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勿忘の地図
あのノートを亡くしてしまった。こんな夜の備忘録だった。あんな揺蕩うパレットが栞だった。月と描いた処女なんだ。一人の、国語教師の男と。半人の、高校生が居て。会って、揺れて、帰って、それだけ。きっと彼らも私のように、湯舟を漕いだ。私と、一人と、半人。嚙み合わない体液のクロマトグラフィ。そのまま、パレットに漏らしたかった。一滴も無駄にはできなかった。だから、そのまま、濡らした髪のまま、シーツを塗った。そうして、はじめて、あのノートに描くことができた。彼には桜の木に首を吊って自殺してもらった、男は教師を辞めた、それだけ。私は部屋の窓を開けて、真夜中の屋根を踏んだ、もちろん、ノートは左手にあった。凪いだ電線を躱して、孤独を掴んだ。そのまま、彗星たちの黄色い合唱は聞こえなかった。屋根にシーツを呼んで、掴んだままのそれは、筆になって。そうして、また、あのノートに描くことができた。まだ、大丈夫なはずなのに。そのまま、筆を嘗めまわしながら横たわり。目覚めると、勃った胸は横臥褶曲。栞はダニになっていた。もちろん、あのノートは、朝日に強姦されて死んだ。それだけ。それだけの逃避。
勿忘の地図 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1188.9
お気に入り数: 1
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2021-08-03
コメント日時 2021-08-15
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
「勿忘」「クロマトグラフィ」「躱して」「横臥褶曲」と言った単語はなかなか日常生活の中で見ないもので、意味を調べてみました。そうした見慣れない単語に、どうしても目がいってしまうものですが、どういったことが書かれているのかと。 それは単に、「あのノートを亡くしてしまった」ということ。そして、それはどんなノートであるのかと、筆になったシーツで何かが描かれているということ。その何かは明確に示されていません。それでも、出来事の連関がスムーズで、「体液」「濡らした髪」「シーツを塗った」と、そうか、描くためには、水分/油分といったものがなければできないのだと。この「ぬらす」を「濡らす」と「塗らす」で使い分けているあたりもミソになっているのでしょう。味噌もまた何かを描ける道具になりうるでしょうか、なんて。 ところで、この語り手の「私」は「国語教師の男」と「高校生」の「彼ら」とどういった関係にあるのかと。彼ら二人に干渉/作用することなく、ただノートに描いているだけであります。「国語教師」には「男」と性を特定する表現が付されてますが、「高校生」の性は何でしょう。それでも、後に「彼には桜の木に首を吊って自殺してもらった」とあるので、きっと「男」なのでしょう。それにしても、「自殺してもらった」というのは、まるで「他殺」であるかのような表現ですが、きっとノートの中の出来事。 最後、「あのノートは、朝日に強姦されて死んだ」とあるのですが、ノートに描くことができるのは、水分/油分があるからということと結びつければ、朝日に照らされて、そうしたものが蒸発してしまって、描いたものが吹き飛んでしまったという流れを思い浮かべました。「亡くしてしまった」から「それだけの逃避」と結ばれるのですが、それでも、こうして作品として一つのなった以上、これらの出来事自体は亡くならないのだろうと。
1なかたつ様、こんにちは。 素敵なコメント、ご精読、ありがとうございます。この詩は、私が人生で初めて書いた小説が載るノートを失くしてしまったことについて詠んだものです。絵の具のような表現は、挿絵についてのものです。私の意図を読解してくださってうれしいですし、他の解釈もしていただき、私の世界も広がりました。
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