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心地よい絶望
人生って上手くいかない。いまだって、自由に遊びに行くことさえはばかられる。ふつう、こんな時こそ不自由な毎日のなかに塵のように光る希望や幸せを見つけて安堵したいものだ。 だけど実際、人生なんて上手くいかない。終わりの無い不安は終わりが無いことに不安があるのだ。その道中に花が咲いてようが、蝶が飛んでようが、終わりが無いことには変わりはない。私たちは危うく花や蝶に誤魔化されそうになる。しかし花や蝶が誤魔化しでしかないことに分かっていながらわざとらしく感動する。夢くらい、見たっていいじゃないか。だから終わりの無い不安はちょっと置いておいて雨が止んだことに感動する。花が咲いていることに感動する。蝶が飛んでいることに感動する。 この作品は、「終わりの無い不安」が「終わりの無いことが不安である」ということを肯定してくれる。蝶や花には誤魔化さなれない。 #1の「後、八人…」のうんざり感は実にリアルだ。 #3のラストも、扉が開いたあとは広い世界、解放を期待するものだ。だが、そうでは無い。最も最悪の続きだ。 #9は不条理をゆるい口調と軽快な会話でテンポ良く読ませる。 その他も希望フラグがあれば折り、悪状況は悪状況のままで終わる。しかし明確なバッドエンドが描かれている訳でもない。 人生ってこうだったじゃないか。 この作品は、絶望のなかに無理に希望を見出さなくても良いんだと、上手くいかない人生に否定せず寄り添ってくれる。 私も本来であれば断然ハッピーエンド派だ。せめてファンタジーくらい、スカッと爽やかな方がいい。しかし、この頃はもしかすると「どうせハッピーエンド」に飽きていたのかもしれない。 こんな風に絶望が優しく作用することもあるのだ。 追伸 タイトルについては、作品コメント欄で鳴海幸子さんが触れているので、合わせて読んでいただきたい。(私は恥ずかしながら、タイトルについては全く気づいていなかった)
心地よい絶望 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1549.8
お気に入り数: 1
投票数 : 1
作成日時 2021-06-09
コメント日時 2021-06-15
批評対象作品もいいなあと思いながら、こちらの批評文もすごく魅力的です。私はどちらかといえば、冷静な読解よりもその読者が感受したところから立ち上がってくるエモーショナルな批評のが好きで、本文はまさにそれでした。 杜琴乃さんの作品にコメントするの2017年から約4年ぶりかもしれません。お久しぶりです。みうらです。
0私はこの作品一回は読んだことが有るのですが、ふと吉岡実の「僧侶」、まあほんのちょっと感じられただけですが、「僧侶」テイスト、そして幕末の神戸事件とか、腸まで引きずり出すような大袈裟な切腹に後続への中止のお達し。切腹の中止など。#1の印象からですが。#2はいじめであろうか。いじめで有ると思うにはあまりに本格的と言うか握ると必ず人を殺すナイフ。#3はエレベーターの話でシュールな感じ、SF的なワールドだろうかと思いました。
0みうらさんお久しぶりです。嬉しいコメントを有難うございます!
0エイクピアさんありがとうございます。「握ると必ず人を殺すナイフ」って異常なようで、正当な気もする不思議な印象を受けました。吉岡実の「僧侶」を読んだ時のぐるぐる感と同じぐるぐる感があるのかもと思いました。
0いいんじゃないでしょうか。
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