暗がりの美術館へ
模造の蜘蛛の巣をはりつけた美術館
研究室をモチーフとした場所へ
少年は足を踏み入れる
ピアノの鍵盤の上には卵が配列され
Dinosaurの化石は頭蓋だけがもぎ取られ
野放図に地べたに放り投げられている
すぐ隣を香気を漂わせながら横切ったのは
アジア系の美女
彼女の黒髪は一本一本の線が合わさると
なだらかな波となり
色艶のある光沢を放つ
放置された骨格標本の骸骨は
頬に手をあてがい 目は空洞のまま
灰色の雲が浮かぶ窓の外を見つめている
「1999年より 僕はこれだけの苦しみと痛みを見てきた
歓びも愉悦もあったが僕は即身仏の苦悩が分かると言っても
自惚れではない」
アーティストステートメントが
斜めに傾き錆びついた看板に記されている
看板を押しのけて美術館の出口に近づくと
ゴッホのひまわりと
構図をそのままにして
ゴッホが描いたような筆致ではなく
写実的に ごく写実的に描いた絵画が立てかけられている
認知にゆがみのない視点
苦悩と煩悶の遠のいた視座がそこにはあった
世俗の醜さを知りつくした少年が
世界はこんなに美しかったのかと
そう口にする日も遠くはない
美術館を出た少年が仰ぎ見た空には
灰色の雲が過ぎ去り青が目を覚まそうとしている
後日筆者である私に叔父の妻から夫が自死したとの知らせが届いた
彼女は「ひょっとしてあなた主人が羨ましいんじゃない?」と書き添えていた
叔父はこの展覧会 骨格標本が灰色の空を見つめる展覧会を主催したアーティストその人だった
追記・彼女は悪意の人ではない
2021.05.05
作品データ
コメント数 : 14
P V 数 : 2057.5
お気に入り数: 6
投票数 : 4
ポイント数 : 60
作成日時 2021-05-05
コメント日時 2021-05-12
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 16 | 16 |
前衛性 | 10 | 10 |
可読性 | 6 | 6 |
エンタメ | 1 | 1 |
技巧 | 11 | 11 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 16 | 16 |
総合ポイント | 60 | 60 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 8 | 8 |
前衛性 | 5 | 5 |
可読性 | 3 | 3 |
エンタメ | 0.5 | 0.5 |
技巧 | 5.5 | 5.5 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 8 | 8 |
総合 | 30 | 30 |
閲覧指数:2057.5
2024/11/21 23時03分59秒現在
※ポイントを入れるにはログインが必要です
※自作品にはポイントを入れられません。
お洒落で元気の出る詩です。有難う御座います。
1てんまさん、コメントありがとうごさいます。元気が出ましたか。良かったです。元気が出る要素は後日談の前までだと思うのですが、総合的に見ても元気が出たのなら意外ですし面白いなと感じました。
0返信失礼します。 皆を拝読致し元気が出た、というか勇気が震えました。
0「羨ましいんじゃない?」という問いかけが、なぜか悲しい出来事を感じさせずにむしろ前向きな印象を受けました。感覚で申し訳ないですが、表現をする人間の光と闇を見れたような気がしました。
1骨格標本と写実的に描かれたゴッホのひまわりの対比がとても美しいです。 研究室という、一見関わりの無さそうな分野のものが美術館のモチーフとされているところが好きです。 >ピアノの鍵盤の上には卵が配列され この表現はとても面白いですね。思い切り弾いてピアノの周りをグチャグチャにしたくなりました。 暗い、苦しいイメージの美術館でふと横切るアジア系の美女との対比も素敵です。 何となく洋風のイメージで読み進めていましたが、アーティストステートメントに記されている「即身仏」。 強烈でかつ和風なイメージではありますが、この詩にとてもインパクトを与えていると思います。 >看板を押しのけて というところから、この美術館に入った少年の心の中の苦しみに満ちている様子、「もうこれ以上は耐えられない」という心情がうかがえます。 写実的に描かれたゴッホのひまわりに心洗われた少年と、自死してしまった主催者。双方に何かが入れ替わったのか、それとも、骨格標本は主催者自身のもので、少年に光を与えるために開いた展覧会だったのか。。 色々と想像が楽しめる詩でした。ありがとうございます。
