吐息 - B-REVIEW
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ことば

ことばという幻想

純粋な疑問が織りなす美しさ。答えを探す途中に見た景色。

花骸

大人用おむつの中で

すごい

これ好きです 世界はどう終わっていくのだろうという現代の不安感を感じます。



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吐息    

漠然とした寂寞の中に息をしている。 身を刺す空気が酷く恋しく、連なる山々でさえこの季節であれば青い葉を見せ始めて居ると言うのに、ひとり私の肺は冬に取り残されたまま、酸素を欲しがって喘鳴を吐くのだった。中々に浅ましい肺である。ナンダコイツハ、と他人事の様に脳の隅で考えながら小突いたら、咳が出た。当然だ。この肺は紛れもなく私自身の物であるから。然しなんだか理不尽なような気がして、もう一度小突いてやろうかと考えて、やめる。私という自己意識は私の肺という概念よりも、えらいのだから、譲ってやろうという考えだ。これは道理に適っている。我ながら良い。 肺を捨て置いた後ではあるが、この次に目が厄介だった。隧道を抜けども雪国は広がらない、霜は菊と見紛わないし、梅は雪と違えない。先刻僅かに晴れた気分がまた曇り出すのをどうにか押さえようと今度は目を瞑ってみた。すると今度は鼻腔をペトリコオルが擽る。石のエッセンスだとかいうそれを私は案外好んでいて、死ぬ時はどうにかこの匂いと一しよになって焼かれたいと思うのだが、とにかくそんな匂いがした。暫く其の儘で居て、ほつりと雨垂れの頬へ落ちるのを感じて、雨声の輪郭を撫ぜて、木々の揺れに耳を済ました所で漸く私は今日初めて気づきを得ることになる。何かと言うと、雨はほとばしる物であって、そしてまたそれは冬の風に似ている、という事である。私はウン年も生きてきて初めて雨がほとばしるものであると知った。そしてその事は私の冬への恋慕をはつかに満たしてくれるものであったのだった。



吐息 ポイントセクション

作品データ

コメント数 : 2
P V 数 : 1001.3
お気に入り数: 1
投票数   : 0
ポイント数 : 1

作成日時 2021-05-24
コメント日時 2021-05-25
#現代詩 #縦書き
項目全期間(2025/04/09現在)投稿後10日間
叙情性11
前衛性00
可読性00
エンタメ00
技巧00
音韻00
構成00
総合ポイント11
 平均値  中央値 
叙情性11
前衛性00
可読性00
 エンタメ00
技巧00
音韻00
構成00
総合11
閲覧指数:1001.3
2025/04/09 15時36分13秒現在
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    作品に書かれた推薦文

吐息 コメントセクション

コメント数(2)
Thukiniko
Thukiniko
作品へ
(2021-05-25)

雪国の人間でなければ、雪国の冬の尊い感覚はわからないだろうけど、それを雪国以外の人に伝え、表現するのは難しいと思っています。 雨への感覚の ▷ 雨はほとばしる物であって、そしてまたそれは冬の風に似ている という表現もわかる感じがします。 季節を敏感に表現されている作品ですね。

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Thukiniko
Thukiniko
作品へ
(2021-05-25)

雪国の人間でなければ、雪国の冬の尊い感覚はわからないだろうけど、それを雪国以外の人に伝え、表現するのは難しいと思っています。 雨への感覚の ▷ 雨はほとばしる物であって、そしてまたそれは冬の風に似ている という表現もわかる感じがします。 季節を敏感に表現されている作品ですね。

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投稿作品数: 2