雨が好きで
そのことを誰にも言いたくなくて
ぼくの青春は始まった。
きみは美しい曲線の意味を教えてくれたし
頼りなげな微笑みといっしょに
裏切りに隠された
すばらしさと狡さを
舌先で重ねてくるめる術を 教えてくれた。
ぼくは猫の一生を語れる自信がある。
街角を 移動し始めた象の
長老に尋ねてはいけない。
それは人の賞賛に頼らない集団の
羅針盤が指示した方位への旅なのだから
さようなら
別れは いつだってある。
海はまだ遥かに遠い物語 だから
象の赤ちゃんだって泣きはしない。
海の方角に軽く会釈をして
街角の自販機で缶コーヒーを買って来る
きみに届けよこの愛。
今日の仕事に出かけるぼくは
占いなんか信じない。
突然降り始めた雨と雷鳴が
ぼくを立ちどまらせる。
何度も見上げたことのある空を
幾分 自分の分身を眺めるように
昨日の出来事を思い起こす。
見なければ良かったことは
咲き誇る前のアジサイの花の美しさ
見なければ良かったきみの涙。
ぼくはいつだって交差点の横断歩道を
急ぎ足で渡ってしまう。
交差点の向こう側に
置き去りにした浅い眠りと喝采の数だけ
幸せになれるのか
疑問を重ねても
ぼく専用のピタゴラスの定理の公式なんかない。
ましてや二つの焦点が重なった楕円形など
もともとありはしない。
百貨店の靴売り場への近道は
人々の知恵と照明の明るさが
指し示している。
いわば 時間と影と
山に消えていった神の使いによる
謎解きに似て一日では終わらない。
嘆くことなく哀しむことなく
いまこの目の前の大理石の階段を
きみは進んでいけばいい。
外は土砂降りでもここはしばし
休息の歌声が聞こえる時がある。
耳をすませば渓流に棲む鳥たちの夢を
感じることだってできる。
引き返せないことや
呼吸できないほどの蔑みが
きみに投げられても
人の手の温かみが犠牲になって
きみの美しい毛並みを
守ってくれることもある。
数えるほどしか人影が見えない
薄暗がりのミニシアターで
映画に登場する
離れ小島を旅している若者たちに
思わず共感の鼓動を
叫びだしそうになってきみは
ぼくに猫の鳴き声で 耳元で
愛を囁く。
今は 六月 きみは
六月の猫。
作品データ
コメント数 : 3
P V 数 : 1491.0
お気に入り数: 0
投票数 : 2
ポイント数 : 6
作成日時 2021-06-05
コメント日時 2021-06-08
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合ポイント | 6 | 6 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 2 | 2 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 2 | 2 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 1 | 1 |
総合 | 6 | 6 |
閲覧指数:1491.0
2024/11/21 22時37分29秒現在
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まず、適度に長く書かれてあって、うれしかったです。印刷して読みました。どこかしら独得な文体ですね。新しいものに触れた気がします。 第一連からは、十代の性愛の香りを嗅ぎました。 他の連については、解釈がうまくいかず、悩みましたが、印象としてはやはり特異でおもしろいなと感じました。長い時間手放せないで読ませようとする力のこもった詩だと感じました。終わり方などは、熟練した人の記述だと思いました。大ざっぱな感想で申し訳ないのだけれども、それでも票を入れたくなる良作です。しばらく眺めていようと思います。
1詩的韜晦が無く素直な詩的比喩だと思いました。ぼく専用のピタゴラスの定理の公式なんてないとか呼吸できないほどの蔑みとか「置き去りにした浅い眠りと喝采の数だけ幸せになれるのか」など素直な、自分の知って居る事に素直な表現、比喩だと思いました。
0猫いいですね、なにがいいってその存在感、後本気で走ったときの足の速さ詩の中に出てくる「猫」もとても魅力があると思います。
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