初めてまして、こんにちは。 何回読み返しても難しくて、謎解きのようだから楽しい作品だと思いました。 想像力のトレーニングのような。 (未だに未解決なんです。。。) 最期は敢えて遺書を残したり、線と点が繋がらない凝った細工の様な表現は主催者側の方が意図的にしたものではないかと。 事件現場のダイイング・メッセージにも私は捉えました。 美しさとゾッとする対比が何とも言えません。色で言うと、群青と黒を混ぜた感じ。 それを影にした感じです? 日本語の表現が苦手なもので、失礼しました。余談ですが、ゴッホのひわまりの何枚目が好きですか? 好きな絵の一枚なので、気になりました! ちょーぶん、しつれいいたします☆
0てんまさん再度コメントありがとうございます。勇気が震えるという表現はこの詩の底、根っこにある部分に届く言葉ですのでとても嬉しいです。ありがとうございました。
0おとなのふりさん、コメントありがとうございます。創作者の光と影は描きたかった部分でもあるのでお言葉嬉しいです。また「羨ましいんじゃない?」という叔父の妻の言葉はこの詩の筆者の心の闇に迫る言葉ですので、肝ですね、この作品の。着目してもらえてこの詩はある程度の成功を見たんだなと実感しています。引き継がれていく何がしかが描けたのだなと満足もしています。
1もこさん、コメントありがとうございます。詳細に渡る分析嬉しいです。即身仏というワードは恐らく以前の僕からは出てこなかったであろう言葉なので着目してもらえてこの詩の舵取りが上手くいったんだなと納得もしています。ショッキングですよね。即身仏がアーティストステートメントにあるというのは。また同時にそのような顕示をしてしまう叔父(アーティスト)が自死を選ばざるを得ないという点がこの詩に奥行きをもたらし、また事実の一つを突いていると思います。初めは少年の再生の詩だったんですよ、この詩は。それでは物足りないと僕の何かが訴えたので後日談を添えました。上手くいったと思います。
0mimiさん、初めまして。コメントありがとうございます。事件現場のダイイングメッセージというのは僕自身想定はしていなかった着想ですので、この詩に更なる深みをもたらしてくれています。ありがとうございます。ゴッホのひまわり。僕は15輪のひまわりが好きですね。オーソドックスですが。ちなみにご存知かもしれませんがゴッホがなぜあのような作風になったかという謎を紐解く一説として、ゴッホには実際世界があのように見えていたのだという説があるそうです。神経症的な何かが影響しているのでしょうか。僕はその認知、ゴッホの苦悩と煩悶、を抜けた場所としてゴッホのひまわりと同じ構図の写実的なひまわりをモチーフに使いました。なかなか良かったのではないかと思います。こちらこそ長文失礼しました。
1不思議なテイストの詩です。深入りは避けますが、頭蓋だけがもぎ取られた恐竜の化石が印象的でした。
0エイクピアさん、コメントありがとうございます。深入り。避けた方が賢明かもしれません。この詩はクリエイティブな世界に行ってしまった人、とクリエイティブな世界に来てしまった人を描いていますから。その場所に来て幸せかどうかは本当に分かりません。不思議なテイスト。ありがとうございます。
0こんにちは。幻想を写実的に描き出している詩に感じます。美しい。 詩に世界観を与えるのが幻想だとすれば、写実は読み手に対し”印象”を与えるのが仕事です。 stereotype2085さんの詩には、歴史のような重み、説得力を感じます。それは本来曖昧なはずの幻想に、しっかりとした背景をイメージされていて、しかし決して”現実的”ではない。現実的ではないが、幻想に誠実な写実をしている。ので、輪郭のはっきりとした美しい幻想の世界を表現されているんだな、と考えました。写実すべき箇所と、曖昧でいるべき箇所を、よく考えていらっしゃるんだなと思います。 とても勉強になりました。
2mokurenさん、コメントありがとうございます。僕の詩に歴史のような重み、説得力を感じていただけたのは嬉しい限りです。幻想と現実という点でいうと元々この詩は少年の再生を描いた時点で終わっていたのです。つまり幻想までですね。そのあとアーティストである叔父の自死で現実を露わに描いている。この詩は幻想と現実が上手い具合に交差して落とし所も綺麗に仕上がったのではと思います。(どう描写わけするか)よく考えてらっしゃるという言葉は過分にも感じて面映いですが、確かにそういうところもあるよなあと妙に納得してしまいました。ありがとうございました。
1