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渡り鳥
潮風が苦手なきみは海岸通りのこの街を離れてランウェイを歩く職業に転身すると言うきっとどんな理由であってもきみの気持ちを表せないと考えてそんなことを言うのだろうまだ就職もしていないのにと首をかしげながらよくよく話を聞くとだから卒業後第一歩として専門学校でファッションデザイナーになる勉強をするともっともらしいことを言うそれならぼくはきみを追って職業としてはいわば渡り鳥になることもできるはず一度に数百㎞を飛ぶ鳥でなくてもきみの処とここを自由に行き来できればなんて考えたりもしている足環にGPSを付けなくてもスマホがあればきみはいつでもぼくがどこにいるかを見つけて新しい生活のよもやま話をしたり友人代表みたいな顔をして地元の子らの近況報告に喜んで耳を傾けるだろう。 歯磨きしながらでも詩は書けるのでしょうぼくが何かの折に言った言葉を覚えていて渡り鳥になかなかなれないぼくに向かってきみは残りの日にちを指折り数えながら微笑むまだ若いのに無精ひげを伸ばしているぼくは群れを去っていく雄ライオンの気持ちで群れを離れる痛みよりもやり遂げたことを誇れる自分になりたいのかも知れないきみは憧れの場所へ行く前にお気に入りのヘアサロンで過激なツーブロックの刈り上げを終えて変わっていく時間を前にワンショット撮影をぼくに頼んだ。 同級生のきみとぼくは付き合う前も別れたとしても別れた後でも同じクラスで一年間を過ごしたという消すことのできない紛れもない過去がある訳で学校の裏庭に埋めたまままだ掘り返されていないクラスのタイムカプセルさえある間柄だがきみは質問してもいいかなといつも古風なシャーロック・ホームズ風にぼくの顔を覗きながらぼくに尋ねてくる今夜もややキツイ質問がきた明日はきみの旅たちの日なのでぼくはどんな質問にも答えようと思っているお母さんは生きていた頃何かピアノ曲を弾いてくれてたのぼくは小さく息を吐いて交通事故で亡くなった母の顔を思い浮かべるいろいろと自分の好きな曲を弾いてくれていたよクラシックが多かったけどショパンかなきみはピアノの横の本棚から楽譜を見つけて最初に革命のエチュード次に別れの曲を弾いた人が大勢いる広場と次に森の中に道が見えて微かに寂しさが忍び寄って来る気配を感じたなぜそんな場面を思い浮かべるのか自分でも分からないがただショパンのこの二曲を日本語で練習曲などとは決して呼びたくない。 翌朝新幹線の駅できみの顔を見つめてぼくは元気でねまた連絡すると言ったきみは世界が始まるかのような笑顔で元気でね渡り鳥さんと応えた昨日きみの弾いたショパンはきみ自身への贈り物だったのだとその時分かったぼくはこれからどうするのだろう渡り鳥になってきみのもとへといつになったら行けるのだろうきみと別れて駅を出て海の方へ足を向けたただきみとの別れはショパンほど寂しくはなかったぼくはまだやり残していることがたくさんあるように感じている。
渡り鳥 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1584.5
お気に入り数: 1
投票数 : 2
ポイント数 : 0
作成日時 2021-06-17
コメント日時 2021-06-26
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 0 | 0 |
平均値 | 中央値 | |
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叙情性 | 0 | 0 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 0 | 0 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 0 | 0 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
こんにちは。きみとぼくの心持ちなどの違い、特に、 >きみは世界が始まるかのような笑顔 ってところに、ハッとさせられました。
0こんにちは。 読点を使わない実験的?な詩だと思いました。読点がなくてもスラスラと脳内に入ってくるのは、読ませる力のある詩だなと。
0句読点がまったくないせいなのか、なぜかJラップ調で脳内再生されてしまう不思議。
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