女は右耳にピアスをつけていた
紫色が鮮やかで揺れるアメジスト
ピアスは髪の毛で隠されて
決して他人に見られることはなかった
そのピアスは女がかつて若い頃
母から誕生日に貰ったものだった
美しく光に反射する神秘色
女はその色に虜になって喜んでつけた
そして、女が大人になった時
女は母に全てを否定された
今まで生きてきたこと
「どうしてきちんと生きられないのか?」
「どうして品格が無いのか?」
女は問い詰められたが故
希望と絶望をアメジストに込めて
片方は宝石箱へ
もう片方は右耳に
女は右耳にだけピアスをつけることにした
そしてよく他人に褒められたアメジストは
誰からも忘れられた
女だけがアメジストを憶えていた
女はシャワーを浴びながら
鏡に映る自分を
そして、髪をかき上げて
右耳のアメジストを見詰める
あの日の悲しさの色を忘れないように
今までの自分の生き方を否定された
その日の虚しさの色を忘れないように
ある時、女は男と出会った
男と女は互いに希望と絶望を抱えていて
まるで鏡写しのようだった
いつしかその鏡に映る自分のような
そんな人間に興味を持ち
互いに絡み、貪り愛し合った
虚しさを光色で埋め尽くすように
その時、女の右耳からピアスがころんと落ちた
女は慌ててピアスを拾おうとした
「もっとわがままになっていいんだよ」
「自分の人生なんだからさ」
男は女の手を止めて優しく告げた
女はその台詞で本当の自分の色を思い出した
それ以来、女はピアスをつけるのをやめた
そして宝石箱に眠るアメジストを眺めて
宝石箱のオルゴールを鳴らす
子守唄を歌うように流れる
ドビュッシーの月の光
「どうか、おやすみなさい」
女は静かに囁いた
宝石箱を閉じた時
「私を愛してくれてありがとう」
そんな声が聴こえた
その意味を理解した女は
やっと涙を流せるようになった
アメジストは今日も静かに眠る
作品データ
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作成日時 2021-04-11
コメント日時 2021-04-12
#現代詩
#縦書き
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 2 | 2 |
| 平均値 | 中央値 |
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 0 | 0 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 0 | 0 |
音韻 | 0 | 0 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 2 | 2 |
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2024/11/21 23時28分02秒現在
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補足 アメジストは紫の天然石または宝石として知られており2月の誕生日石として有名です。濃い色をしているほど価値が高いと言わられており、高貴なイメージの宝石とされているそうです。
0女性がトラウマから解放されるささやかなショートショートですよね。もっとわがままになっていいんだよって台詞、男性が解放を促す瞬間だと思うんですけど、このチープな台詞を救済として「錯覚」するぐらい恋愛って私的なもので私的なものだから他人からすればどうでもいい救済ごっこになっちゃうわけなんですけど、ショートショートストーリーとしては表層だけのこの作品のプロット感って仕方ないんじゃなかろうかって思いました。作者さんもその表層以上の何かを表そうとはされていないような、満足感みたいなものも感じましたね。
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