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柔らかい繭
シャープペンシルの先を、あなたの白い肌に這わせてあげたい。上下左右に満遍なく。滞りなく、優雅に。難解な迷路を潜りぬけるように、嘘偽りなく。真剣な眼差しごと、夏の生臭さい透明な針で突き刺して。わたしのまだ短い生命線でつないで、強く結んで、玉どめ玉結び。あどけないそのおおきな瞳、少したれ目ぎみな瞼が眠たそうに重たく見据える世界はわたしと同じで、どうせ理由もなく、突然に人が死ぬんでしょう? あなただって、一言の断りもいれずに、図書館の本も借りたまんまで、いなくなってしまうんでしょう。わたし、こわくないんです。そんなこと、みんなが同じアーティストの同じ音楽がすきだったり、同じドラマの同じシーンで泣いたりするのとくらべれば全然。ちっとも平和じゃないこの空間にだって、夏は草木が生い茂り、冬にはそれがさっぱりなくなることくらい、平気なんです。そう、わたしは正気じゃないんです。もっと普通に「普通」でいられたら、きっと楽しくないけど、汚れなくてすむらしいし、いたい思いをしなくてすむんでしょう。そんなの気持ちよくないけど、ハレンチじゃない。ロマンスもない。泥を踏んだローファーみたいに滑りやすいけど、すきなんです。それでいいんです。たとえば、油だまりにうかぶ虹の偽物が綺麗だとか、小さなこどものまっ黒な目が犬みたいでこわいとか、変態すぎるあの男の子のだれにも言えない秘密を知っても、わたしは知らんぷりして話せない。そんな些細なわたしさえだれも見つけてくれないから、愛してるんです。わたし──は、【わたしは月の裏側】 いつか飼ってる金魚が死んで、庭に埋めたときみたいに、あなたのつめたい指を噛みたい。強く、強く、歯型が赤くのこるまで。わたしは異常だから、少しだけ正常なふりして。でも、だいぶ頭がおかしいから、淀みなく、澄んだ一重で、あなたの敏感な反応を楽しみたいって思ってます。季節が心臓のリズムに合わせて、わたしは今だけこうしていたい。いつか、どうせ、大人になるなら、死にたい、って感じていたい。プールサイド、ブルーベルベット。ほたるの光とネオンサイン。合わせ鏡に映るわたしたちの普通じゃない「普通」のあられもないきらめき。またたき。まばたきのたびに揺れるまつげのその動き。あなたの吐息が亜麻糸になって、繭をつくって、そこにいまを閉じこめて。わたしごと、あなたの中のわたしごと、あなたごと。まるごと
柔らかい繭 ポイントセクション
作品データ
P V 数 : 1084.5
お気に入り数: 0
投票数 : 1
ポイント数 : 8
作成日時 2021-03-28
コメント日時 2021-04-01
項目 | 全期間(2024/11/21現在) | 投稿後10日間 |
---|---|---|
叙情性 | 1 | 1 |
前衛性 | 2 | 2 |
可読性 | 1 | 1 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 3 | 3 |
音韻 | 1 | 1 |
構成 | 0 | 0 |
総合ポイント | 8 | 8 |
平均値 | 中央値 | |
---|---|---|
叙情性 | 0.5 | 0.5 |
前衛性 | 1 | 1 |
可読性 | 0.5 | 0.5 |
エンタメ | 0 | 0 |
技巧 | 1.5 | 1.5 |
音韻 | 0.5 | 0.5 |
構成 | 0 | 0 |
総合 | 4 | 4 |
※自作品にはポイントを入れられません。
- 作品に書かれた推薦文
投票したいと思いました。私にしては比較的早い投票だと思います。今までは全体の動向に合わせて投票して居ました。勿論読んだうえでの判断ですが、今回は先回りするかのように投票させていただきます。告白体の詩のようにも感じました。小説と言われてもそれで通るのではないでしょうか。単なる愚痴とも違う、詩に小説に昇華する方法が模索されている様でした。
0直接的な描写もあるし、展開の読めなさから感じ取ることはできますが、身体部分を散りばめて書くことで官能を、ほぼ改行されない構成が狂気を尚更強く描いていて強烈ですね。 「虹の偽物」は面白い書き方だなぁとふと目に止まった箇所でした。
0同じアーティストの同じ音楽がすきだったり、同じドラマの同じシーンで泣いたりすることって、ありますよね。
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