フィラデルフィアの夜に XXⅥ - B-REVIEW
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フィラデルフィアの夜に XXⅥ    

フィラデルフィアの夜に、針金が飛翔します。  夜、街中は人通りが絶えない。 でも歩くその一人一人を注意深く見守り、観察する人はいません。 その人に、気が付く人もまたいませんでした。  真夜中の暗い路地から、昼の様に明るい照明の下にその人は出てきます。 自然に歩き、普通の顔の、そのような訳がない人がです。 歩き、歩きます。 不自然がでないように。誰にも怪しまれないように。 現に、今行きかう誰もが、その人を見ない。 歩き、歩きます。 街一番の照明がある場所へ。 壊れた太陽があるそこへ。  作られたばかりの大きな街灯が突如壊れ、それは焼き尽くす様に、夜の街に照ります。 大きな人の波の洪水を、一人怪しまれてこなかったその人だけが向かっていくのです。 膨大な光から逃げ去ろうとした何人かは、気づきました。 歩き続けるその人から、男か女かもわからない歩きを止めない誰かから、その体から蟲が飛び立ち続けているのを。  炎のような熱い光。 それに向かって、蟲が羽ばたきを始めた。 群衆の叫び声に、蟲の羽音が入り混じり、ついに街は蟲の気配に覆われる。  ようやく全ての人々が気づいた。 街中で歩き続けていたその人が人間でないことを。  次々に飛び続け、光へ飛び込み続ける。その人の体は、蟲たちでできあがっていた。 そんな蟲たちは、明らかに無機質で誰かが作り上げた物。 様々なガラクタが、ゴミが、針金で武骨に巻かれ、緻密な羽を持って夜空を飛翔する。  暴力的な光に向かって。  暴れるような光に向かって、闇から現れた誰かが作り上げた蟲たちが襲いかかる。 方々の穴から、陰からもゴミからできた蟲たちが出現し、太陽へ向かっていく。 焼かれ、焦げ落ちた悪臭も漂うも、濁流のように蟲たちが向かっていく。  空が白くなり始めます。 本物の太陽が姿を現す頃。 ようやく壊れた光は収まりました。 蟲たちの形を留めない死骸が散乱する、惨状が現れます。 そして改めて蟲たちを見ると、間違いなく誰かが作った何かでした。  あの壊れた街灯に通う電気を切っても、光は止む事がなかったと言います。 最新式で壊れるはずがないのに。 焼け落ちた蟲たちは廃棄物として処理されるも、その総重量は数十トンにも及び、そんな蟲をこの街の誰かが作り上げ、この街のどこかに隠していた事になりました。 何より、最初現れた街中を歩くあの人。 蟲たちがなぜ、人の形をとったのか。 誰にも、何もわからなかったのです。  ただ、あの蟲のうちのいくつかが、“美しい物”として、また街を護った英雄として、飾られているのでした。


フィラデルフィアの夜に XXⅥ ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 1
P V 数 : 936.1
お気に入り数: 0
投票数   : 1
ポイント数 : 3

作成日時 2021-09-03
コメント日時 2021-09-04
#現代詩
項目全期間(2025/04/14現在)投稿後10日間
叙情性11
前衛性00
可読性00
エンタメ00
技巧11
音韻00
構成11
総合ポイント33
 平均値  中央値 
叙情性11
前衛性00
可読性00
 エンタメ00
技巧11
音韻00
構成11
総合33
閲覧指数:936.1
2025/04/14 11時57分54秒現在
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    作品に書かれた推薦文

フィラデルフィアの夜に XXⅥ コメントセクション

コメント数(1)
羽田恭
さんへ
(2021-09-04)

>歩き、歩きます。 この箇所は普通歩くはずのない存在が、違和感なく歩いている感じを出そうとしてこうしました。 独特の文体を維持しているのが、フィラデルフィアシリーズ独自の世界を形作るのに成功しているようです。

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