答案を白紙で出したことがありますか?
僕はある
僕は幾度か試験の答案に何一つ記さず提出したことがある
先生をばかにしたのでもなく
学問をばかにしたのでもなく
ただ僕の頭が空だったのが映ったのだ
またもこの空が僕の頭を占める
そしてそれは僕に言うようだ
もはや自然のものたちは、
言葉にして歌い上げるに値しないと
人間の価値について考えることも
勢いのない廃れた夢のように感じる
なのに外に出てみれば何だろう、
この巷間の賑わいは?
みんなは何のことを話しているのだろう?
そして何を考えるために時折黙るのだろう?
みんなが求めているのは快楽だけであるように感じられる
確かに都市には何でもあって
心地良い自由への近道が敷かれている
騒々しさと、そして静けさとが、
ある時には反発し合い、
ある時には同じものであるかのように溶け合い、
でも両者とも水のように世界を濡らしている
僕らも濡れて、不気味に蠢動している
今からどう頑張って、何が変わるというのだ?
簡単な思想でものを言うことはたやすく、
難解な思想でものを言うことは難しい
言葉の大切な役である描写やイメージや譬喩は
実に頼りなく、
完成しているかと思えば
一瞬のうちに意味の通路を閉鎖してしまう
結び合っていたはずのものたちが
分かれていたはずのものたちが
少しの間もとどまらない
誰もが如何様にも書けるということ
僕らは本当の詩を書けているだろうか?
僕らは動かないものから遠ざかっていないだろうか?
それはたとえば僕ら日本人の心に眠る
太平洋と日本海
愛してもいる
太平洋と日本海
白紙の上にただ書きたい
太平洋と日本海
と
作品データ
コメント数 : 11
P V 数 : 1505.3
お気に入り数: 3
投票数 : 1
ポイント数 : 6
作成日時 2021-08-26
コメント日時 2021-09-01
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 4 | 4 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1 | 1 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 6 | 6 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0.5 | 0.5 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0.5 | 0.5 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 3 | 3 |
閲覧指数:1505.3
2024/11/21 22時54分13秒現在
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Yasu.na様 こんばんは。 >僕らは本当の詩を書けているだろうか? >僕らは動かないものから遠ざかっていないだろうか? 何度も読み、このフレーズで、私はようやく筆者様の、詩人としての創造への葛藤を思い知りました! 「井戸」を読んだ時もそうでしたが、詩に、言葉に、常に真摯に向き合う筆者様の姿に心打たれます。
0この作品は、6連44行で構成されているわけですが、 そのなかで、明らかに他のセンテンスと違う光を放っている行が1行だけあると感じました。 恐らく、それがこの作品の幹にあたるのだと思います。 ただ、その幹は細くて、ひょろひょろしていて、いっけん頼りなく見えるので、 6連44行という枝葉をたくわえさせた、 そういう作品に見えました。
0お読み下さりありがとうございます。 「本当の詩」とは、今作の中では、「動かないものから遠ざかっていない詩」であると想定してみました。実際、読まれた方は、そう読み取られたことと思います。 しかし、創作とは、新しいもの、新しい記号現象を生み出すことですね。 私が、動かない「太平洋と日本海」のことを書いたら、もうそれで新しい表現が生まれてしまっているわけです。動いてしまっているわけです。 動かないものへの憧憬からも、動くものが生まれてしまう、そういう創作上の葛藤が今作のテーマです。 ところでYUMENOKENZIさんの「YUMENOKENZI」という名前は良いですね。この名付けもまたすぐれた創作、記号現象だと思います。
1お読み下さりありがとうございます。 1行ですか、どれでしょう。 この作は「太平洋と日本海」という、たったそれだけの結びを目指して書いたものなのですが。 しかしこの短い言葉の背後には、「動かないもの」と「動くもの」をめぐる私の引っ掛かりがあったことは確かです。また、「答案を白紙で出したことがありますか?」という書き出しも外せませんでした。この作の詩想はそうして膨らみました。 実地に書くと、このように枝葉をたくわえさせたようになりました。 詩を破綻させずに長く書くことは大変なことで、接続詞を付けたり解除したりと、苦労しました。 言葉をオリジナルに定着させることも大変で、「誰もが如何様にも書けるということ」から「これしかない」という状況に落とし込むには、また苦労するものです。
1お読み下さりありがとうございます。 書き出しの1行は、私としては全体を傷つけても外せなかったものです。幸いにして、支障は無かったようで良かったです。ただ、同じ書き出しで別の作品がまた出来上がるかもしれないという可能性はありますね。 後半、あらゆる創造行為を詩に代表させてしまいましたが、詩の世界が自分の土俵であることと、やはり言語というものがさまざまな創造行為の根本にあると考えられるのがその理由です。
0yasu.na様 おはようございます。 ああ、そうだったのですね! 「太平洋と日本海」が、動かないものだとわかったのですが、筆者が詩の最終章に至って、その憧れを白紙に書き入れた瞬間に創造した... まさに動かない「太平洋と日本海」に背いて。 してやったりの、詩人の歓喜の表情を垣間見た気がしました! うーん ... ダヴィンチコードを解くような味わいで、とても楽しいです! 「YUMENOKENZI」もまた記号現象と ... yasu.na様にこれを良いと言っていただけ光栄です! コメントに、このように丁寧にご返信くださり、とてもうれしかったです。 ありがとうございました!
1「僕らは本当の詩を書けているだろうか?」 が私にとって、他のセンテンスとは違う色をして見えたのですが、 それは自分の抱える葛藤だからだと思います よく考えもせず、自分の葛藤をyasu.naさんにダブらせてしまい、 わかったようなコメントを書いてしまいました。 大変失礼いたしました。
1自分の思い出で恐縮ですが、数学の試験でやったことがあるような、白紙の答案。しかも業者テストだったような。創造に背いてと言うタイトルも象徴的ですね。イロニーとして解釈して欲しいと言う意図ではないと思います。最後の連の太平洋と日本海。白紙の上に。不動の海。創造の源と対峙していると思いました。
0コメントありがとうございます。そうですか、白紙答案の経験がおありですか。それをする基因は個々人でいろいろあるとは思います。 不動の太平洋と日本海、いったんはそれを書きつけて、表現しないと読者の頭に思い浮かべさせることはできない。しばらくの間は太平洋と日本海は不動のまま読者の心にとどまることでしょう。その後、時間が経つと、表現されてしまった事柄は解釈されるという過程に入っていくと思われます。 不動である瞬間を、段階を、味わって明記して下さったことをうれしく思います。
0いえいえ、これだけの量を書けば、どこかしら人それぞれ印象づけられる部位も異なるものだと思います。何も読むべき箇所がなかったのではなく、1行気になるセンテンスがあったということをうれしく思います。
1冒頭の詩句が印象的でした。
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