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涙に溺れて
一週間前の大雨の夕方。 私は貴方と別れました。 貴方はもう、私のことなんて覚えてないんでしょうね。 最後の言葉は覚えていません。 あの夜に流した涙の中で、その言葉だけが溺れていきました。 その日、私は二度溺れました。 目には見えないけど、真っ赤に染まった涙で。 バケツをひっくり返したような、ありったけの雨で。 切なさと、やりきれない気持ちと。 とにかく傷つきました。 こんな姿、誰にも見られたくない。 傘も差さずに近所の公園まで走り、 私は緑の中で、ずっと蹲っていました。 今思えば、普通に家に帰ったらよかったかもしれない。 でも、帰れるような気分じゃなかった。 親と鉢合わせしたらどうしよう。 ずぶ濡れになった制服を、どう説明しようか。 失恋した、なんて、口が裂けても言えない。 私は日が暮れてから、 バレないよう、こっそり家に帰りました。 たぶん、濡れた運動靴が私の存在を察知してくれたはずです。 あの夜、私は制服のままで泣いていました。 シャワーも浴びず、真っ暗な中、仰向けに寝転んでいました。 セーラー服のスカーフが月明かりに反射して、美しく輝いていました。 その美しい様を見ていると、また涙が止まらなくなりました。 こんな自分が情けない。つらい。死んでしまいたい。 そんな想いすら、胸の中に湧き上がってきました。 もう、胸が張り裂けそうでした。 枯れない涙は、限界なく流れ続けます。 濡れた生地に、また水滴が染み込んでいく。 私の青春を返してください。 私の時間を返してください。 私の想いを返してください。 一晩中、私は泣いていました。 貴方からすると、小さな恋かもしれません。 でも、私からすると、大きな恋なのです。 そう言っても、わかってくれませんよね。 貴方の好みに合わせて伸ばした、長い髪。 切りません。 切ると、貴方への敗北宣言になってしまうから。 少しは恋が似合う女になる。 それから、もう一度貴方に恋をしたい。 踏みにじられてもいい。片想いでもいい。 どんなことをされてもいい。ピエロにしてくれてもいい。 バケツの水を被ってもいい。縄で縛られてもいい。 貴方のために泣きたい。貴方のために笑いたい。 結局、私は何も変わっていませんでした。 私は貴方を忘れられませんでした。 泣いて、泣いて、泣いて、それでも立ち直れません。 今の私は、涙に溺れています。 窓の外を見ると、少しずつ夜が明けていくのが見えました。 もう、泣ける力は残っていませんでした。 結局、私は自分に溺れていたのです。 自分に溺れて、どこかの主人公気取りになっていたのです。 朝日が昇った後、私はいつも通り学校へ行きました。 いつも通り、友達と話しました。 いつも通り、授業を受けました。 貴方は違う子と付き合っていました。 あの涙に溺れた夜を、私は一生忘れないと思います。 雨でずぶ濡れになったまま、泣き明かした夜を。 涙に溺れて、自分を見失った夜を。 コイハアマリニザンコクダ。
涙に溺れて ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 928.6
お気に入り数: 0
投票数 : 0
ポイント数 : 0
作成日時 2017-09-27
コメント日時 2017-09-29
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
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※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
純愛主義者がストーカーと訴えられてしまう現代にあって、土砂降りの雨のなか、愛おしい相手の部屋を前にしてずぶ濡れで立っている女子や男子をリアルに実感出来る若者が今、いるのだろうかと、本作を読んで思った。自慢ではないが、私は小学生の時と高校生の時と社会に出たばかりの頃に体験したことがあって。いや、、ずぶ濡れになった経験でなく、ずぶ濡れにさせた経験である。ちなみに、それらはすべて、一言も話かけることはなく終わった。私も純愛主義者であるのだが、純愛主義者が純愛をマジマジとみせられると腹立たしいのだ。なぜだか。本作の語り手と同じように、きっと、ずぶ濡れになっていた彼女たちも自分自身に怒りを覚えているはずだ。一生涯。純愛主義者とは、そういうことだ。
0まっすぐな思い・・・。そこに鮮烈に挿入される、赤と緑のイメージ。 このイメージを大切に守っていてください。 いつか、思いがけない形で、まったく別の(魂が叫ぶような)詩へと生まれ変わるかもしれません。 題名、涙に溺れる、は、そのまま内容を事前に示してしまっているので・・・〈ありったけの雨で〉溺れた、ここを題名にしてはいかがでしょうか。 雨に溺れて え?どういうこと?という導入につながるような気がしました。
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