風の音で目を醒ました。カーテンをつけていない私の部屋には南のベランダから強い月明かりがさし込んでいた。
五時間程度の睡眠で事足りる私は、日付が変わる前に寝てしまうと変な時間にしゃきっと起きてしまうのだ。
梅雨を目前にする初夏の夜空は一欠片の雲もない深い青色で、月と星が煌々と眩しい。しかし夜空と呼ぶには青すぎるその色合いに、夜明けが決して遠い未来でないことを知る。
また風が吹いた。ベランダに立つ私の髪を乱す程の風は、ヒューと吹いては静まり、静まってはまたヒューと吹く。
台所の棚からジガーカップとテイスティンググラス、そして残り少なくなったベンロマックを取り出し、二十ミリリットルをグラスに注ぐ。ベランダに戻る途中ジタンを掴み取って火をつけた。
メロウなポップソングが流れる、生命線の長さも分かるくらい明るい初夏の夜。ベンロマックと月を見比べ覚醒しきった頭で考える。
十年前、同じような夜を何度も過ごした覚えはあるが、こんな風に穏やかな心で時間が過ぎた記憶はない。淋しさと虚しさに支配され、酒と煙草はひたすら浪費されてばかりだった。
あの頃の私を支えてあげられるなら、どんなセリフで語りかけようかと思う。考えを巡らせてはみたけれど、あの頃の私なら誰からの救いの手も払い除けただろうと悟り、諦めて月を見上げてみた。
そんなことを書き綴っているうちに、隣家の瓦も一枚一枚見分けられる明るさになっていた。
夜明けだ。
あの頃の私へなにかを言い残せるのなら、こんな言葉で充分な気がする。
「それでいい」
「嫌でも夜は明ける」
今日も今日とて仕事だ。
二時間ばかりでも眠りにつこう。
作品データ
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作成日時 2021-06-09
コメント日時 2021-06-09
#縦書き
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2024/11/21 23時34分51秒現在
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片仮名の名詞とのバランスが心地よい品のあるライティング作品と思います。全体的には宵(酔)の雰囲気に包まれた静謐な空気を感じさせました。 手のひらの生命線がふっと下からのライティングにより浮かび上がるような記述も良いと思いました。
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