアウストラロピテクスが美味いモノ欲しさに、同じ猿人を殴り殺すなんてざらにあったことだろう。僕らは奇妙なほど嘘をつくのが平気になって、人を騙すのが快楽なんじゃないかとさえ疑ってしまうけれど、それもじき終わる。君の若く愛らしかったお母さんが、日を重ねるごとに年老いていってるのがその証拠だ。
名のある宗教学者が
「多くの人はお金がどこからどこへ移動したかを追って生涯を終える」
なんてのたまっていて僕も同感だね。本当に人間ってどうしてこうも下らないんだろう。かくいう僕も当たりもしない宝くじを買ったりする生き物なんだけど。
それはともかく、
幸か不幸か僕らは恐竜に踏み殺されもせず、戦で命を落とすこともなく、焼け野原で餓え死したりもせずに生き残った。けれどそれは大昔から続くつまらないゲームの結果の一つでしかなく、今度は自分が貧乏くじを引いたんじゃないかって思いこむほど切羽詰まってる。
君の声が聴こえる。こんなはずじゃなかったってね。後悔は百年前に与えておいてくれってね。
僕が君に伝えられることと言えば
天女がいつか手を差し伸べてくれると信じていた時代の方が、
よっぽと浪漫があって救いがあった。
ってことくらいかな。
ほら、今日もアラームが鳴って君を叩き起こす。目を覚まし顔を洗った君が鏡に映すのは、残念だけど、悲観なんて決してしたくないけれど、
猿から綿々と続いてきた化け物の影、だ。
作品データ
コメント数 : 7
P V 数 : 1515.5
お気に入り数: 1
投票数 : 2
ポイント数 : 4
作成日時 2021-09-10
コメント日時 2021-09-14
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 4 | 4 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 4 | 4 |
閲覧指数:1515.5
2024/11/21 23時34分59秒現在
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人間は醜い、とか、君は醜い猿の化け物だ、という厭世的認識を詩に書き連ねることに拍手が上がるのか、共感と悦びがあるのか、私には知り得ないことですが、たとえば真善美のような事象を追う方が学問や詩の王道で正しいような気がしています。お若い方なのかな、と感じました。
0湖湖さん、コメントありがとうございます。この詩は手紙を書き、手紙を書いては捨てた中から拾い上げた言葉の一断面という感じでしょうか。学問や詩の王道とは何ぞやということまで湖湖さんの気持ちが及んだのは良き事だったかなと思います。
0この作品のなかで真に迫って感じられたのは最後の >猿から綿々と続いてきた化け物の影 のところです(あくまで僕にはですが)。 このある種吐き捨てるような一文には、強い想いが感じられて。 この嫌気とも言える感情をもとに呪いの文章のような作品を作ってもいいと思うんですよ。 そういう作品は、ステレオさんは書かないようにも思うのですが。 あくまで一例としてです。 その呪いを通りこして光に向かってもいいですし、他の何かでもいい。 この最後の一文にここまで想いを感じるということは、ステレオさん自体、人間に対して嫌気があるのかなと考えたりします。 まあ、タイトルから内容までそうですね。 僕はそれはそれでいいと思うんですよ。 僕は僕で人間は滅んでも仕方ないと思っていたりしますし(滅んでほしいわけではないですけど)。 その強い嫌気を表現してもいいと思うし、それを昇華した上で書いてもいいとも思います。 現状では、軽いタッチが上滑りしてそれがあまり効果的ではないように思います。 ちょっと浅慮な印象を受けてしまいますね。 ステレオさんが人間は猿の化け物だと思っても、それはそれでいいと思います。 ただ、せっかくなら、その想いをもっと深堀りしてもいいのかなと思いました。
0トビラさん、コメントありがとうございます。僕は人間嫌いではないんですよ。人間が猿の化け物だったとしてそれはそれで別に構わないし、その表現自体が人間という枠の中から言ってることですからね。嫌気や嫌悪を昇華して深掘りした作品。読みたいですか?トビラさんは。僕は特別読みたくはないですね。この詩はむしろ人間に期待をしているからこそこのような形になったのだと思っていますし。トビラさんが浅慮というイメージを持たれたのはこの詩のベクトルがそもそも人間嫌悪の方に向いていないからだと思います。
0私も人間はたまたま生き残っただけだと思います。でも、どんどん孤独になっていますよね。共同体は死滅しかかっていて、いえ、もう死滅しているのかもしれませんが、寄り添うものは孤独のみ。 SNSとネットのお陰で僕らは偉くなった分、孤独という名の化け物とお付き合いしなきゃいけなくてそれは結局、天狗とか鬼をなだめるのと大して変わらない悲運なんだ。僕らは狐火に弄ばれるいにしえ人と同類だ。 と語り手が仰っている部分に共感します。 私はこの作品がとても好きです。 繰り返し言います。人間は今のところ、地球で頂点みたいに思ってる方が多いかもしれませんが、本当にそうでしょうか?疑問を持った事はありませんか? たぶん、ステレオさんはそんな事を考えられたのでしょう。 そういう視点を持ってらっしゃるステレオさん、私は素敵だと思います。
0きょこちさん、コメントありがとうございます。人間はたまたまというのは僕もほぼ同感です。人間が地球の頂点に君臨しているように見えるのも、たまたま僕ら人間が運がよかったからだと思っています。思想性の強い部分に共感しなおかつ素敵と言って貰えて嬉しいです。また次作でお会いしましょう。付け加えるならば知的に最も発達した生物が一番というのも幻想かもしれないですね。
0沙一さん、コメントありがとうございます。この詩と前作の「さよなら・桜」。是非沙一さんに読んでいただきたかったんですよね。思想性と幻想性の調和。思想が前に出すぎている詩は僕も限りなくNGなんですが、この詩に持たせた幻想性は思想性を緩和し、読み心地の良さにも繋がったとかなり満足しています。天狗や鬼、に月には兎。とても気に入っています。
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